第961話  どっち?

 やがて赤ちゃんのベッドの周りには、ナディアにアーデ、アーム、アーフェンもやって来た。

 誰もがすやすやと眠る赤ちゃんに見入り、そして誰もが微笑みを浮かべていた。

 いや、マジで可愛いなあ~。

 んで、この子達は男の子? 女の子?


 母さんとユズカをたっぷりと労った父さんとユズキが、ドワーフさんに導かれて赤ちゃんの元に。

「あんた達の子供なんやさな。抱っこしてあげまれ」

 ドワーフさんは、そう言いながら金髪の赤ちゃんを父さんにそっと渡す。

 さすがに3人目ともなると、父さんは慣れたもので、上手く赤ちゃんを抱っこしてニコニコしていた。

 ちなみに4人目では無い。

 何故ならユリアちゃんは、実は俺やコルネちゃんの遺伝子情報を元に造り出された一種の人造人間?

 サラやリリアさんの様な特殊な肉体をベースに、ダンジョンマスター達の技術の粋を尽くして生み出されて、俺達の妹として行け入れられたので、赤ちゃんだった時期が無いんだ。

 だから、3人目で合っているのだ。


 次にドワーフさんがユズキに黒髪の赤ちゃんを渡そうとしたが、初めての子供で慣れないからか、細かな指導を受けている。

 頭と首をしっかり支えろ、胸にくっ付けて抱け、覆いかぶさると呼吸が出来なくなるから注意しろ、肘をはれ…等々。

 そう言われたら、俺も前世では看護師さんに抱き方を教わったなぁ…こればっかりはどの世界でも一緒なんだな。

 ユズキの抱き方が悪かったのか、おっかなびっくり抱っこしていて、赤ちゃんが「ふにゃぁ…んぎゃ…」と、何だか泣きそう気配が。

 慌てたユズキは、赤ちゃんを抱っこしたままユズカの元へ。

 ユズカはニッコリと笑いながら赤ちゃんを抱っこすると、

「お腹が空いてるみたいなので、おっぱいあげますね…」

「そうね。それじゃ、私の赤ちゃんにも…」

 母さんにそう言われた父さんも、慌てて母さんに赤ちゃんを預ける。

 そして、さっさと俺とユズキと父さんは、一緒に部屋から退散。

 やっぱ、母は強し…なのかな?


 赤ちゃんへの授乳シーンなんて見たくないよ。

 多分、俺達に見られたって、きっとユズカも母さんも恥ずかしくないんだろうけど、見てるこっちが恥ずかしいんだって。

 赤ちゃんのお食事なんだから、そりゃ母親からしたらそう恥ずかしがるものでも無いのかもしれないけどさ…。

 もちろん女性陣は全員部屋に残ってるけど、異星が見て良いものでも無いからな。

 取りあえず授乳時間が終わるまで、俺達男共は廊下で待機。

 この後、ユズカと母さんの部屋が別々になったら、ユズキと父さんであれば授乳に立ち会っても問題ないだろう。

 いや、コルネちゃんとユリアちゃんも大丈夫だな。

 そう言えば、コルネちゃんが産まれた時は、良く母さんがお乳を与えてるの見てた思い出が…。

 でもあの時の俺は子供だったし、妻もいる身でそれを見るのは問題あるよな。


 いつも間にやら廊下の壁には、等間隔で明かりが灯されていた。

 ブレンダー達が部屋から出て来た俺達に遠慮がちに近寄って来たのだが、「母子共に健康。問題なし」と伝えると、また歓喜の踊りを披露してくれた。

 ただし、無音で。

 まあ、妖精ともっち君なら問題ないと思うけど、遠慮しているのか俺達と共に廊下で舞踊っていた。

「ところで、赤ちゃんの性別は?」

 改めて父さんとユズキに聞いたのだが…何故か2人共知らなかった。

「何でだよ! 普通、一番気になる事だろうが!」

 俺が文句を言うも、2人共無事に生まれるかどうか、母体に問題が起きないかどうかって事ばっかり考えてて、赤ちゃんの性別まで気が回らなかったとか。

 無事に元気な赤ちゃんの顔を見る事が出来たので、次に部屋に入ったら聞こうと思うって…のんびりだな、おい!   

 まあ、それもいいか。

 今日は妊娠報告と無事の出産でおめでた続きだ。

 あんまり騒がしくするのは駄目だろうけど、とにかうこんなおめでたい日に、野暮な事を言うのは止めよう。

 さって、それでは俺も部屋で悪阻に苦しんでいるメリルとミルシェの所に顔を出そうかな。


 こっちもいつの間にベッドを並べたのかしらないが、同じ部屋で横になっているメリルとミルシェ。

 2人につきそうコルネちゃんとユリアちゃんも、首を長くして待っていた無事の出産を報告した。

 コルネちゃんとユリアちゃんは、新しい弟妹どっちか分からないけど、とにかく大喜び。

 メリルとミルシェも、年は離れているが新しい義理の弟妹に、まだ少し青い顔をしながらも喜んでいた。

 ユズキとユズカの子供? すでにあの2人の赤ちゃんなら、俺達の家族の様な物。

 だから、それを含めての新しい弟か妹なんだよ。

「では…来年の出産の時には…ユズカにアドバイスを…もらえそうですね…」

 まだ少し吐き気が残るのか、時折何かを堪えながら、メリルがそう言うと、

「それ…は、心強い…です…」

 ミルシェも同じ様に、何かを堪えつつもそう言って微笑んだ。

「そうだな。来年は2人の番だ。万全のサポート体制を敷くから、安心して元気な子を産んで欲しい」

 まだ先だけど、なんだか気合が入って来た!

「ところで…」「トールさま…」「お兄さま…」「おにいちゃん…」

 メリルとミルシェ、コルネゃんにユリアちゃんが、が俺をじっと見つめて何か言いたそうにしていた。

「何だ?」

 すると4人は顔を見合わせた後、俺に向き直って言った。

「「「赤ちゃんは男の子、女の子、どっち?」」」「あかちゃんは、おとこのこなの? おんなのこなの?」

 おう、聞かれると思ったぜ。

「うむ、実はまだ知らん!」

 だから、こう言うしかないのだ。

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