第1112話  普通よねぇ…

 見渡す限り真っ白な空間で、光に包まれた何者かが何か考え事をしていた。

『ふ~む…最近何かを忘れている様な…』 

 どうやら顎に手を当てている様にも見えるのだが、如何せん光に包まれているため、その姿はぼんやりとしか分からない。

『まあ、大事な事なら忘れないはずだから、思い出せないってのは大した事じゃないんだろう』

 光りに包まれた者の悩みは、どうやら一瞬で解決した様だ。

『あれじゃないのか、あの現地に派遣している2人の事』

 真っ白な空間に、光に包まれた何者かがもう1人増え、先に居た物へと声を掛ける。

『ん? ああ、あの2人の事か。まあ、特に連絡も無いから、放っておいても大丈夫だろう』

 せっかく忘れているであろう事を教えたにもかかわらず、先にこの場に居た者は、どうでも良い事だと言う。

『まあ、便りがないのは元気な証拠とも言うけれど…別に俺達は手紙なんて書かないんだから、連絡ぐらいしてみれば?』

『何で私がせねばならんのだ? ま、何かあったら連絡してくるだろうから、このままで良いよ』

 この時、この光に包まれた者が連絡を取っていれば、先々の展開も変わったかもしれない。

『そう…だな。それで、今は何をしようと?』

『うむ、良くぞ聞いてくれた! 素晴らしいアイディアが浮かんでな? 今から新しい宇宙を作ろうと…………』

 何やら自慢気に自分の思いついた考えを、長々と語り始めた。

 それに適当に相槌を打ちながら、後からやって来た光に包まれた者は、内心でほくそ笑んでいた。

 こいつ、どうやら俺のやっている事に気が付いてないらしいな…っと。 

 やがて一通り自慢話をし終わると、光に包まれた2人は揃ってこの真っ白な空間から姿を消したのだった。


「それで、トールちゃん。ヒナちゃんの力はもう試したの?」

 漸く俺のロリコン疑惑が解けた応接室で、母さんが真面目な顔でそう声を掛けて来た。

 現在は、女性陣がヒナ&ミヤを囲んでお茶会を始めていた。

 ヒナもミヤは、飲食が出来ないというわけでは無く、する必要がないだけなので、こうしてお茶に付き合う事も出来るのだ。

 そんな女性陣の輪の端っこで、俺はユズキと肩身の狭い思いをしながらお茶を啜っていた所だ。

「ん? いや、まだ確かめては無いけれど、ミヤで性能が凄い事は知ってるからなあ…。同じ仕様だとボーディも言ってたし」

 以前試した時、ミヤの性能がずば抜けている事は確認している。

 そのミヤと同棲能だと言うヒナの能力を、改めてテストする必要など無いだろう。 

「同じ仕様ねぇ…。もしも2人同時に装備したりしたら、どうなるのかしら?」

 エド君を抱き直しながら、母さんが小首を傾げた。


 確かにそれは気になる。

 というか、パンゲア大陸でヒナをダンジョンマスター達から受け取った時に、俺も同じ事を考えていた。

 ミヤの特殊装備は、別次元から取り出して背負うランドセルとか巨大な銃。

 それを装着した上で、俺に負ぶさって合体する。

 ヒナも同性能…と言うか、同じ装備なんだとしたら、やっぱり俺が背負うんだろうか?

 背負うにしても、2人同時に使うとなったら、親亀の上に子亀を乗せて…更に孫亀も背負う形?

 それとも抱っこの形になるんだろうか?

 どっちにしても、おかしな形になる事は間違いない。

 一瞬で大量の海水を蒸発させた巨大な砲撃がもう1門増えるのは心強いのだが、同時に使用は難しいんじゃなかろうか。

 そう言えば、その辺をボーディに聞くのを忘れてたな。

「トールちゃん、どうしたの?」

 俺が黙って考え込んでいたからか、母さんが心配そうな顔で声を掛けて来た。

「あ、いや…。2人を同時にってところで考え込んじゃってね。まあ、1人がエネルギー切れになったら、もう1人と交代するって感じで使う事になりそうだね、今のところ…」

 使用上の注意点や適切な使用法が書かれた物なんて貰ってないんだから、こういう風に使うのがベストなんじゃないだろうか。

「交代ねぇ。それじゃ普通よねぇ…」

 母さん、普通の何がいけないんでしょうか? 俺的には、普通が一番良いと感じるんですけど?

「面白くないわねぇ…」

 いや、母さん喜ばすネタを提供するために、俺が犠牲になるのなんてまっぴら御免だぞ? 

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