第1162話  やっぱり

 こんこんこん!

「トールさまー! 何してるんですかー---!?」

 トールの寝室前の廊下では、ミレーラ、マチルダ、イネス、ナディア、アーデ、アーム、アーフェン、そして数多の妖精で溢れかえっていた。

 そして、全員が寝室の扉をノックしまくる。

 湖畔の邸の静かな夜を、見事なまでの力業でぶち壊す女性陣。

「これはきっと何か良からぬことが行われているのかもしれません」

 薄暗い廊下でわちゃわちゃしている女性陣の、誰の言葉であるかは不明だか、これでさらにヒートアップする廊下の面々。

「そう言えば、ミヤちゃんとヒナちゃんを、いつでも呼べるのですよね?」

 それは誰のつぶやきだったのだろうか

 すわっ、まさかあの男は、幼女にまで手を出すのか!? 

 この場に居合わせた面々の表情は、何故か怒りに燃えていた。

 幼女に手を出すのであれば、もっと私に(&私も)手を出してください! 

 怒りに燃えている面々の心の声だ。


 こうしてはいられない、緊急事態だ! っと、全員で鍵を壊すべくとびかかった。

 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ…どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…。


 これほどまでに激しく扉を叩き揺すっているにもかかわらず、一向に中からは応答がない。

「まさか…幼女に夢中で、この音が耳に入っていない!?」

 またまた誰かが火に油を注ぐような事を呟くと、もう止めようがないほどにヒートアップ。

「こうなったら最後の手段です。扉の隙間から極薄の結界で中の鍵を切断します!」

 多分、ナディアがそう言ったのだろう。

 誰もが結界にそんな使い方があるなど思いもしなかった。

 扉の前に歩み進んだナディアが、扉の上の隙間に結界を薄く縦に差し込み、「シッ!」っと、掛け声とともに振り落とした。

『おぉー!』

 全員が感嘆の声を上げたが…、

「駄目です。どうやら扉の向こうが結界で守られている様です…」

 どうやら切ることは出来なかったようだ。 

「こうなったら、私達も強硬手段を取らねばなりません。よろしいですね、ミレーラさん、イネスさん」

 マチルダがそう言って2人に視線を向けると、薄暗いせいではっきりとは見えないが、こくりと二人が頷いた気がした。

「では、行きましょう…『ジェムファイター、ゴー!』」

 その掛け声とともに、ミレーラ、マチルダ、イネスが眩く輝き、変身をした。

「二人とも、全力全開でぶち破りますわよ!」「「おー-!」」

 言うが早いか、3人が全力で扉を殴り蹴りまくった。

 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…どっかーーーん!

 3人の馬鹿力…もとい、情熱に破れた寝室の扉君は、哀れ木っ端みじんになって、その生を終えた。


 トールの寝室に一斉に雪崩れ込んだ女性陣。

 彼女達が目にしたのは、巨大なベッドの奥の端っこで、妙に姿勢よく眠るトールだった。

 廊下での騒動や、扉ガチャガチャドンドンが結界で聞こえなかったのはまあいい。

 いや、結界を使えないトールが結界を張っていた事は、明らかにアウトではあるが、今は目を瞑ろう。

 しかし、こんなに一気に女性陣が雪崩れ込んできて、その音や気配に気づかずに眠るなどありえない。

 しかも、妙に姿勢よく胸で手を組んだりして眠る? そんな姿を、嫁ーずでも目にしたことは無い。

「これは起きてますね?」「狸寝入り」「嘘寝」

 変身した嫁ーず3人に、そんなトールのごまかしは通用しない。

『おきなさ---い! このペド野郎ー--!』

 だが、この叫びにはトールも断固として抗議せねばならない。

「誰がペドだー----!」

 がばっとベッドから起き上がり、雪崩れ込んできた女性陣に向かって叫んだ。

『やっぱり起きてた!』

 だが、それは墓穴を掘る行為であったそうな。


 その晩は、非常に遅くまでトールは女性陣に責め立てられ、長時間にわたって正座で必死に言い訳をしたそうな。

 めでたしめでたし。


「全然、めでたくなんか、ねー--わ!!」

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