第1161話  間一髪

 俺の寝室は、この世界ではあり得ない程に、がっつりと防音対策をしている。

 何のためかって? そりゃぁ…嫁が5人もいるんだからごにょごにょ…ってわけだよ!

 だけど、それは完全に音を遮断できる程では無い。

 完全に内外の音が聞こえなくなってしまうと、何か問題が起こった時に対応が遅れるからだ。

 今回は、サラが秘密の話をするため、この防音た柵が施された部屋に、さらにシールドを張って対策していたらしい。

 具体的には、主に弧の寝室への出入り口である扉に。

 今、俺はそちらを見てしまった。

 そして、身の毛もよだつ恐ろしいものを…見てはいけないものを見てしまった…。


 とある部分では一切の音が響か無くなっている。

 だが、透明なシールドのおかげで、様子はよく見えるのだ。

 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ…。

 そんな音が聞こえそうな程に、寝室の出入り口の扉が揺れている。

 いや、扉に複数取り付けられた南京錠っぽい鍵が揺れまくっている。

 しかも、どう見ても、どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…っと、扉を叩きまくっている揺れも。

 

「お、大河さん…あれ…」

 サラも俺の視線を追って扉を目にした瞬間、顔面真っ青になり、戦慄きながら扉を指さした。

「…やぶぁい! ひっじょーにやぶぁいぞ!」

 今の今までサラ弄りを楽しんで…いや、真剣に話をしていたせいで気付かなかったが、誰かがこの部屋に押し入ろうとしている。

 一体誰が? って、そんなの決まっている!

「まさか、奥様達が…? いえ、でもこの部屋って、秘密通路が会ったはずだから、いつでも侵入できますよ…ね?」

「いや、そんな通路とか出入り口は、徹底的に潰してる…」

 だから、妖精達の協力で内側から鍵を開けて嫁ーずは侵入してくるのだ。

「それじゃ…やっぱりあれって奥様達…?」

「…それと妖精達だろうな…」

 背筋にいや~な汗がだらだら流れた。

「こんな夜更けに私がここにいるって事を、皆が知ったら…?」

「即座に寿命が途切れるんじゃね? いや、それは俺もか…」

 ぶるぶるがくがくぶるぶるがくがく…俺とサラは、嫁ーずが突入して来た時を想像し、体の芯から震えた。

『あなた、何で震えてるの?』『寒いの? 暖めてあげようか?』

 両腕にくっ付いているミヤとヒナも、俺の震えに気付いて目を覚ました様だが、いまいち状況を理解できずに意味不明な事を言いながら、俺の両腕にぎゅっとくっ付いて来た。

 うん、この変身スーツの体温調整は完璧なんで寒くはありませんよ?

「どどどどどどどどどどどどうしましょう!?」「どどっどどどどおどどどおおおおどすりゃいいんだべ!?」

 焦りまくる俺とサラ。

『ダーリン、敵だっちゃ?』『ワイ」、やったるで!』

 ヒナにミヤや、君達はどこぞのナイスバディ鬼っ娘&ジャリ鬼っ子ですか?


 あ、そうだ!

「ミヤ、ヒナ! お前達って、俺が居なくても空って飛べるよな?」

『『ん? 飛べるだっちゃ!』』

 いや、そのネタはもう良いから。

「だったら、そこの窓からサラを地面まで連れてってくれないか?」

 ここは2階なんだが、前世で住んでたアパートと比較すると、多分4階ぐらいの高さはある。

 なので、結構地面は遠いのだ。

『『窓からポイってしたら良いんじゃね?』』

 ミヤとヒナの冷たい視線&お言葉頂きました。

「そんなことされたら、奥様達に見つかる前に寿命が尽きます!」

 うん、サラの泣きは当然かもしれない。

「そう言わず、安全に地面に立てる様にしてやってくれ。もしも窓の下にサラが潰れたカエルみたいになってるのが見つかったら、俺の命もやぶぁいのだ」

 絶対に用済みの愛人を窓から捨てた鬼畜と思われるよね? いや、そうは思わんかもしれんけど、それでもだ。

『『ご褒美くれるなら考える』』

 こいつら、何時の間にこんな交渉テクニックを…。

「わかった、高級クッキーを腹いっぱいで」

 下手に何でもとか言ったら、それはそれで危険な気がする。

『今回はそれで手を打つ』『次は無い』

 怖いよ、お前等…。


 そんなこんなで、取りあえず窓からサラを両脇からがっしり抱えたヒナとミヤが飛び出した。

 階下は夜なのではっきりとは見えないが、無事に着地した様だ。

 そして微かに聞こえるサラの走り去る足音&『『ただいまー!』』っと戻って来たミヤとヒナ。

 ほぼ同時に、サラが張っていたシールドが消え去った。

 シールドが消え去れば、当然の事だが色んな音が復活する。

 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん…どっかーーーん!  

 そして、圧力に耐えかねた俺の部屋の扉君と鍵君も、その短い一生(?)を終えた。


「やっべ! 2人共、お菓子は後だ! すぐに待機次元に!」

 俺が手を振ると同時にミヤとヒナは姿を消し、またまた時を同じくして部屋に嫁ーず3人と妖精達が雪崩れこんできた。

 間一髪せーーーふ!

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