第1046話  新しい玩具

 ミヤをボーディ達に預け、その日俺は屋敷へと1人で戻った。

 裏庭へと戻って来た俺は、妙に邸の中がひっそりとしている事に気付く。

 はて、結構毎日賑わっていたのに、何があったんだろう?

 厨房の近くを通るといい匂いがしていたので、どうやらドワーフメイド衆は居る様だ。

 執務室へと向かうが、室内には誰も居ない。

 書類は大凡仕分けも出来ているし、意外な事に今日中にしなければならない仕事も残って無さそうだ。

 いつもは、大抵ここにはマチルダが居るはずなのだが、今は姿が見えない。

 応接室かな? っと、扉をノックしても返事がない。

 中をそっと覗いてみたが、やはり誰もいない…って事は、母さんの所にでもいるのかな?

 可愛い妹とシスターと弟と、あとついでに母さんと父さんの様子でも見に行くとするか。

 

 3階の母さんの部屋の扉をノックすると、中から母さんの声が聞こえた。

 俺は扉をそっと開けて中へと入ると、意外な事にそこに居たのは、

「あれ? 母さんとエド君…と、その赤ちゃんはユズノちゃん? 他の皆はどこいったの? ってか、ユズキとユズカは?」

 ゆったりとした部屋着でソファーに座る母さんと、すぐ傍に置かれた2台のベビーベッド。

 どうやら、エド君とユズノちゃんがすやすやとお昼寝中らしい。

 そう、何時も姦しい嫁ーずも妹達も、ナディア達妖精も、おまけにユズユズにサラとリリアさんすら、ここには居ない。

「あらあら、トールちゃんは、独りぼっちで寂しいのかしら?」

 子供じゃないんだから!

「誰がだよ! いや、誰も居ないのは珍しいと思ってさ。んで、皆でどこいったの?」

 俺の問いに母さんは、

「明日からあの人が長期の調査に出るでしょう? それにサラちゃんとリリアちゃんも。だから、街にお買い物に行ったのよ」

 なるほど、確かに買い物は必要だな。

「何だ、そうか。ま、何かあったかと思ったよ」

「あと、ユズカちゃんに、赤ちゃん用品も色々お願いしたのよ。ついでに夫婦でたまには羽を伸ばして来なさいって」

 おお、それは大切な事かもしれない! 初めての子育てでストレスも溜まってるだろうしな。

「それと、コルネリアとユリアーネも、ずっとここに閉じ込めておくのも可哀そうだから、一緒に行かせたのよ」

 コルネちゃんとユリアちゃんも、一緒にに遊びに行かせたと。

 って事は、ナディア達は護衛の為に付いて行ったって所か。


「それで、ちょっとトールちゃんに聞きたいんだけど…」

 俺が皆の事情を聴いて、ふむふむと頷いていると、母さんが何か言い辛そうに声を掛けて来た。

「ん、どうしたん?」

「それがねぇ…エドワードの事なんだけど…」

 エド君がどうした? まさか等価交換だ! とか言って、錬金術でも使ったわけじゃないだろう?

「この子の右手を見て頂戴」

 そう言ってエド君が眠るベビーベッドへと俺を誘う。

「右手?」

 何の話だろうかと、俺が近づいてエド君を覗き込むと…、

「え、え…?」

 その後に、『ええええええええーー!』っと叫びそうになるのを必死で堪えた。

「いつの間にか握っていたのだけれど…これ、何だと思う?」

 一緒に覗き込んだ母さんが不思議そうに首を傾げているが、俺はそれどころじゃなかった。

 エド君が握っていた物、それはどっからどう見ても、俺が転生の特典? で貰った、ガチャ玉そのものだったからだ。

 いや、違う! これは、パンゲア大陸の環境を一変させた、懐かしの【環境改良かえる君】じゃないか!

 虹色に輝く球輝くその球体を凝視していた俺の耳には、、母さんの声などついぞ入って来なかった。



『ふんふんふ~ん♪』

 真っ白な世界の中で、素の部屋よりも白く輝く何かが、真っ白な卓袱台の前に座って、ご機嫌に鼻歌を歌っていた。

『お前、偉くご機嫌だな…』

 同じ部屋に居たのだろう。

 鼻歌を歌うご機嫌な誰かに声を掛けた、これまた真っ白な何か。

『ああ、そりゃそうさ! 何たって、第2,243,287次元の実験星に、新しい玩具を送り込んだんだからね』

 ご機嫌に卓袱台に置かれたお茶を啜っていた、真っ白く輝く何かの言葉に驚いたもう片方の何かは、

『第2,243,287次元の実験星って…お前、まさか…』

『ふっふ~ん! そうさ、君の一部だった例の彼…、あれ? 彼の一部が君だったっけ? まあ、どっちでもいいけど』

『いいわけがあるか! 彼は厳選した血統だぞ? それ以外の者に魂のエネルギーを送り込んだりしたら、拒絶反応が…』

『心配性だなあ、君は。大丈夫、僕だってその辺は考えてるよ。ちゃんと彼の血を引く子供に僕の一部を送り込んだのさ!』

 卓袱台にあったお煎餅を齧りながら、白い何かが言う。

『そ、そうか…。いや、そうじゃ無くて、お前も俺の一部…俺がお前の一部だっけ? どっちでもいいが、実験星の彼も同位体なんだぞ! その子供にかよ!?』

 もう一方は大分焦っている様子。

『そんな事は重々承知だよ。そのうえで、不確定要素を送り込んだのさ』

『不確定要素? お前の一部だろ? っと言う事は、俺の一部でも彼の一部でもあるんだぞ? 今度はその子供を玩具にするのか!?』

 段々と話の内容がややこしくなって来た。

『ああ、その点は大丈夫。本当に現地で生まれた彼の子供の赤ん坊に入れたから。それに、一部を除いて、ほとんどの記憶を抹消したから、赤ん坊の脳みそは新品同然。何の問題も無し!』

『新品って…。まあ、それは良いけど、一部ってのが非常に気になるんだが…』

『まぁ、細かい事は気にするな。ハゲるぞ?』

『やかましーわ! それならお前もハゲるはずだろうが!』

 

 どこかの遠い時空の空の下では、何かと何かが意味深な事を言い合っていたが、それはまだ誰にも知られていない。

 ただ、どうにも話の端々から、彼等が魂のエネルギーを注入したのは、トールヴァルドの子供と言っている様にしか聞こえないが、実際は弟なのだが。

 何か、彼等はとても重大な勘違いをしている様な気がするのだが…。



※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版

  https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

  旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました

 

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