第1114話 夜の湖畔で…
まあ、このお馬鹿が何かやらかしたせいで、私も管理局から爪弾きにされたのでしょうねぇ。
一体、この馬鹿サラは何を仕出かしたんだか…。
床にクッキーの欠片を盛大にまき散らしながらも、大皿を抱え込んで次々とクッキーを口に放り込むサラを見ながら、リリアは現在自分が置かれている状況の原因が何かを考えていた。
ぶっちゃけ、現在管理局にアクセス出来な状況は、サラのせいでもなければリリアのせいでもない。
そんな事は知る由もないリリアは、自分に非など無いと考えていたため、全ての元凶はサラにあると信じて疑わなかった。
なので、リリアがサラを見る目は、まるで汚物を見るかのようであった。
クッキーを夢中で頬張るサラは、そんなリリアの視線を、自分の抱えるクッキーを狙っている目だと思ったのか、隠す様に大皿を更に深く抱え込み、1つも取られてなるものかとばかりに、口に入れるスピードを上げていた。
風もない過ごしやすい夜の湖畔、1人の男が腰かけるに丁度いい岩に座って湖を眺めていた。
「ふぅ…」
ヴァルナルは、自分の部下達が村人達と飲めや歌えの大騒ぎをしている輪から外れ、1人湖の畔でワインを飲んでいたのだ。
さざ波1つない湖面は、背後で盛大にの燃えあがる焚火の明かりをチラチラと反射し、なかなか風流である。
遠くに聞こえる騒ぎ声も、そう耳障りというわけでもなく、木製のジョッキに並々と注いで来たワインのあてには丁度いい。
自宅ではワインをこんな大きなジョッキに入れて飲むような事は絶対にしない。
ウルリーカやコルネリアがそれを許さないから…でもある。
だが、元々ヴァルナルは平民出身。
若かりし頃は、酒場で仲間の兵士や騎士達とこうしてジョッキで下品に酒を飲み、酔って潰れた日々もあった。
そんな懐かしい昔を思い出しながら、ちびちびとワインを飲んでいた。
そんなヴァルナルに、1人の男が背後から声を掛けて来た。
「閣下、こんな所におられたのですね」
声を掛けてきたのは、ヴァルナルの補佐的な立場の騎士で、名をブラウリオ・デ・アリケス。
男爵位を数年前に綬爵した、ヴァルナルより数歳若い騎士だ。
「ああ、プラウリオ卿か。どうした、皆と騒がんのか?」
「私がああいった若者の輪に入ると、皆嫌がるでしょう」
ブラウリオ男爵は、自嘲気味に笑うと、ヴァルナルのすぐ近くに腰を下ろした。
手には、しっかりとジョッキが握られている。
「確かにな。それでなくとも、私もああいった場は最近苦手だ…。歳をとったかな?」
薄暗い夜なので、湖へと顔を向けたヴァルナルの表情は逆光となり見えにくい物の、多大に自嘲を含む物言いは、ブラウリオ男爵の笑いを誘った。
「はっはっは! 閣下もそうですか。実は私も少々若い者達の勢いには付いていけませんでな…」
今回、ヴァルナルの指揮する調査団に志願した騎士や兵士100名は男女ともに独身者がほとんどだ。
この調査団の中で結婚している者は、実は数名しか居ない。
1人は言わずもがな、このヴァルナルであり、数少ないもう1人は、このブラウリオ男爵だ。
「卿の所のお子さんは、そろそろ成人だとか?」
「ええ、来年ですな。閣下の所の御子息の様に優秀ではありませぬが…」
ブラウリオ男爵には息子が1人いるとは聞いていたし、成人間近だとも聞いていた。
静かな湖畔で中年男2人では話題もないことから、ヴァルナルが話をふったのだが、まさかトールヴァルドの話を振り返されるとは思ってなかった。
「そういえば、閣下は御子も生まれたとか。私どもも頑張ってはいるのですが、どうにも授かんのですわ」
この世界では、妊娠出産率が非常に低く、1家庭に子供が2人居れば多い方だ。
ましてや、女性が妊娠出来る適齢期が、14歳~30歳程度までと言われている。
なので、30代後半に差し掛かったウルリーカが妊娠し出産するなど、かなり珍しい事なのである。
「ああ、先ごろ生まれたが…。やはり可愛いものだな、子供とは…。そう言えば、息子の嫁も子を身籠ったそうでな。我が子と歳の変わらない歳の孫まで来年には産まれそうだ」
「良いですなぁ…。我が家の息子も、早く所帯を持って孫を見せて欲しいものです」
年若い隊員を率いりる中年男は、小さく笑うと静かにジョッキを傾けた。
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