第1001話  開始なのだ!

 俺の中の悪魔が去ったかどうかはさておいて。


 我がグーダイド王国の貴族位を持つ者は、少々面倒な決まりごとがある。

 それは、貴族位を持つ者に新たな子供が出来た時は、必ず王城に報告せねばならないという決まり事だ。

 とは言っても、王国民全てに戸籍があるとかでは無い。

 単に、貴族位を持つ者の家系を明らかにするためだ。

 何のためにかと言うと、それは何らかの罪を犯した時、一族郎党縛り首…ってわけでは無いが、それに近い罰を連帯して課す時に、誰までが罪に問われるかを明確にするためだ。

 一応、形だけとはいえ議会制を敷き、かなり細かな法も敷かれているこの王国ではあるが、現代地球の法治国家制度ほど進んでいるとは言えない。

 その一例が、王族や貴族制度であり、この連座制度だ。

 日本ではすでに廃れたと言っても過言では無い貴族制度は、中世ヨーロッパと形は大分違うがまだ残っているし、刑罰も決して道義的とは言い辛い物が多い。

 一般人同士であれば、地球では超有名なハンムラビ法典の『目には目を、歯には歯を』に近い同害報復刑罰が下されることが多いが、貴族位を持つ者が罪を犯した時には倍返し以上の過剰な報復刑罰が下されることがある。

 その為、最初から私が何らかの刑罰を受ける時は、この者までが適用範囲ですよ…っと、明らかにしておく必要があるのだ。


 別に子が生まれたからといって、絶対に登録しなければならないわけでは無い。

 ただ、登録を行わない場合は、それはそれでデメリットもある。

 例えば、貴族位を持つ者が亡くなった時、その家族には爵位に応じた一定の年金が支給される。

 しかし、それはあくまでも登録された妻子のみであり、未登録の子にそれは無い。

 実は未登録…つまり子を成して認知しない場合も、この国では実は罪になる。

 もしもその貴族に庶子が存在し、認知もせず国に登録もしなかった場合、それが明るみに出た時は大罪となるのだ。

 これは、あくまでも貴族位を持つ者の話ね。

 一般人同士であれば、色々と事情もあるだろうから、それは罪に問われない。

 それに対して、経済的に一般人よりも豊かであるはずの貴族位がそれをすると、あっという間に貴族位は剥奪され、重い刑罰が家族にまで圧し掛かる事となるのだ。

 え、男が勝手に浮気して子供を作ったのに、何で妻子まで罰せられるのかって?

 それはね、本妻や実子が、庶子を認知させない様にしたりする例が非常に多いからだ。

 もちろん、そんなシンデレラの継母や義姉達の様な、意地悪な家族ばかりでは無いって事ぐらい重々承知だ。 

 だが、こういう法律にしておけば、もしも旦那が浮気して子供を作ってたとして、それを妻子が知れば絶対に認知に動く。

 旦那が認知を拒否ろうとすれば、罰を恐れた妻子が王城に駆け込み、現状を訴えるだろう。

 もちろん抜け穴は幾らでもあるだろうが、それでもこれはこれで現状では十分な足かせとなっている。

 貴族位を持つからと言って、好き勝手が出来ない仕組みになっているのだ。

 んで、抜け穴ってのは…商売女を相手にした時には、それは適用されないって事だね。

 なので、浮気相手が商売女だったって言い逃れをしようとする奴が多かったんだが…まあ、その女の人の生活を調べたらすぐにわかる事なので、今までその穴を抜けきった奴ってのは、長い王国の歴史の中でもごく少数らしい。

 その少数も、かなり悪い噂が方々に立って、結局表舞台から消えたとかなんとか。


 そんじゃ、ユリアちゃんはどうなるんだ? って思た人も多いかと思うが、ユリアちゃんはきちんと実子として登録してある。

 本当は、産まれて1年以内に登録をするのが普通なんだけど、この世界って結構5歳未満の子供の死亡率が高い。

 だから、もう大丈夫と両親が自信をもって人前に出せるようになってから、王城で登録する人も居るのだ。

 ユリアちゃんに限って、病気や怪我程度でどうこうなる様な軟な身体はしてないけど…。

 まあ、父さんはそんな感じで、ユリアちゃんを迎えてから、ゆっくりと我が家の次女として登録したのだ。

 ちなみに、父さんの連座から俺は外れている。

 俺が独立した貴族位を持ったことで、父さんの庇護の下から外れたって事になる。

 その代わり、俺の連座に嫁ーずが加わり、将来生れる俺の子供も加わる事となるんだ。


 まあ長々と話したけど、つまりはそう言う事で、例の土地の調査に出発する前に、一度い王城に次男のエドワード君を登録しに行こうというのだ。

 もちろんホワイト・オルター号での往復なので、完全に飛行中はシールドで気圧までコントロールされているのだから、赤ちゃんの身体にも負担は無い。

 当然だが、安定期に入っていない妊婦でも問題ないのだ。

 って事で、父さん、母さん、コルネちゃん、ユリアちゃんが王城に向かうのに合わせて、メリルにもお父上…つまりは国王陛下に妊娠の報告に一緒に行ってもらう予定なのだ。

 俺も一緒に行きたかったのだが、山積みの仕事と例の土地の調査の為、断腸の思いで今回は見送った…次の機会にと。

 そして、往復の操縦は、サラとリリアさんにお願いする事になっている。

 ユズユズ夫妻も、王都の父さんの邸の使用人の皆さんや王都で世話になった方々に、子供の顔見せに付いていく。

 3泊4日の旅の予定。

 

 ってのは、建前で…実はこっそりとサラとリリアさんを遠ざけるためのお芝居…じゃないけど、口実だ。

 ここから、作戦の第2段階目の開始なのだ!

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