第956話  最強の布陣

「ふぅ。かえったど~!」

 何だか力が抜ける様な事を言いながら、サラが俺達の居る廊下にやって来た。

「帰ったって、どこ行ってたんだ?」

 そりゃ聞くよね?

「ただいま戻りました。どこへって…リーカの邸へと連絡に行ってたに決まっているではないですか」

「「あ!」」 

 サラの後ろから姿を見せたリリアさんの言葉に、俺と父さんの声が重なった。

 関係各所への連絡を、完全に忘れてたよ!

「もちろん、リーカに駐留中の騎士や兵士の方々にも連絡はしてあります。こちらが落ち着いた頃合いを見計らい、代表の方がご挨拶に来るそうです。あと、ついでに王都の邸の方にも連絡は入れておきました」

 おお、流石はリリアさんだ! まるで、どっかの大会社の秘書の様だ!

「そ、それはご苦労だった。私も気が動転して、連絡などすっかりと忘れていたから助かった」

 そう言って、父さんはリリアさんに頭を下げた。

 俺の父さんは、侯爵様だからって、偉そうにふんぞり返ってる様な品性下劣な男ではない。

 元々平民だったからか、礼をする時はきちんとする、出来る男なのである。 

「リーカの邸の使用人達が、こちらでの手伝いを申し出てきましたが、丁重にお断りしました。手は十分にありますので」

 まあ、確かに手伝いしてもらう程でもないよな、現状では。


「ところで、こんな所で男3人、何してんですか?」

 不思議そうな顔で俺達を見回すサラ。

「ああ、うん…。何というか…落ち着かなくて…」

「はぁ~? 何言ってんすか、おお…伯爵様。大旦那様やユズキは分かりますが、あんたの子供じゃないでしょうが?」

 お馬鹿なサラに、馬鹿にされた…。

「い、いや、そうは言うが、俺の母さんの出産だぞ? しかも、妹か妹か妹か弟が産まれるかも知れないんだぞ?」

 ちゃんとした理由あるのだ!

「妹が多いわ! シスコンすぎだろ!」

「いえ、サラ…大奥様を心配しての事ですから、隠れマザコンの可能性も…」

 サラもリリアさんも酷い…。

「とにかく、大旦那様も旦那様もユズキも、応接室のソファーにでも座って、大人しくしてなさい! 今あんところでウロウロしてるなんて、迷惑です! どうせこんな時には男なんて何の役にも立たないんですから!」

 リリアさんの仰ることはご尤もです。

「だけどな…どうにも落ち着かないのだ…少し離れるから、廊下にだけは居させてくれないか?」

 父さんが、妙に腰低い。

 確かに母さんは高齢出産だもんなぁ…まだ30代半ばだからそう高齢って程でもない?

「ぼ、僕も柚夏が心配で…だから、廊下で待ってていいですか?」

 ユズカは初産だもんなぁ…しかも10代。

 もしも転移して来てなかったら、高校卒業したぐらいだもんなあ…そりゃ心配だよな。

「お、俺だって母さんが心配なんだよ。もしも母さんの身体や妹とか妹とか妹とか弟にもしもの事があったら…」

「だから妹が多いって言ってんでしょ! あんた、大奥様に三つ子とか産んでもらう気ですか!?」

 五月蠅いよ、サラ!

「そうですか。皆様のお気持ちは理解しましたが、産室 の前で待たれられましたら、手伝いに出入りする者も気になりますし、邪魔にもなりますので、どうか少し離れてお待ちください。産まれましたら、お声がけいたしますので」

 そうリリアさんに言われてしまったら、何も言い返せない男3人。

 関係ないけど、女3人だと姦しいって漢字があるけど、男3人だと漢字あるのか?

 サラとリリアさんに、しっしっ! とされ、男3人は廊下をとぼとぼと歩いて離れ、少し離れた所で産室をじっと見つめた。

 そんな俺達の様子を見てから、サラとリリアさんも産室へと入って行った。


 母さんとユズカが同時に産気づいた時から、もう随分と時が過ぎた様な気がする。

 具体的には、体感的に3時間ちょっとかな?

 さっきから、やけに慌ただしく産室を出入りする人が多くなってきた。

 良く見ていると、ドワーフメイドさん達はおにぎりとお茶をお盆を手に入っていったり、イネスやマチルダがトイレにダッシュしたり。

 リリアさんと妖精達がお湯が入った桶を両手に持ってたり…。

 もしかして、いよいよか?

 そろそろなのか?

「おい、ユズキ! もうすぐっぽいぞ!?」

「う、うぇ!?」

 テンパってんな、ユズキ…。

「いや、多分ウルリーカの方が先だぞ? ユズカは初産なんだろう? だったら時間がかかるはずだ」

 さっきまでアワアワしてた父さんが、ちょっと落ち着いたのか、冷静にそうユズキに言葉を掛けた。

「あ、た…確かに…」

「心配するな。あの部屋の中の面子を思い出してみろ。私も色々と動揺して冷静さを欠いていたが、あの部屋の中のメンバーをよくよく思い出してみると、多分この国で最強の布陣だ。間違っても問題が起こるなど考えられないではないか」

 妙に堂々とした父さんに、俺とユズキは顔を見合わせた。

 そうだよな…最強の回復魔法を使えるであるミレーラが居るんだから、滅多なことがあるはずなど無い。

 お産って聞くと、大量の出血が…とか考えちゃうけど、それこそ妖精族の精密なシールド魔法で、出血箇所だけを覆って止める事だって出来る。

 経験豊富なドワーフメイドさんもいるし、当然だけど魔法が得意な魔族の女医さんが2人も居るんだ。

「そうだよな。もしもなんてあり得ないよ、ユズキ」

「そうですね…確かにそうですね…」

 そうは言っても、ユズカの事が心配でたまらないんだろう。

「そうだぞ。だからユズキは産まれてくる子供の名前でも考えておけ」

 っと、父さんは言うけれど…。

「父さんは、産まれてくる子の名前を考えてるの?」

「お、おう…もちろんだとも!」

 父さん、どう見ても考えてる様には見えないんですけど…。 

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