第1113話  この馬鹿が問題

 色々と…本当に色々とあったが、何とかヒナとミヤという幼女2人は、我が家に迎え入れられる事となった。

 ミヤは元々迎え入れられてた気もするけど、まあそこは良いか。

 そして、俺が留守中にコルネちゃんが頑張ってくれた執務だが、きっちり俺のサインが必要な書類だけが残されていた。

 帰宅した翌日は、ただひたすらに積み上がった書類にサインをしまくりましたとも!

 とは言っても、面倒な領地関連の書類や、俺のアルテアン商会に関する書類なども、しっかりと母さん主導で捌いてくれてたので、そう残された仕事は多くない。

 あのコルネちゃんが成長したもんだなあぁ…しみじみ感慨深い。


 俺が必死に書類にサインをしている間、執務室の窓辺にはミヤとヒナが並んで日向ぼっこをしていた。

 2人共普段は着けていない銀ピカなカチューシャを頭に装着している。

 2人は、ただ黙って目を瞑ったまま、日向ぼっこをしているだけ。

 最初、並んでぽへ~っと床に女の子座りしている2人が気になって、「何してるの?」と訊ねたところ、エネルギー補給だという。

 エネルギー補給って、俺の指をちゅぱちゅぱと吸うんじゃなかったっけ?

 そう思った俺は、モフリーナへと通信して確認してみると、意外な事が判った。

 モフリーナの言によると、どうやら二人は太陽光で肉体の…つまりは生命維持活動に必要なエネルギーを補充できるらしい。

 無論、飲食でもある程度のエネルギー補給は可能らしいのだが、それ以上に太陽光の方が効率が良いとか。

 光合成? いやいや、それなら何で俺の指をちゅぱちゅぱと吸ったんだ?

 そう疑問に感じたのだが、どうやらあれは戦闘時に必要なエネルギーの補充だとか。

 もちろん、最初に起動させる時にも多大なエネルギーが必要らしく、俺の指をちゅぱちゅぱ吸ってたそうだが、本来であれば戦闘時に必要とされるエネルギーを摂取するためだとか。

 魂のエネルギーって、一体何なのだろうか…めっちゃ不思議だ。

 そんなわけで、起動も無事に終わって、特に戦闘の予定もない現在。

 2人は生命活動維持のためのエネルギー補給中なんだと。

 俺には日当たりのいい窓辺に仲良く並んでお昼寝している様にしか見えないのだけど、そういう事らしい。

 ほのぼのとした幼女の日向ぼっこを横目に、俺は残る書類の山を切り崩すのであった。



 夜の湖畔の村は、連日大宴会絶賛開催中であった。

 トールが見たら、どこのキャンプファイヤーだ! っとツッコミを入れそうなほど、太い薪を井桁に高く組んだ焚火を中心に、貧相な服装の村人たちと、鎧を脱いだ兵士や騎士達が木製のジョッキで酒をあおり、ヴァルナル達が持ち込んでいた食料をこれでもかと大盤振る舞いし、飲めや歌えの大騒ぎに。

 そんな光景を湖に浮かぶホワイト・オルター号のキャビンの窓から、サラとリリアはぼうへっと眺めていた。

「あっちは楽しそうですねぇ…」

「ええ」

「リリアはお腹空かないっすか?」

「別に」

「まあ、別にこの身体は物を食べる必要ないっすけど…あんなの見たら、お腹すくじゃないですか?」

「へぇ~」

「何か食べない?」

「要らない」

 あまりにも静かすぎるこのキャビンの空気感に堪えられなくなったサラが、一生懸命にリリアに話しかけていた。

 そんなサラの努力など、リリアにはそれこそ空気の様に流されるだけだった。

「リリア…もしかして、局長の事考えてる?」

 そんなリリアの様子を見ていれば、いかにお馬鹿なサラであっても思う所はある。 

「ええ、まぁ…」

 リリアが考えていた事…それは、何故管理局が…いや、局長がいきなり自分を切り捨てたのかという事。

 何度考えても、リリア自身、己に落ち度があった様には感じられない。

 また、局長の計画が大幅に狂った様にも感じられなかった。

 考えられる落ち度といえば、それはうっかりお馬鹿なサラの行動ぐらいなものだ。

 サラは馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、リリアにもサラの行動の何が局長の怒りに触れたのかが分からない。

 それが分からない事には、現在の管理局と連絡が取れない状況を打破する方法も見えてこない。

「はぁ…何が問題なのでしょうねぇ…」

 大きなため息を吐き出しながら、リリアがぽつりと呟いた。

 その横ではどこから持ってきたのか、サラが大皿に乗せたクッキーの山を両手でつかんでは口に次々と放り込み続け、まるでリスの様に頬が膨らんでいた。

「この馬鹿が問題なんでしょうけれどねぇ…はぁ~~~~~~」

 頬をクッキーでパンパンに膨らませたサラを見たリリアは、更に大きなため息をつくのだった。 

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