第999話  俺の野望

 う~~ん…俺って馬鹿では無いと思ってたんだけどなあ…。

 学校でも、あんま勉強しなくてもそこそこの成績はとれたし、学者さんたちの様に頭がいいわけでは無かったけど、TVのクイズ番組とかじゃ、結構答えられてた方だと思うんだ。

 生活の知恵だとか豆知識とかは、周囲の誰よりも詳しかった自信がある。

 ヲタク知識も豊富で、話題には事欠かないと思ってたけど、ここで意外な弱点を認識してしまった。

 いや、薄々は前から分かってたんだよ?

 自分とあまり関わりのない人の、顔とか名前を覚えるのが苦手って事は。

 だけど、まさか義理の両親にあたる人の名前すら覚えてない…いや、忘れるなんて…。

 自分が馬鹿じゃないと思ってたのは、実は俺だけ?

 だったら、めっちゃ痛い奴じゃん!

 前世で、仕事もまともに出来ないのに、『俺は仕事が出来るんだから、もっと給料よこせ』とか、『肩書があいつよりも下なのはおかしい』とか言ってた奴と一緒じゃん!

 学生時代にも似たような事言ってる奴居たっけなあ。

 異世界転生したら、急にチート能力覚醒して威張り散らしたり復讐したりするのも一緒だな…うん。

 俺だけは違うと思い込んでたのは、めちゃくちゃに恥ずかしい…。


 もっと謙虚に生きなければ。

 ドワーフさんに頭を下げて、まずは名前から教えてもらおう。

 あ、覚えられないかもしれないから、名札を付けて貰うのもいいな。

 ドワーフさんの事だから、きっと可愛らしい名札を付けてくれる事だろう。

 ん? そうすると、どこぞのメイド喫茶みたいになる?

 「おかえりなさいませ、ご主人様」とか言われる?

 いやいや、普段からそれは聞いてるから、別におかしくは無いか…すんごい訛ってるけど…。

 それとも、オムライスにケチャップで絵やメッセージを描いてくれたり、『おいしくな~れ』とか、『萌え萌えキュン』とかしてくれちゃったり?

 ドワーフさんは、確かに全員が美ロリっ娘だけど、年齢不詳でもあるから、それでキュンとするかなぁ?

 え、やたらとメイド喫茶に詳しいが、足げしく通ってたんじゃないのかって?

 俺は行ったこと無いぞ? 本当に無いんだからな?

 ただ、ネットとかTVで見たから詳しいだけなんだぞ。

 なに? そんな知識だけは豊富なんだなってか? う、うるさいわ!

 どうせ、友達も居なくてメイド喫茶に1人で行く勇気もなかったんだろうって? 

 や、やかましい! そんな所に一緒に行く友達なんていなかったのは事実だが、勇気はあったわい!

 見栄はるなって? み、見栄じゃないもん! ただ行く機会がなかっただけだもん!

 くそ! 俺の中の悪魔が俺のピュアな心をチクチクと攻撃してきやがる。

 前世では、メイド喫茶なんて行く機会なかったけど、なかったけど。

 でも、今世では俺は領主様だし、本物の可愛いメイドさんを雇ってるんだから、ここであの時見たミニスカートのピンク色のメイドさんにしちゃっても、全然OKなんじゃな~いでしょうか。

 ふっふっふ…俺の野望は今この場から始まるのだ!


「…不潔です…」

 はっ! なぜにミレーラに考えがばれたんだ!?

「相変わらず心の声が駄々洩れですけど…」

 俺…またやっちゃいましたか、マチルダさん? 

「そう責めるな、2人とも。旦那様は欲求不満なのだよ、きっと」

 イ、イネス…そうじゃない…

「「ああ、なるほど!」」

 おい、ミレーラ、マチルダ、納得すんな!

「伯爵様、やっぱり黒い正統派メイド服がベストです!」

 ユズキ、お前は何を言ってるんだ?

「ピンクのミニメイド服はユズカに最高に似合いますが、自室でしか着せません!」

 そうですか、お前の趣味ですか!

 ご夫婦仲良くて良いですね! 

  

 くそっ! なんでいつもこうグダグダな終わり方なんだよ!

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