第1094話  危険は棄権

「ミヤ、我儘はいけません。大人しく待機モードへと移行するのです」

 ミヤとヒナについてどうしようかと考えていると、なんとヒナがミヤへと説教を始めたでは無いか。

「だって…ご主人様と一緒がいいもん…」

 ミヤ君や、いつのまに俺の呼び方がご主人様になったのかね?

「駄目です。まずは、奥方様達と妖精達が身籠るのを待つのです」

「…いつになるのさ…」

 身籠るって、ヒナさんや…。ってか、妖精達が身籠るのをも待つつもりなのか?

 そんな時は、一生来ないと思うけど? 

「待機モードでは、我々の意識はその時点で一時停止します。次に目覚める時まで、我々の時間は止まったままです」

「おぉ!」

 陽なって、ミヤと違って、よくしゃべるよなぁ…これで同じ仕様なの?

「つまり、ご主人様達がこの世界で何年過ごそうが、私達には瞬きするほどの時間でしかないのです!」

「なるほど! 私達は若いまま…他は全員ババアになってる!?」

 おいおい、何を言い出すんだよミヤ…。

「その通りです! 流石は我が妹です!」

「当然だ…我が姉…」

 姉妹設定を強調してるのかな?


『ババア?』

 ところで、君達ここがどういう場なのか、忘れて無いかい?

『ちょ~っと私達とお話ししましょうか』

 俺とミヤ&ヒナを除く、この場にいた全員、つまりはメリル筆頭にした嫁ーずと、ナディア筆頭の妖精達、合計9人。

 彼女達がとてもいい笑顔で、何時の間にか傍までやって来て、声を揃えて2人に声を掛けた。

 その笑顔は、最強かつ無表情な兵器であるミヤ&ヒナの顔面を蒼白にするほどの、真っ黒なオーラを纏っていた。

 ほ~ら…怖いお姉さん達に取り囲まれたぞ…俺、知らね…。

 ヒナとミヤは、俺に助けを求める様に手を伸ばしていたのだが、俺はその手を取る事は無い!

 だって、我が家の女性陣を怒らせたらどうなるかなど、嫌という程に身をもって知っているから。

 だから、敢て切り捨てる! そもそも、失言は君達の口から自主的に出た言葉で、私は一切関知していません!

 必死に俺に手を伸ばし助けを求めるミヤ&ヒナは、畏れ多くも我が家の麗しき女性陣にズルズルと、この広いラウンジの隅っこへと引きずられて行った。

 俺達の宿泊部屋が中心にあるとはいえ、この円筒形の塔は無茶苦茶に広い。

 目を凝らさなければよく見えない様な所まで女性陣に引きずられて行った2人は、どうやら強烈なお説教を受けている様だ。

 非常に優れた照明器具が天井に埋め込まれているこのラウンジがある塔の層はとても明るいのだが、ヒナとミヤが説教を受けている場所だけ、めっちゃ暗い…というか、真っ黒い靄で覆われている…。

 恐ろしい…本当に恐ろしい。

 女性には、決して言ってはならない言葉があるという事を、俺は改めて心に刻んだ。

 2人の尊い犠牲によって。

 どうか、安らかに眠ってくれ…アーメン…。


 俺がぼんやりと夜景を眺めていると、わいわいと何者かが近付いて来る気配が…って、アルテアン家の女傑衆だよな。

 近づく気配に顔を向けると、ミルシェが元気よく手を振っていた。

 しかも、すごくいい笑顔で。

 あ、ヒナとミヤは、イネスが両手で2人の首根っこ掴んでズルズル引きずってた。

「トールさま~! この2人を、さっさと物置に放り込んじゃって下さ~い!」

 にこやかにそんな事を叫ぶミルシェ。

「当分は用無しですから、お片付けしてくださいね」

 マチルダも、実に良い笑顔だ。

 俺の前までやって来た一団は、全員が何故かとても晴れやかな笑顔。

 一体、どんな説教…もとい、話し合いがなされたのだろう?

 それを聞く勇気など俺に有りはしないのだが、ちょっとだけ内容が気になった…でも聞けないけど…。

「「……………」」

 ヒナとミヤを見ると、2人共白目になっており、口からエクトプラズムが出ていた…様に見えた。


 あまりの状態に、ちょっと俺は心配になった。

 無論、この2人の失言…発言を擁護するつもりはない! 絶対に、それだけは無い! だって、俺にとばっちりが来るから。 

 とは言え、このまま別次元へと待機させたらどうなるかと考えたら、ちょっと恐ろしい気がする。

 何故なら、別次元では二人の時間は止まったまま。

 このまま別次元送りにすると、次に呼び出した時って、このままの状態で出てくるって事になるんじゃね?

 必死に女性陣へと説明すると、全員が再召喚時には彼女達が最低な条件で来るという事に、やっと気付いてくれた。


 なので、取りあえず2人が目覚めるまで、このままの状態で放っておく事になった。

 俺が決めたんじゃないぞ、多数決だからな? この場にいる全員での多数決だ。

 投票権は、俺にもある! 1票だけなんだけど…。

 そういうわけで、圧倒的多数で2人の放置が決定したのだ。

 んじゃ、俺はどうすべきと投票したんだってか? 

 無論、投票権は不行使。

 変な意見を言ったり、女性陣に反対票を投じる等、とても危険だから棄権したに決まってるじゃん。

 駄洒落じゃないよ? 

 だって、本当に怖いんだもん…。



※ 別作品  妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫

       https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

      シスバグとは全く違う世界観をお楽しみいただけたら嬉しいです。 

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