第1079話  アクセス出来ない

 予定とは大分違うが、取りあえず調査隊の一行は、王国の北部に横たわる山脈を越える事に成功した。


 実は王国がこの山脈を越えた事が出来た者は、歴史上両手の指で数える程しか居ない…っという事になっている。

 ご存知の様に、ナディア達やクイーンの配下の蜂達は、地図作成や調査のためすでに2回は山脈越えをしているし、ダンジョン領域拡大によって、モフリーナ達3人のダンジョンマスターや、もふりん、カジマギー達も何度も山脈越をしている。

 正確には、ダンジョン関係者に関しては、山脈を越えたとは言い難いが、それでも山脈の向こうへ到達している。

 この山脈には、地球でいう所のエベレスト山の様なデスゾーンがあるわけでは無い。

 とは言っても、少なくとも富士山ほどの標高の山々が連なる連峰なのだから、地上よりもかなり空気は薄い。

 万年雪が積もっているわけでは無いがかなり気温も低く、山頂付近はほぼ切り立った崖に近い形状をしている事も登頂を難しくしている要因だ。

 まだトールヴァルドがこの世に生まれる前、王国を襲った悪魔の様な者達は、この連峰を越えて来たといわれているが、それが真実であるかどうかは、全くもって不明である。

 ただ、悪魔の様な物達の襲撃の後、いくら調べても山脈を通り抜けられるような洞窟などが見つからなかったから、そう言われているだけなのである。


 さて、そんな山脈を越えたホワイト・オルター号は、樹々が生い茂る深い森の上をのんびりと飛んでいた。

 最大の難関である連峰越えを果たしたサラは、高度を維持したままぼへ~っと北へと向けて、ただただ空を進んだ。

 そんなサラを見かねたのか、

「どうしたのですか、サラ? 危険な山を越えたとは言え、まだ目的地まではかなりありますよ? そんなに気を抜いていては…」

 リリアが声の声に被せてサラが叫んだ。

「リリアはこのままでいいんすか!?」

 いきなりのサラの叫びに、思わず仰け反ったリリアだが、

「このまま…とは、管理局と連絡が取れない事ですか?」

 サラの考えを正しく理解したうえで問い返した。

「そうっす…。リリア、私達が切られたって言ってたじゃないっすか…。もしも本当にそうだったら、私達のこの身体の寿命が来たら、中身ごと死んじゃいますよ?」

「まあ、それは当然ですね」

 サラの言いたい事も分かるが、それでもリリアは常と変わらず冷静に言葉を返した。


 元々、サラとリリアは、輪廻転生管理局に本体がある。

 本体というと語弊があるかも知れないが、元々の彼女達の精神体というかエネルギー体がそれだ。

 次元も距離もかなり離れたトールの住むこの世界で活動するため、現地活動用サイバネティックス・ボディという人造生命体へと2人は意識を移しているだけであり、管理局にあるそれぞれの元となる存在はそのまま…。

 簡単に言えば、現地活動用サイバネティックス・ボディとは意識憑依体である。

 普段であれば、この憑依を自らでOn/Offが出来る。

 管理局にある自らの本体とアクセスする事で、ほぼ自動的に現地活動用サイバネティックス・ボディから意識を本体へと戻し、現地活動用ボディの機能はOffとなり、抜け殻となる。

 逆に、現地活動用ボディーに意識を移している間は、管理局の本体が抜け殻となるのである。

 問題は、意識がある方が死ぬような事があった場合、他方も同時に死んでしまうという事。

 基本的に管理局にある本体に死という概念は無い。

 エネルギーが続く限り、寿命はほぼ無限と言える。

 しかし、サイバネティックス・ボディには寿命…いや、活動限界が明確に存在する。

 使い方などにもよるのだが、10年から最長でも30年程度と言われている。

 現在、そのボディにサラとリリアは入っている…。

 管理局へ、自らの本あ地へとアクセスが出来ない現状では、このボディの寿命=自らの死…となってしまう。

 とは言っても、そういったトラブルの為のセーフティ機能もきちんとある。

 もしもサイバネティックス・ボディに問題が発生したまま活動限界が来た時には、輪廻転生システムに戻った魂のエネルギー体を自動的に管理局の本体へと戻す安心安全な機能だ。


 本当であれば、無限に等しい寿命を持つ2人が死ぬ。

 知識としては死という概念は、無論2人は知っている。

 多くの魂を輪廻転生させてきたのだから、死んだ魂の行く先も知っている。

 だが…。

「管理局とアクセス出来ないって事は、私達って死んでも輪廻転生システムに辿り着けないっって事っすよ! 魂のエネルギー、完全に消滅するっすよ!?」

「まあ、そうなりますね…」

 管理局とアクセス出来ているからこそ、セーフティ機能が働く。

 単にボディー側に問題がり、管理局にアクセスできないのであれば、これもセーフティ機能が働く。

 だが、管理局側…輪廻転生システムがアクセスを拒否していたら? それはセーフティ機能も働かないという事。 

 つまりは、この先どの様な状態になったとしても、2度と輪廻転生できなくなるという事。

 それは乃ち、魂の完全な消滅を意味していた。


 


※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版

  https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

  旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました

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