第1080話 あと少し
「そうですね…取りあえず、帰ったら一度、彼に相談してみようなか…」
ぼんやりと外を眺めていたリリアが、不意にそう呟いた。
「ふぇ? いきなりリリア何を…? 彼って、大河さんの事ですか?」
その呟きを耳ざとく聞きつけたサラが、リリアにそう問うと、
「ええ、まあ…。彼なら私達の身体を何とかしてくれるんじゃないかと…」
流れる外の景色を見つめたままのリリアが答える。
「何とかって、何とか出来る物なんですかねぇ…?」
難所を越え、一面緑の絨毯に覆われた大地の上を飛ぶホワイト・オルター号の操縦桿を握っていたサラ。
確かに飛行船のオートパイロットも利かない初めての場所だけに、操縦席を離れる事は出来ないものの、高度にさえ気を付ければ特に気を張る必要もないので、リリアへと視線を向けてサラは疑問を投げかけた。
それを受けたリリアも、サラの側まで歩み寄り、話しを続ける。
「あのユリアーネちゃんのボディは、はっきり言って規格外です。我々のこのボディーよりも、かなり高性能な仕上がりです」
アルテアン家の末っ子であるユリアーネ。
実はもと恐怖の大王の欠片をその身に宿した転移者の魂を、ダンジョンマスター達が造りあげたボディーに移した幼女だ。
「それはそうですけど?」
「元のボディーから記憶の一部を改ざんしはしましたが、ほぼそのまま魂を移し替えました」
「それで?」
「もしかしたら、ダンジョンマスター達であれば、私達の意思体を移し替える素体を用意出来るかもしれません」
「おぉ! さすがリリアは天才ですね! 冴えてますね!」
つまりダンジョンマスター達であれば、現地活動用サイバネティックス・ボディの代わりを用意出来るのでは…と考えたのだ。
「いえ、多分誰でも考えつくと思いますが…」
自分を妙に褒め讃えるさらに呆れ顔だ。
「とはいえ、問題もあります…」
「問題?」
リリアの言葉に首を傾げるサラ。
「ええ。サラ…私と貴女の本来の所属は?」
「輪廻転生管理局ですけど?」
「ダンジョンマスター達は?」
「解放魂魄統轄庁…あっ!」
リリアの不安の元にやっと気が付いたサラ。
「そうです。本来であれば輪廻転生管理局の上位組織である、解放魂魄統轄庁所属のダンジョンマスターに、こんな事を頼むのはちょっと…」
「確かに確かに。別に私達が敵対してるわけじゃないっすけど、お願いし難いっすよねぇ…」
実はダンジョンマスターやアルテアン家一同には、すでに敵認定されているとは、彼女達は夢にも思ってなかった。
「でもでも、リリア。このままだと、近い将来私達の魂って、完全に消滅しちゃいますよ?」
「そうなんですよねぇ…」
友好関係と言うわけでも無いダンジョンマスター達が、果たして自分達の為に力を貸してくれるのか?
2人はそれを考えて、「はぁ…」と、揃って深いため息をつくのだった。
飛行船は、ナディア達によって最新版に改定された地図の巨大な真円の湖目指して、のんびり空を進んでいた。
空の上では何があるか分からない。
ましてや、始めて来た土地…空である。
飛行できる魔物や獣が居た所で、飛行船全周を囲むシールドで防げるとはいえ、それでも楽観はできない。
なので、こんな話をしながらも、操縦桿からは手を離さないサラと、警戒のため船窓から外を睨み続けるリリア。
そしてキャビンには、大勢の兵や騎士、そして大量の物資を乗せたホワイト・オルター号は、まっすぐに空を突き進んだ。
北へ、北へ…、ただただ真っすぐに。
「それで、調整はどうなりました?」
薄暗い明かりの中、モフリーナはモフレンダへと尋ねた。
「もう、終わる。あと少し」
相も変わらず、愛想の欠片も無いモフレンダ。
言葉は少ないとはいえ、その両手の指は忙しなくキーボードの様な物の上で動き回っていた。
「ふむ…。あまり外見からは変わった様には見えぬのぉ」
ボーディは、2人の前に設置されている、仄かに光を発している水槽の様な物の中に横たえられている幼女を見ていた。
水槽の中でには、一糸まとわぬ幼女が眠ったように目を閉じて漂っていた。
幼女は、呼吸を助ける様な器具も何も付けていない。
いや、そもそも呼吸などしていない。
生きていれば呼吸で少しは胸が上下もするはずなのだが、その様な動きは無い。
「外見は変えてない。あと、Mark.Ⅰも同じ仕様で調整した」
忙しなくキーボードの様な物の上で指を動かしていたモフレンダが、視線を一切動かす事無く、ボーディへと答える。
「「Mark.Ⅰも(じゃと)!?」」
照明など一切ない、悪の組織の秘密基地にある実験室の様な空間に、モフリーナとボーディの声が響き渡った。
※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版
https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790
旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました
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