第991話 決戦用特殊武装
「では、作戦は順調に進んでおる…と、いう事じゃな?」
本日の俺は、ユズキとミレーラ、イネス、マチルダを連れて、ダンジョンへやって来たのだ。
邸の皆には、もうすぐ例の土地への本格調査へと乗り出す前に、ちょっと身体を動かしたいから…と言う事にしている。
すでにサラとリリアさんを除く、邸の中の全員があの薬を服用しているので、直接会話を聞かれ(唇の動きを読まれ)たりしなければ問題は起きないではあろうが、それでも念のための口実だ。
そして、無事にパンゲア大陸のとっても豪華なアルテアン家専用スィートルーム? っぽい部屋で、俺達はボーディー達ダンジョンマスター3人と、こうして対談をしているわけだ。
「ああ、作戦は実に順調に進んでいる。俺の邸内はもちろん、ドワーフ、エルフ、魔族、人魚、そして街の住民の一部に、父さんの邸のメイド達。あと、父さんが連れてきている騎士や兵士の一部にも飲ませてある」
俺の言葉に、満足そうに頷くボーディ達。
「うむ、それではそろそろ次の作戦に移ってもよかろう。モフリーナ、モフレンダ、例の物を皆さんへ」
どっかのクイズ番組っぽい事をボーディが言うと、モフリーナとモフレンダがソファーの後ろから2人掛かりで何やら重そうな木箱を俺達の前へと持ってきた。
大きさ的には、人が1人は入れそうなほどにデカイ。
なんだコレ?
「さあ、蓋を開けてみるがよい」
偉そうなボーディの言葉に、俺がそっと蓋をずらすと、ユズキとマチルダが中を覗き込んで、はっと息を飲んだ。
何だ何だ? 俺とミレーラとイネスも、箱の中へと目を移すと、そこには横たわった少女の姿が。
年の頃は、どう見ても5~6歳程度。
ストレートの長い黒髪ではあるが、綺麗におかっぱに揃えられている。
肌はやや黄味が強いが、光を反射しそうなほどに滑らかで艶やか。
対照的に紅を差した様な赤い唇が目立つ。
しかも、着ているのは…なんと黒地に光沢のある白い鶴の模様が入った着物…いや、和服と言ったほうが分かりやすいか?
帯はやや明るさを抑えた朱色だが、金糸と銀糸で幾何学模様が描かれている。
目は閉じているが、間違いなく瞳の色は黒いだろう。
どっからどうみても、俺が前世で見た事がある日本人形にしか見えない。
確か、お寺の所有する市松人形の髪の毛が伸びるとかって放送していて、ドライブがてら見に行った事があるあれにそっくりだ。
でも、大きさがまるで違う。
あの時見に行ったのは、精々我が家に居る妖精さん達ぐらいの大きさだった。
だが、目の前で横たわるこの日本人形の様な少女は、本当に5~6歳程度の身長がある。
ユリアちゃんより、ちょっとだけ背が低い感じかな?
息遣いも感じられないのだから、やはり人形なのだろうか? いや、それにしては柔らかそうな感じの皮膚だ。
これは一体…。
「どうじゃ? なかなかの出来栄えじゃと思うのじゃが?」
妙に無い胸を張って、自慢げにそう言うボーディだが、ちょっとむかつく。
「あ、ああ…出来の良い人形だ…な…」
何とかそう返したが、視線は人形から外せない。
ユズキも嫁ーずも、誰もが息をするのも忘れて人形を見入っていた。
もしかして、呪いの人形で、俺達全員魅入られたのか?
「トールヴァルド様、人形ではありませんよ?」
モフリーナの言葉に、人形に魅入られていた俺達5人は、「「「「「えっ?」」」」」っと揃って声をあげた。
「人形では無いわ、戯けが! これは決戦用特殊武装じゃ。カジマギー、もふりん、ちょっとこっちへアレを持って来やれ」
虚空に向かって何やらボーディがそう呟くと、俺達のすぐ背後の空間から滲み出る様に2つの影が現れた。
ちょっと5人共、ビクッ! としたが、まあ驚いたのはほんの一瞬。
もふりんとカジマギーなのは結像する前に全員が分かってたから、そいなに吃驚したりはしない。
「おもちしましたー!」
最近、舌っ足らずな口調が治ってきている? 成長している? もふりんが、淡く白色に光る水晶が付いたペンダントを俺に手渡した。
水晶のペンダントを手に渡された俺は、それを見つめつつ、さっきのボーディの言葉を思い出していた。
ボーディは、さっき何て言った? 決戦用特殊武装? 武装…だと? このお人形さんが?
「それは、この地のエネルギーを凝縮した物じゃ。お主に分り易く言えば、お主等が身に付けてる神具とやらの必要エネルギーの数十倍が込められておる」
「え?」
俺の手の中にあるこの水晶が?
「そして、それがこの決戦用特殊武装の鍵となるのじゃ」
鍵…だと? この水晶が、鍵?
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