第989話  気になって… 

 ここからの作戦は、全てミレーラ、マチルダ、イネスの3人任せる事にしたのだが、それは俺も目を見張る程の速度でガンガン進行した。


 まず、メリルとマチルダとイネスの3人が、妊娠した時の事を考えて色々聞きたと、メリルとミルシェの元を訪れる。

 もしも、2人のお腹の中の胎児の脳を使って音声が盗聴されたた…なんて心配をしたからか、薬とか陰謀だとか俺がメリルに吹き込んだ事を細かく書いた手紙と薬を手渡したらしい。

 確かに音がしなければ、お腹の中の子にはこの作戦の事は伝わらないだろう。

 ミレーラ達の真剣な顔つきで、手渡された手紙の内容を信じたメリルとミルシェは、即座に薬を飲んだ。

 次いで、薬を飲んだメリルとミルシェは、母さんとユズカの元に。

 出産や育児の事を聞きたいと、それとなく4人だけになる様にし、やはり手紙で内容を伝えて薬を飲ますことに成功。

 こっちも、赤ん坊はまだ目が見えないんだから、何も話さなければサラ達に伝わる事はない。

 母さんと父さんは、管理局的にはノーマークだと、ダンジョンマスター達のお墨付きもあったので、母さんは赤ん坊をユズカに預けて、父さんを呼び出して二人きりになって、これまた薬を飲ませた。

 同じくノーマークのユズカは母さんに赤ん坊を預けてユズキに薬を飲ませる。

 更に父さんはコルネちゃんとユリアちゃんを連れて、ネス湖の湖畔を散歩すると言って、邸から離れた所で薬を飲ませた。

 コルネちゃんとユリアちゃんは、たまには身体を動かしたいと言って、ナディアとアーデ、アーム、アーフェンを連れて、裏庭のダンジョン直通扉からダンジョンへと飛び、そこで薬を。

 帰って来たナディア達は、こっそりと妖精さんやもっち君達に薬を飲ませた。

 もっち君…薬飲めたんだ…効果あるんだろうか?


 出産に立ち会った魔族の女医さんが、母さんとユズカ、メリルとミルシェの往診に来た時、こっそりと薬を手渡した。

 魔族さんには、母さんか亜人種族で疫病の流行の兆しが見えるので、予防のために必ず一粒服用する様に伝え飲ませた。

 ドワーフ衆にも、亜人種健康診断の名目で順に魔族さんの治療院へと向かわせ、予防の為にと薬を処方してもらう。

 この頃には、ボーディ達による薬の増産が完了しており、俺の手元にこっそりと追加分、数千粒が届いていた。

 勿論、赤ん坊用と、何故か胎児にも効果が届き、副作用が全くない薬も同時に。

 でも、どっかの小説とかに出て来そうなポーションっぽい瓶に入っていたんだけど…。

 魔族さんには女医さんが薬の服用作戦を進め、エルフさん、ドワーフさん、人魚さんの村へもそれらは運ばれ、今後数週間の間に人族と接触する可能性のある者には服用させる。

 ブレンダーとノワールには飲ませる事は出来たんだが、クイーンと蜂達は、その口の構造から薬を飲む事は出来ない。

 これもボーディに相談したところ、赤ん坊用の薬と全く同じ物で、体重角から考えて、ほんの数滴で効果があると言う。


 こうして、サラとリリアさんに気付かれる事無く、着々と俺の周囲の者達は薬を口にしていったのであった。


「最近、どうも変ですねえ…」

 ある夜、トールの邸の地下にあるリラとサラの部屋で、寝間着に着替えたリリアが、ベッドに腰を下ろしながらそう呟いた。

「へっ、何が?」

 ベッドに横になって、パンの耳を油でカリカリに揚げて砂糖を振った、ラスクもどきと揶揄されるパン耳ラスクをかじりながら、サラが間抜けな声で問い返した。

 その情けないサラの姿をちらりと見たリリアは、「はぁ‥」と軽くため息を付いた後、ぽそりと呟く。

「最近、妙に彼が大人しいと思いませんか?」

 リリアの言う彼が誰の事かは、サラにはすでに分かりきった事。

「ん~~~? 大人しい? 夜は結構激しいと思いますよ?」

「いえ、そうでは無くて…」

「え~~? 毎朝の洗濯の時のあのシーツを見てないんっすか~!? もう、どんだけ絶倫やねん! ってぐらい酷いですよ?」

「いえ、それは知ってますけど、そうでは無くて…」

「え、まさか…そうだったんっすか!?」

「そうだった…とは?」

「このサラちゃんを差し置いて、リリアは大河さんと隠れてイイ事してんっすね? んで、最近大人しく感じてきた…倦怠期?」

「違います!」

「え~~~~、サラちゃんなんて、こんなにぷりちーなのに、まだ手を出されてないってのに、リリアは魔の手に落ちたんすっかぁ」

「違うと言ってんだろ、この馬鹿サラ!」

 リリアは酷い頭痛に襲われた気がした…もちろん、気がするだけである。

「だったら、何が大人しいんすか? サラちゃんには、ナニが大人しいぐらいしか想像つかないっす!」

 さらなる頭痛がリリアを襲った…気がした。

「そこから離れろ! 彼の思考が最近大人しすぎるって言ってるんです!」

「思考? 大人しいなら良い事なんじゃ?」

 何を言ってるんだ? とお尻をボリボリと掻きながらサラが言う。

「まあ、そうなのですが…。以前は隙あらば色々と思考を巡らせていたのに、何故かそれが鳴りを潜めたのが、ちょっと気になって…」

 そういって、リリアは天井を見上げて何かを考える様に目を閉じた。

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