第980話  作戦行動開始!

 魔族さん特製の精力剤は強烈だった。

 何が強烈かって? そこを聞く?

 死にかけの男ですら、ぼっ…えっと、これは危険…。

 そう! 何時間も折れない強力な自信を持てる代物なのだ!

 勢いでこれを飲んでしまった様に思われるかもしれないが、今夜はちょっと違う。

 あのダンジョンマスターズより預かってきているカプセルを、管理局に感知されない様に嫁ーずに飲ませるため、あえてこの恐ろしい効き目の薬を自らあおったのだ。

 っというわけで、今夜の俺は一味違うのだ。


 さて、では本日の作戦を発表しよう。

 敵は、前方に見える、ミレーラ級巡洋艦、イネス級護衛艦と、マチルダ級護衛艦の、3隻の軍艦である!

 本作戦の目的は、ミレーラ級巡洋艦の拿捕にある!

 だが、ミレーラ級巡洋艦は、常にイネス級護衛艦と、マチルダ級護衛艦によって護られている。

 なので、先にこの護衛艦2隻を撃沈せしめる必要がある!

 しかしながら、ミレーラ級巡洋艦もただ指をくわえて僚艦が攻撃されているのを見ているわけでは無い。

 時折、援護射撃を加えてくるであろう。

 なれば、ミレーラ級巡洋艦を適時足負止めをしつつ、イネス級護衛艦と、マチルダ級護衛艦に重砲での攻撃が最善。

 上手く2隻を撃沈させた後に、ミレーラ級巡洋艦の動力部を破壊し拿捕せしめるのであーる!

 では、作戦行動開始!


 現在は、3隻が我が艦を取りまき、様子を窺っている様である。

 初手をみすみす敵にくれてやるような愚かな我が隊では無い!

 最終撃破目標であるミレーラ級には、軽くけん制攻撃をしつつ、護衛艦2隻に攻撃を仕掛ける!

 まずは、攻撃力の高いイネス艦へ攻撃開始だ。

 作戦は実に簡単。

 正面から軽く斉射した後、反転しつつの背後からの全砲門での一斉射。

 小細工抜きで、直線的に攻撃を仕掛ける、男の真っ向勝負!

 俺の全力全開での真っ向勝負の前に、徐々に反撃できなくなったイネス艦は、少々消耗したものの轟沈させるに成功!

 当然だが、イネス級への全力攻撃の合間に、マチルダ級とミレーラ級にも牽制攻撃は適時行う。

 しかし、イネス級が轟沈したのを受け、マチルダ級が我が艦の背後に巧みに回り込み、我が艦へ攻撃を仕掛けてきた。

 くっ! 一瞬目を離した隙に、まさかこんな攻撃を仕掛けて来るとは!

 背後から船尾への攻撃を仕掛けてきたマチルダ級に対し、我が艦は180°回頭!

 バランスを崩しつつも何とか体制を保ち、次の目標であるマチルダ級を、全火力でもって叩き伏せる!

 しかし、先のイネス級との砲撃戦を冷静に観察していたマチルダ級は手強かった。

 こちらからの攻撃を察すると、ミレーラ級が即座に援護射撃を行い、その隙に回頭して距離をとる。

 こちらの目標から外れたと同時に、また回頭して我が艦へと砲撃を仕掛けてくるマチルダ級。

 一進一退の攻防が続く中、援護射撃を行うミレーラ級に、少々強めの牽制を仕掛ける。

 マチルダ級から見れば、良いタイミングで度々援護射撃を行うミレーラ級を、我が艦が鬱陶しく感じて攻撃目標を変えたかのように感じるであろう。

 これを好機とみたか、ミレーラ級と呼吸を合わせて俺を挟撃するため、大きく俺を周り込む…のを見逃すはずがない!

 俺は、一直線にマチルダ級に艦首を向けると、一気呵成に吶喊した。

 一瞬怯んだかのように見えたマチルダ級ではあるが、個々が勝負と奴も吶喊してきた。

 両艦がまさに激突せんとする直前で梶を切る。

 吶喊の出鼻を挫かれたマチルダ級の砲門は、まだ前方へと向いている。

 対して、梶を切る事を念頭に準備していた我が艦は、擦れ違いざまにマチルダ級へと全力で斉射。

 行違った直後に更に反転し、マチルダ級の船尾へと更に攻撃を仕掛けると、動力部が損傷したのか、そのまま沈黙、やがて激しい浸水により轟沈した。

 護衛艦2隻に俺は勝ったのだ!

 さあ、残るは本日の第一目標のミレーラ級巡洋艦のみ!

 乗組員が不慣れなのか、はたまた弾薬か燃料が不足しているのか、または2隻の護衛艦が目の前で沈められたからかは不明ではあるが、すでに強硬な反撃の気配すら見せず、白旗をあげたミレーラ級。

 俺はゆっくりと艦を近づけ、そして接舷した。


「んっ…ちゅく…あふ…ぁんっ!」

 優しくも激しい口づけ。

 ベッドの上には、荒い呼吸のイネスとマチルダが、あられもない姿で横たわっていた。

 その横で、優しく抱き寄せたミレーラと、貪るように互いの唇をついばみ合い、口中を蹂躙し合っていた。

「んっ…ん…んん?」

 やがて、ミレーラが何か感じたのか、驚いたように閉じていた目を見開き、俺を見つめた。

 そう、このタイミングで、こっそりと例のナノマシン? お薬? を、口移しでミレーラの口中へと送り込んだのだ。

「と、トール様…これは…」

 潤んだ瞳で俺を見つめたまま、そう問いかけるミレーラに、

「大丈夫…飲んで…」

 そう言って、俺は自らの口でミレーラの言葉を止めた。

 彼女の言葉は止まり、その代わりに彼女の吐息や小さな声が漏れ聞こえ、やがてごくりと俺の唾液と共にあのカプセルをミレーラが飲み込んだ感触が俺の胸辺りで感じられた。


 ふっ…作戦完了だぜ!

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