第1093話  忘れてたよ…

 実は、俺は吸血族って種族を知らなかった。


 どうやら、俺達が住むこの王国の東北部の山中に住む、少数民族らしい。

 見た目には青白い肌に、赤い目と唇、あとは少々尖った耳が特徴ってだけで、その他は人族と変わりないとか。

 地球でよく知られているドラキュラとかバンパイアとかって恐れられてる吸血鬼とは、全く違う種族なんだそうだ。

 性格は温和で、別に人の生き血を啜ったり陽光やニンニクが嫌いという分けでも無く、ごく普通に生きているそうだ。

 まあ、銀の杭を心臓に打ち込まれたら誰だって死ぬだろうから、そこは参考にはならないかな。


 吸血族って名前の由来は、どうやら獲物の血を料理に良く使うらしく、彼等の料理は非常に赤黒くなるため、特に赤いスープを啜っている姿は、まるで動物の血を吸っているかのように見えるからだという。

 透ける様な肌の青白さに真っ赤な料理が異様に映えるため、初めて彼等と出会った昔の人達は、血を吸う種族…つまりは、吸血族だと呼んだのが始まりだとか。

 吸血族って呼び方は、彼等は特に差別的に感じてはいないんだって。

 むしろ、自分達の種族の食文化を尊重してくれている様に感じているとか。

 前世の地球の記憶を持っている身としては、どうにも違和感ありまくりなんだけど、俺の領地には魔族さんが居るぐらいなんだから、これはいわゆる価値観の違いって事なんだろう。


 んで、問題のヒナなんだが、どうやらこの吸血族をモデルに色調を調節したとの事。

 吸血族とは耳の形や微妙な肌や目の色の違いで、別の種族とわかるんだとか。

 ちなみに、俺が危惧していた様なアルビノ症の人種や動物は稀に聖国生まれるそうだが、健康上全く以上は見られないとか。

 ミレーラの話では、アーテリオス神国(旧真アーテリオス神聖国)では、そんな容姿の子供は神の子として教会が引き取って育てていたとか。

 そう言うと聞こえはいいが、つまりは協会が神の子を大事に育てているという体で、軟禁状態にしているだけらしい。

 年に4回ある教会の祭りの時だけお披露目されるとか…。

 教主も国名も変わった現在では完全に廃止された制度ではあるが、それでも先祖返りや神の子と呼ばれるのは変わっておらず、周囲の人々によって大事に育てられているんだって。

 まあ、問題に無ってないなら別にいいかな…うん。 


「それでは、妾達はこれで一旦失礼するぞ。例の場所にお主達の父君も到着したそうじゃしのぉ。少し様子を見てくる」

「あ、父さん達着いたのか」

 どうやら、父さん達は打ち合わせ通り、例の土地の向こうにある巨大な湖に着いたそうだ。

「うむ。コボルトの部隊から、今は村人達と飲めや歌えの大騒ぎをしているとか」

 何してんだよ、父さんは。

 いや、親睦を深める為には、それはそれでありなのか?

「まあ、お主の父君達が予定の期間滞在した後は、手筈通り村人たちはこちらに移住するがの」


 まだ俺は直接は見ていないが、緑豊かなのに不毛な土地だとか。

 緑豊かで不毛って、言ってて意味わからんよな? 

 だけど現実はそうらしいんだ。

 どうやら深い森はあっても、食用に出来る様な獣がほとんど住んでおらず、湖には魚介類も生息していない。

 森を切り拓こうにも、あまりにも1本1本が巨木で、切り倒す事も出来ない。

 仮に切り倒せたとしても、地中に深く広く太い根が張っていて、取り除く事が非常に困難。

 とどめに、その土地の地下30~50cm程の所は、一帯が溶岩や硬い岩盤で覆われているらしく、畑に出来ない。

 細々と豆類や芋類などを狭い土地で育てて生活しているとか。

 かなり可愛そうな人達なのだ。

 そりゃ、このパンゲア大陸をしれば、移住したくもなるよな。


「父さん達が適当に調査して帰った後は、速やかに移住を進めてくれ」

「うむ、もちろんじゃ。ではの」

 俺の言葉にうなずくと、ボーディ達は、来た時同様に空間に滲む様に溶け込む様に消えて行った。

 ま、ダンジョンのどこかに転移したんだろう。


「それで、この子達はどうするのですか?」

 俺の服の裾をちょんちょんと引っ張るメリル。

「この子達…?」

 そのメリルが目で指し示す先に居たのは、白と黒の双子の姉妹。

「このまま、また一緒に過ごすおつもりですか?」

 …そうだった、この2人の事を忘れてたよ…。



※ 別作品  妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫

       https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

      シスバグとは全く違う世界観をお楽しみいただけたら嬉しいです。 

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