第976話  誤訳?

 見た目は薬のカプセル。

 サイズは、一般的な風邪薬とかで見るカプセルの直径も長さも半分ぐらい。

 つまり、細くて短い。

 それなら簡単に飲めそうなんだけど…色合いが金と銀って…それ、本当に飲んでも大丈夫なのか?

 ん~ちょっと躊躇ってしまうもの仕方ないと思うんですけど。

「ほれ、さっさと飲め!」

 ボーディさん、いやに急かしますね…飲まないとまずい事があるとか?

「お主が飲まんと、何時までもここから出れんじゃろーが!」

 あ、はい。ご尤もです。

 でもなあ…ちょっと勇気いるんだよ、コレ飲むの。


 ってなわけで、時間稼ぎをば…。

「そ、そう言えばさ。よくサラが日本の漫画家とかに管理局員がいたとか言ってたけど、やっぱアジアって重要な場所だから?」

 特撮の監督さんとか漫画さんとか小説家さんだとか、いっぱい潜入? してたらしいからなあ。

「はぁ?」「そ、それは…」

 ボーディが、何言ってんだと呆れた声をあげ、モフリーナが困惑顔になった。

「え、どしたん?」

 思ったのと違う反応に、俺も戸惑ってしまった。

「いや、お主…それ、完全に嘘じゃぞ?」「ええ、嘘ですね」

「マジか!?」

 あれって、嘘だったのか!

「お主、それが事実じゃと信じておったのか?」

「ああ、うん…信じてた…」

 そっか…騙されてたのか、俺…。

「えと…トールヴァルド様は純真なのですね…」

 下手な慰めは止めて、モフリーナさん…。

「あのなぁ、管理局の奴らに、文化を創り出す事なんぞ出来んぞ? まあ、幾らか監視のための潜入員はおるやもしれぬが、そんな文化的な活動など彼奴等はせぬわ!」

 言い切りよったな、ボーディ。

「まあ、トールヴァルド様は純真なので…」

 大事な事だから2回言ってくれたの? 

 そうかあ、でも良かったよ。

 あの偉大な漫画家さんとかが管理局員だとか言われた時は、マジでガックリしたからなあ。


 あ、ついでだから、もう1個聞いておこう。

「あのさ…誰からも疑問の声が出なかったから気にしなかったんだけど、ちょっと聞いても良いか?」

「なんじゃ?」「はい」

 偉そうだな、ボーディ…。

「えっとさ、この世界の宗教の事なんだけど、太陽神ってのは分るよ、太陽神は。だって、太陽があるんだから」

「続けよ」

 あ、ボーディはもう何か察したか?

「お月様も無いのに、何で月神さまが祀られてるんだ?」

 いや、地球の月ほど大きくはないけれど、この星にも衛星はあらしい。

 だけど、小さいんだよね…他の星の方が明るく見えるぐらい。

「はぁ…お主、まだこの世界の常識が理解出来ておらぬのじゃな…女を2人も孕ませたくせに…」

「それは関係ないだろーが!」

 私生活はほっとけ!

「あのなぁ、この世界では互いに意思・感情・思考を伝達し合う事が出来る種族と言うのはどれぐらいいる?」

「えっと、人族にドワーフ族、エルフ族、人魚族、獣人族、魔族…と、ダンジョンマスターとかダンジョン関係者ぐらい?」

 合ってるよね?

「うむ、そうじゃな。それで、全員同じ言葉を話しておるかや?」

「いや、話してないよな? 確か意志ある言葉だったら、勝手にの運出で翻訳されるって。読み書きだけは違うらしいけど」

 で、合ってるよね?

「その通りじゃ。それで、お主には月神と伝わっておる様じゃが、本当にお主の周囲はそう言っておるのかや?」

「あっ!」

 そうだ、そう言えば月神って看板とか見たわけじゃない!

「この世界的な言語で正確に言うとじゃな、死と闇を司る女神を祀る、夜神なのじゃぞ?」

 え、何それ…怖い神様じゃん!

「ちなみに太陽神も、誕生と光を司る女神で、昼神。大地神は、豊穣と安定の女神で、これはそのまま大地神じゃな」

 え~っと…随分、本来司る内容とかけ離れた姿にしちゃった気がします、神様の姿…。

「お主に月神と伝わったのは、お主が理解しやすい形に訳されただけなのかもしれぬな」

 なるほど、そんなもんか…。


「で、もういいかや?」

「え?」

 いきなり、ボーディさん、どうしました?

「では、さっさと飲め!」

「あ、え…いや、ちょ…」

「ええい、モフリーナ、モフレンダ、そ奴を抑えつけろ!」

 ガシッ! っと、両腕を捕られた!

 あ、ちょっと右腕のモフリーナさんの胸が当たって気持ちいいかも…左のモフレンダさんは、もうちょっとかな?

 ってか、何時の間に起きたんだよ、モフレンダ!

「口をこじ開けろ! ホレ、飲むのじゃ!」

 モフリーナともモフレンダに無理やり口を開けられ、そこにあのカプセルをボーディに放り込まれた。

 ボーディが口にカプセルを放り込んだ瞬間、両脇の2人が俺の口を閉じた。

 ちょ、モフレンダ、そこは鼻だ! 息が出来ねえ!

 抵抗するもむなしく、俺は舌の上で転がしていたカプセルが喉へと転がって行くのを感じた。

 喉は反射なのだろうか、そこに転がり込んできたカプセルを胃へと送り込むべく、ゴクリと動いた。

 そして、カプセルは胃の中の中へと落ちて行った…と思う。

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