第997話  涙出てきたかも…

『おかしい…この感覚は? まさか、彼が覚醒したのか? いや、そんな兆候は無かったはずだ…。覚醒に到る道は都度潰していたのだから、そんなはずはない…。だが、この感覚は…? そうか、覚醒では無く、他の同位体が騒ぎ始めている? という事は、覚醒の時が近いと言う事なのか。だが、まだ早い…。今、覚醒したら…あいつの思う壺だぞ? 彼の周囲が彼の変化に気付く前に手を打たなければ。必ず助けてやるからな…誰も信じるんじゃないぞ…俺…』


 

 ちくそう! 

 結局誰もドワーフメイドさんに関しては、俺に何も教えてくれなかったよ!

 さっきは確かに5人居たんだ、間違いなく。

 少なくとも、誰かと誰かが入れ替わってるはずなんだ。

 あ、いや…待てよ?

 この邸に居るドワーフさんって、本当に5人だけなんだろうか?

 もしかして、もっといっぱい居て、俺の目の前に出てくるのが4人だけ…何て事はないよね?

 こそっと入れ替わって、俺の反応を見て楽しんでるとか…ないよね?

 くっそ! 転生の時に鑑定とかサーチとかのスキルくれてたら、ちゃんと判ったかもしれないのに!

 邸を移動すればどこかで必ず見かけるドワーフメイドさんは、実は何にも居るかもって考えたら、めちゃめちゃ気になる!

 確かに普段は1人でお仕事している姿しか見かけなかったから、そんなに気にした事も無かった。

 食事時には4人揃って食卓に着いてたから、メイドさんは4人だけだと思い込んでた。

 だけど、その時に他の部屋とか見に行った事なんて無い。もしも、その時は他の部屋に隠れご飯を食べてたりしたら?

 部屋の片隅とか物陰とかに、もしかしてドワーフさんが潜んでたり…いや、あの黒い弾丸のGじゃなから、それはないか。

 って事は、俺の行動とかを読んで、上手くかち合わない様にしてたとか?

 むぅ…考えれば考えるほど、謎が深まる…。


「トール様、何をそんなに変顔をして妄想しているんですか?」

 う、うっさいわ、マチルダ!

「…変顔…ぷっ」

 ミレーラなで笑うな!

「まあ、我が夫の表情筋が、しっかり生きている様で安心したぞ」

 イネスさん、どこで表情筋なんて言葉を覚えたんですか? この世界にはそんな言葉ないでしょう?

「ま、まあ…お三方とも、遅くなりましたがお食事にしましょう」

 ユズキが場を収めようとしてか、そう言って手を軽くたたくと、ドワーフさん達が食事を持って食堂に現れた。

 うん、間違いなくここに居るドワーフさんは4人だ…。

 だが、樹ッとほかにも潜んでいるに違いない!

 配膳が始まると同時に、俺は廊下へ向かってダッシュ! 

 扉を全力で、バーーーン! と開け放ち、俺は廊下へ飛び出した。 

 …廊下には誰もおりませんでした…。

 いや、まだだ! 厨房かもしれん!

 ダッシュで食堂の隣の厨房へ向かい、全力で扉をバーーーン! と開け放ち…誰も居ない…。

 洗濯場…誰も居ない…。

 あっれ~? 俺の思い過ごしだろうか?


 俺が食堂に戻ると、全員が呆れた顔で俺を迎えてくれた。

「まったく…何をしているんですか…」

 皆を代表してなのか、マチルダお姉さんが俺にお小言。

「ごめんちゃい…」

 素直に謝っておこう。食事時にバタバタしたら埃がたつって、よく怒られたなあ。

「料理が冷める前に頂きましょう、伯爵様」

 そうですね、ユズキ君。

 でも、君達は知ってるんだよね、ドワーフさんの秘密を…。

 俺も知りたいよ…ドワーフさんの事。

 あ、何かちょびっと涙出てきたかも…。

「しょうがないですねぇ。では、後で1つだけいい事を教えてあげしょう」

 マチルダお姉さんが、やれやれと言いながらそんな事を言い出した。

「いい事?」

 エッチ関係じゃないよな。

 今言い出したって事は…ドワーフさんの事かな? 

「ええ、いい事です。今は食事を楽しみましょう」

 おぉ? 何だか涙も引っ込んだぞ! 

 よっし、何かやる気出て来たーーーーー!

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