第962話  新たなる家族

 怒らりますた。

 一番大事な事だろうって、それはもう妻たちにも妹達にも、とってもとってもとっても怒らりますた。

 いや、でも一番大事な事って、母子共に健康って事なんじゃ?

 え、それは当然? それが分ったから、子供の性別を聞いてんだって?

 はい、すみません…ご尤もです…。


 ってなわけで、急ぎ産室までダッシュで確認しに行きましたとも。

 授乳も終わった赤ちゃんは、ベッドですやすやとお休み中との事で、そっと室内へと案内された。

 そろ~っと部屋に入ると、2組の夫婦は楽しそうに歓談し、その他の女性陣は眠っている赤ちゃんに群がっていた。

 まあ、そりゃ可愛いもんなあ。

 んで、男の子なの? 女の子なの?

 

 赤ちゃんの性別を確認したら、またまたダッシュで奥さん達の元へ。

 今度はミレーラとマチルダとイネス、それとナディアにアーム、アーフェン、アーデと、その他大勢の妖精達&ペットまでぞろぞろと俺の後ろにくっ付いて来たよ。

 部屋で俺の帰りを待つ奥さん達に性別発表!

 俺にくっ付いて来た後ろの女性陣は、もう全員知ってるけど…。

「決定しました!」

「「「決定!?」」」「おにいちゃん、きまってなかったらたいへんだよ?」

 あ、うん…ちょっと言い方が変だった。

 そしてユリアちゃん、意外に鋭いつっこみありがとう。

 勿論、ちゃんと聞いてきましたとも!

「え~、ごほんっ! 結果発表!」

『ごくりっ!』

 あ、唾飲んだのは、元々部屋に居た奥さん2人と妹2人ね。

「父さんと母さんの子供は、何と…何と…何と!」

『何と!?』

 息を止めて俺の言葉を待つ奥さん2人と…って、それはもういいや。

「非常に、とても残念なことに…男の子でした…がっくし」

『何が残念なんですか!』

 あ、今度は部屋中からクレームが起きた。

「新たな義弟の誕生なのでしょう? 何が残念なのですか?」

 マチルダの問いかけに、俺は勿論だが胸を張ってこう答えた。

「妹が良かったからに決まっている!」

 あ、あれ? 何で全員、引くの?

 俺の気持ちわかるよねぇ、コルネちゃん、ユリアちゃん!

「近寄らないでください!」「おにいちゃん…ちょっとひくわぁ…」

 がーーーん! 妹にまで拒否られた!

 あ、でも…その汚物を見るような蔑みの目は、ちょっと良いかも…。

「もう、そんな事はどうでも良いですから、ユズユズ夫妻の所は!?」

 メリルさん、そんなに興奮すると、また気分悪くなるよ?

 誰が怒らせたんだって? 一体、誰がそんな事したんだ! まったく、許さんぞ!

 え、どうでも良いから、早く言え? 

 はいはい、分かりましたよ…妊娠してから気が強くなったんじゃ…ああ、はい! すぐにでも! 

「え~ユズユズ夫妻の所は、可愛い…本当に可愛い女の子でした…ちくせう!」 

「あ、っという事は?」

 コルネちゃんや、どうしたんだい?

「もう名前まで決まっていると言う事ですわね!」

 そういや、出産前に決めてたって言ってたな。

「勿論だとも! 子供の名前は、ユズノちゃんだ!」

 イネスさん…何で言っちゃうかなあ…。


 何故か巻き起こる万歳三唱。

 それを、ただぼうっと見つめる俺。

 この部屋の中って、男は俺一人。 

 出産という、女性にとって、命を懸けた大勝負を乗り越えて、母子ともに健康。

 それだけでも、彼女たちにとっては、とてもとても尊敬出来る事であり、めでたい出来事なのだろう。

 俺だって、その大変さを理解してない分けじゃない。

 でも、何だろう…?

 ふと遠くから冷静に今の俺を見てい自分が居る様な、幽体離脱したかの様な変な気分。

 これって、やっぱ同性だから共感できる物があるって事なんだろうか?

 メリルにミルシェは、順調に行けば来年には同じ様に出産が待っている。

 他の嫁ーずも、そう遠くない日に、この命を懸けた大勝負に挑む日が来るだろう。

 男って、そんな時に全然力になれないんだと思うと、何だかちょっと変な気分だ。

「トールさま、どうかされたんですか?」

 マチルダが、そんな俺に声を掛けて来たけど、今の気持ちをどう説明して良いか分からなかった。

 だから、ついつい真面目な顔で答えたんだ。

「いや…俺たちの弟の名前は、一体なんて名前になるのかと思ってな…」

 コルネちゃんとユリアちゃんが、その言葉で思い出したかのように顔を見合わせると、

「きっと、男の子らしい、格好いい名前になると思います」

 …俺の名前も男らしく(?)て、 格好よくない?

「つようそうななまえがいいとおもうなあ。ごんざれすちゃんとか」

 ユリアちゃん、ゴンザレスはちょっと…いや、でも愛称はゴンちゃん?

 どっかのサッカー選手みたいだな…それはそれで良いの…か?


 さっきまでの変な気分はどこかに吹き飛び、部屋の中は新たなる家族の名前で大盛り上がりしたのであった。 

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