第1045話  ⅠとⅡ

「で、では、ミヤの再調整が済むまでの間、お主にLガールMark.Ⅰを預けておこう。こ奴には、ダンジョンでエネルギーは注入しておる。無論サービスでな!」

 

 結局、バグった(?)ミヤの再調整のため、ボーディ達に預ける事になった。

 そう時間はかからないとはいいつつも、今からやってすぐに出来るというわけでも無く、数日は時間が掛かるらしい。

 まあ、モフレンダのためにも、ゆっくりと調整してくれたらいい。

 んで、ミヤを再調整している間の戦力低下が心配なのか、最初に俺が見たあの初代Lガールが俺の元に来る事になったのだ。


「それは良いんだけど…この子は大丈夫なんか?」

 ミヤと同じ様にランドセルとマスケット銃を装備した着物の少女が、ぼへ~っと俺を見つめていた。

 ぱっと見た感じ、銀ピカのカチューシャが無いのと髪型、あとは着物の色ぐらいがミヤとの違いかな。

「うむ。基本的な性能はミヤとそう変わりはないが、こ奴には人格も個性も無いのじゃ。…………つまらんがのぉ」

「そうか人格も個性も無いのか…って、ボーディ、今何か言ったか?」

 何んかぼそっと聞こえた気がするんだが。

「な、何も言っておらぬ! こ奴には名が無いので、好きにつけるが良い」

 なるほどね。

 ミヤとはガラは同じでも紺色の着物着てるんだから、何か言い名前でも考えてあげよう。

「いや、人格も個性もないと言ったが、きちんと言語は理解出来ておるから、命令は聞くと思うぞ」

「ほっほー!」

 そこまで説明したボーディの表情が、ちょっと沈み気味になった。

「ただ…全て指示せねばならんのだ…それがちょっと面倒と感じるやもしれんのぉ…」

「ん? 別にそれって普通なんじゃねーの?」

 一応兵器なんだから、自分勝手に動かれたら不味いだろ。

「あぁ…うむ、それはそうなのじゃが。ちなみにミヤの試射はどの様に行ったのじゃ?」

 確かあの時は、

「えっと…気が付いたら、ものすごく高い所まで飛び上がってて…」

「そこじゃ!」

 どこだよ!

「お主は気付いておらぬ様じゃが、その飛び上がるという行為だけでも、いくつもの複雑な手順を踏んでおる」

 ん?

「それを、全てミヤは独自の判断で行っておったはずじゃ」

 …ん?

「しかし、このLガールMark.Ⅰは人格も個性も無い。完全に使用者の指示にだけ従う様に設計されておる」

 …なるほ…ど?

「という事は、じゃ。ミヤが行っていた様な複雑な手順を全て使用者が理解し、それを正確に指示せねばならぬという事じゃ」

 どゆこと? 

「例えば、ミヤは飛行か跳躍を行った筈じゃが、その際周囲に被害が及ばぬ様、最初にシールドを張った…違うかや?」

「あ、ああ…確かに皆から聞いた話からしたら、そうだって…」

 俺には良く分からなかったけど…。

「やはりな。このMark.Ⅰは、そんな事は出来ない。あ、いや…同じ事は出来るのじゃが、それは指示せねば出来ないと言い換えた方が正しいかの」

 …へぇ…えっ?

「シールドを展開する規模と必要エネルギーの指示、跳躍か飛行する時の目標や速度や必要エネルギー等々、最初の飛ぶという行為だけでも、様々な情報を都度都度指示せねばならぬのじゃ」

「何だそれ、目茶苦茶大変じゃねーか!」

 え、それって俺が全部指示しなきゃダメって事なの?

 いや、確かにそう言ってたけど、俺が全部計算しなきゃダメなの?

 それって、例えるなら、俺が動作ソフトをするって事か? 

 自分で言っている意味が分からないけど、つまりは俺がこのLガールの計算機になるって事か?

 って事は、Mark.Ⅰってソフトが入って無いパソコンって事!?

「ようやく理解できたかや?」

「いや、待って待って! 嫁ーずとかのLシリーズって、そんな事しなくても大丈夫なんだよな?」

「うむ。あちらは、使用できる機能に制限があるでな。補助できる能力には、本人次第というわけじゃ」

 えっと…どう違う?

「つまりは、使用者本人の能力をアシストしているだけで、別段能力が増えたわけでは無いのじゃ」

 あ、何となくわかった。

 つまり、嫁ーず達のLシリーズは、前世風に言えばアシスト機能に特化した装備。

 んで、LガールはAI搭載のアンドロイドって感じなのかな…違うかもしれんけど。

「重戦機LガールMark.Ⅰは、能力や装備こそLガールMark.Ⅱと同等にはなっておる。しかしⅠとⅡの大きな違いは、自分で状況を判断し、適切な能力とエネルギーを計算して展開出来るかどうか。そして、完全に自立して戦闘も行う事が出来るかどうかという点なのじゃ」

「めっちゃ大切な違いじゃねーかよ!」

「うむ、大切な違いじゃ。じゃからこそ、重戦機LガールMark.Ⅱが成功した暁には、Mark.Ⅰの改修も進めようかと思っておったのじゃが…予想外の欠陥じゃったのぉ…」

 な、なるほど…。


 俺のすぐ横に立つこの無表情な日本人形の様な少女って、結構な問題児だな…。

 だったら、ここは一つ…、

「んじゃ、Mark.ⅠもⅡも、この際同時に改修してくれ。その間、俺には決戦用特殊兵装は不要だ。どうせ父さん達がこれから調査に向かうわけだし、まだ問題は起きないと思う。数日ぐらいだったら大丈夫だから」

 そう、たった数日の事だ。

「いいのかや? それなら並行して改修を行うが…」

「ああ、そうしてくれ。俺にはMark.Ⅰを上手く使えるって自信が皆無だからな。むしろ使えないなら、持ってなくても一緒だし」

 俺自身が使えない装備を渡されてもな。

 せめて嫁ーずと同じようなLシリーズだったのなら、話しは別だろうけど…。

「うむ、それならば暫し待つが良い。完成した暁には、また連絡を入れようぞ」

 はぁ…良かった。


 たった数日ぐらいミヤが居ても居なくても、俺に特に問題は無い。

 そう、たった数日…だけど、その数日を嫁ーずが我慢出来るという保証はない。

 本当に良かったよ。

 これで嫁ーずの色々な不満が爆発しないですみそうだ。

 怖かったもんなぁ…今朝の嫁ーずの視線…。



※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版

  https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

  旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました

 

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