第957話 名前?
確かに言われた様に、檻の中の熊の如く廊下を行ったり来たりとウロウロするのは俺もどうかと思う。
しかも、男が3人も集まってだと、なかなかに鬱陶しい光景だろう。
産婦人科の廊下で3人の男がウロウロしてたら、俺だって『何してんだ、こいつら?』って思うもんな。
うん、ちょっと餅搗こう…じゃない、落ち着こう。
落ち着こうとすると、興味が他の事に向くのは、代償行動の一種なのか?
ウロウロするのを止めて落ち着く代わりに、この何とも言えない気持ちを紛らわせるのに、考え事をするのが代償ってのは変かもしれないけど。
「んで、ユズキは子供の名前考えてるのか?」
結局、考え事も2人の出産に関係してくるのは、まあ仕方ない事だと思って欲しい。
「名前ですか? えっと、男の子だったら柚流で、女の子だったら柚乃ですね」
おっと、やっぱ2人の子供はユズ付の名前か。
「なかなか良い名前じゃないか」
俺がそう褒めると、
「この世界には、字画がどうとか言う人は居ませんから…」
ユズキは小声で、そう言った。
確かに、姓名判断とかそれに類するのはこの世界に無いなあ。
「だから、2人で考えて決めてました」
なるへそ。
前世では、確かに子供の名づけにはめっちゃ時間かかったもんなあ。
姓名判断とかの本を何冊も見たけど、吉数って何だよ!
ほとんどの女の子は結婚したら姓が変わるんだぞ? 変わったらどうすんだよ!
キラキラネームだと年取った時に恥ずかしいとか、読みにくい名前は駄目だとか。
俺に一体どうせいっちゅーんじゃ! って、頭が爆発しそうになったもんだ。
最終的に上の子の時は、考えてるときに食べてたお煎餅の名前を、漢字を変えてつけちゃった。
下の子の時なんか、『ただの人間には興味ありません! この中に宇宙〇、未来〇、異世界〇、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい!』って言ってた、おかしな能力を持ったSOS〇の団長してる女子高生の名前をもじって付けちゃったし…男の子だったけど…。
それに比べたら、良い名前なんじゃないかなあ。
ちょっと落ち着いてきた俺とユズキだが、未だに落ち着きの無い父さんが廊下の隅っこに居る。
さっきまでよりは目立たなくなったが、それでもウロウロソワソワと落ち着かない様子の父さん。
「お~い、父さんはどんな名前考えてるの~?」
そんな父さんに話を振ってみた。
さっき考えてるとか言ってたしね。
「ん、名前? 男の子だったら、レオナルドだな。女の子だとオードリーだ」
それを聞いた俺とユズキは固まった。
「ちょ、伯爵さま…どっちも超有名なハリウッド男優と女優ですよね?」
「あ、ああ…。いや、待て待て…もしかしたら超有名で天才と評された画家のダ・ヴィンチさんの方かもしれんぞ?」
「ああ、確かに! でも、オードリーって、女優以外だと…お笑いコンビしか思い当たらないですが…」
「なぬっ? そんな名前のコンビがいたのか? 俺の前世の記憶では、ちょっと思い出せないなあ。まあ、あんまり芸人とか詳しくなったから知らないだけかも…。んで、お笑いコンビって女?」
「もしかしたら伯爵さまが転生した後に有名になったのかもしれませんね…ちなみに男です…むっさい、男のコンビ!」
「そりゃ駄目だろう…。やっぱ女優の方だな」
「ですねえ…」
俺とユズキが小声でぶつくさ命名候補について語っていると、父さんが、
「どうだ、良い名前だろう!」
っと、何か滅茶苦茶旨を張ってドヤ顔してた。
そんな父さんを見た俺とユズキは、愛想笑いしか出来なかった。
「何故か母さんには不評だったが…」
母さんナイス!
「まあ、また母さんと相談するよ」
「「絶対にその方が良い!」」
俺とユズキは、声を揃えてその意見を全力で支持した。
それを聞いた父さんは、ガックリと肩を落としていたが。
そんなにその名前に自信あったのか?
いや、まあ…この世界の事しか知らなきゃ、それもアリっちゃ~アリなんだが。
何と言うか、俺の邸には地球の事を知ってる奴が多いからなあ。
俺、ユズキ、ユズカだけで無く、サラにリリアさん。
あとは、俺の前世の記憶をどうやってか知らないが知っているナディアにアーデ、アーム、アーフェンもいる。
新たなる命にそんな名前を付けたら、絶対にどっかから突っ込みが入る…いや、入らないかも知れないけど、それでもあんまりいい顔されない気がするんだよな。
まあ、そんなことは父さんには関係ないことかもしれないけど…。
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