第977話  陰キャ?

 俺の胃の中に、カプセルがコロコロと転がって行くアニメーションが頭の中で展開されると…。

「飲みよったな?」

「飲みましたねえ」

「…馬鹿…」

 ボーディ、モフリーナ、モフレンダから、何やら不穏なお言葉を賜った。

「ちょ! やっぱ危険な薬なのかよ!?」

 あんな事言われたら、誰だって不安になるに決まってるよな? 

 いや、絶対に不安になるぞ!?

「じゃから、薬では無いと説明したじゃろうが」

「んじゃ、何であんな不安になるような事を言うんだよ! はっ! もしかして…カプセルが溶たら、俺が何かに変わる…」

 モンスター化するのか!?

「阿保か。なるわけ無いじゃろうが!」

 ボーディが、

「だったら…」

「いえ、別に見た目に変化などありませんよ?」

 モフリーナが、

「…馬鹿は元から…謝罪する…」

 モフレンダの言葉って、酷くね?

「んじゃ、何で飲んだ確認を?」

 絶対にあの言葉はおかしいよな。

「別に深い意味は無いぞ? ちゃんと飲み込んだかの確認だけじゃ。モフレンダは思った事を言葉にしただけじゃ」

「モフレンダ、酷すぐる! 鬼か、悪魔か!」

 確かに俺の頭は良くないけど、あんまりだろう!

「…ただの美人ダンジョンマスター…」

「いや、お主はただの根暗ボッチじゃろう…」

「えっと…きっと、引きこもりさんなだけかと…」

「……………………」

 モフレンダの主張に、ボーディが真顔で答えると、モフリーナが続いて…いや、その評価も酷くね?

 一応、仲間なんだよな?


 俺の言いたい事言ってくれたんだけど、微妙にモフレンダか可哀相になってきた…。

 あ、ほら見ろ! モフレンダが黙り込んじゃったじゃねーか!

「あ、いや…美人のダンジョンマスターってのは間違いでは無いから! 何て言うか、こう陰を背負ったキャラというか…」

「…陰キャって…言いたい?」

 ああ、またモフレンダが落ち込んだ!

 おい、ボーディ! 笑ってないで手伝え! いや、モフレンダを立ち直らせるの手伝えって事だよ!

「い、いや…そうじゃなくて…えっと、そう! クールビューティって事だよ!」

「…もふもふの髪の毛…でも?」

 お、ちょっと持ち直したかな?

「も、もちろんだとも!  すごくクールだぜ! 似合ってていいじゃないか、その髪型!」

 ここで褒め倒すんだ!

「…ただのくせ毛…」

 くっ…手ごわい!

「それこそ個性だよ! 見てみろ、ボーデを! ただのツルペタ絶壁のじゃロリダンジョンマスターでも個性だろ!?」

「おいっ!」

 五月蠅い! 手伝わないならネタになっとけ!

「…そう。確かにボーディは残念ダンジョンマスター…」

 あ、毒を吐き出した。もしかして、立ち直った? 

「誰が残念じゃ!」

 今は黙っとけ、残念のじゃロリ!

「そ、そうだぞ! モフレンダはスレンダーでモデル体型じゃないか! そうだ、たまには髪型を変える…イメチェンも良いんじゃないかなあ~。モフリーナさん、ちょっと彼女の前髪とかアップしてあげてみたりしちゃったりしません?」

 今までクスクス笑って俺達を見ていたモフリーナを無理やり巻き込もう。

「え、わ…私ですか? う~~ん…ちょっとやってみましょうか、モフレンダ」

 モフリーナの言葉に、妙に力強くコクコク頷くモフレンダ。

 うん、2人で楽しくやってください。

 モフリーナは、俺とボーディを無視して、モフレンダの髪型をいじって遊び始めた。

 もう、マジで2人で好きにして下さい。


「ま、あっちは放っておいて…じゃ。お主が先ほど飲んだ超極小機械式疑似分霊装置は、お主専用じゃ」

 ん?

「でも、いっぱいあるんだろ?」

「ああ、他の超極小機械式疑似分霊装置はコレじゃ」

 そう言って、ボーディがモフリーナが持ってきた箱の中から摘まみあげた物は、俺が飲んだのよりも小さく色も紅白のカプセル。

「ありゃ? 色違わなくね?」

 さっき俺が飲んだのは、金銀パールプレゼント…じゃなく、金色と銀色のやつ。

「じゃから、お主専用じゃと言っておろうが。お主以外の者は、保有エネルギーがお主と比較して少ないからのぉ」

 それが関係あるの?

「お主の飲んだ超極小機械式疑似分霊装置は、中身をこれの1万倍濃縮した物にしておる」

「1万倍!?」

 ちょっとびっくり。

「まぁ、エネルギー保有量に比例しているという訳でも無いぞ? お主のだけ強力な物にしておるだけじゃ」

「それはまた…何で?」

「それは、単にお主が特に集中的に管理局に監視されておるからじゃ。管理局の重要監視対象は、基本的にエネルギー量が多い者となっておるのじゃ。じゃから、他の者はそう強力で無い装置で十分対応できるのじゃよ」

 あ、そゆ事なのね。

 エネルギーが多い俺専用って事か…あれ?


「そう言えば、ちょっと思い出したんだけど」

「どうしたのじゃ?」

 説明は終わりとばかりに、モフレンダの髪の毛をいじっているモフリーナの様子を見ていたボーディに話しかけた。

「俺…魂のエネルギーがどんどん増えてるって言われた事があるんだけど?」

「それは管理局の者にかや?」

「ああ、サラとリリアさんと…」

 局長には言われて無いと思う。

「それも嘘じゃな。お主は元々巨大なエネルギーを保有しておったのじゃ。そもそも、お主自身ではお主の保有するエネルギー量など知覚できぬじゃろう?」

 俺自身の持ってるエネルギーの量って、確かにわからん。

「成長と共にエネルギーが増える…と、あ奴等がお主に錯覚させておるだけじゃ。元からお主は巨大なエネルギーを持っておるのじゃ」

「な、なるほど!」

「そもそも、お主が自らのエネルギーを適正に利用できるようになれば、次元すら渡る事が出来るのじゃ。すでにひよこ達がそれを証明しておる。それに、あの玩具の様な装備も、管理局の道具など使わずとも創り出せるのじゃ」

 ちょい待って!

「ガチャ玉を使わなくても、装備創れるの?」

「ああ、勿論じゃ。管理局が、エネルギーの使い方を限定させておるだけじゃ。お主は、管理局の助けを借りて色々と創り出したと思っておる様じゃが、実はそんな物は不要なのじゃよ」

 …もしも、ガチャ玉使わなくても色々と創れるんだったら、俺のこれまでの人生って何だったんだろう? って感じだな…。

「でも、どうやって?」

「お主…馬鹿じゃろ? 目の前にいる妾たちは、何じゃ?」

 馬鹿馬鹿言うなよ! そんぐらい俺だってわかるわ!

「ダンジョンマスターだろ?」

「では、ダンジョンとは何ぞや?」

 んっと…。

「そこに入ってきた奴とかの魂のエネルギーを集めてんだろ?」

「うむ。それで、その集めたエネルギーで妾達ダンジョンマスターは何をする?」

「ダンジョンを拡張したり、モンスターを造り出したり…冒険者を釣るための…アイテムを造ったり…あっ!」

 そうだ、そうだよ!

「そうじゃ。妾達は魂のエネルギーを消費して、色々な物を造っておる」

 その通りだ…。

「まあ、お主と話しをしっかりとして無かった妾達も悪かった。てっきりそれだけ巨大なエネルギーを持っておるのじゃから、あの装備とやらはお主がエネルギーを使って造り出した物じゃと勘違いしておった。そこはすまんかった」

 悲しいすれ違いだな…いや、意味が違うか。

「まさか、そこまで管理局の手の平の上だったとはのぉ。お主の言う所のガチャ玉じゃが…あれは、お主が勝手に創造しない様に、上手くコントロールするための物じゃ。事実、お主はアレが無ければ何も造り出せないと勘違いしておったじゃろう?」

「う、うん…確かに…」

「ものの見事に、一から十まで管理局に踊らされたな」

 ぐっ…。

「面目次第もございません…」 

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