第951話  魔法ってなんだ?

「ふむ…概ねその認識で良い。では、お主が述べた中に出てくる、『己の中にある仕事をする能力』とは、一体なんじゃと思う?」

 俺が魔法に関しての乏しい知識を語ると、ボーディはこんな質問を俺に投げかけた。

「ほぇ? そりゃ、魔法的な何か…ってか、それが魔力なんでは?」

 それしか無いだろう?

「なるほど、そう認識されておるのか」

「え、違うの?」

「うむ。魔力とは少々違うのじゃ。魔力とは、魔素が元になっておるのじゃ。つまり、肉体に魔力は無いのじゃ」

 ほうほう! 初めて聞く概念だ。

「肉体が保有する『己の中にある仕事をする能力』というのは、お主もよく知っておる魂のエネルギーの事なんじゃよ」

「ちょっと待て。それじゃ何か? この世に生きている誰もが持っているエネルギーって事なのか?」

 魂のエネルギーなんだから、全員が持ってなきゃおかしいよな? な?

「そうじゃ、その通りじゃ。この世界に…いや、あらゆる次元に生きている者は、大なり小なり須らく持ち得るエネルギーの事じゃ」

「ってことは、誰でも魔法が使える?」

「まあ、基本的には…じゃが」

 あれ? でも、地球では誰も魔法が使えなかったような?

 30年間童貞を守ってても魔法使いには成れなかったとか何とか…これは違うか。

「お主が言いたいことは分かるぞよ。誰もが魂のエネルギーを持っているが、誰もが魔法が使えるわけでは無いのは何故か…じゃろ?」

 俺の心を読まれたか?

「それは、簡単にいれば魔素の存在と人の退化が主な原因じゃ」

「退化?」


 魔素の存在ってのは、何となく分かる。

 つまりは、魔素が薄いもしくは無い世界があって、そこでは魔法は使えないって事なんだろう。

 でも、人って退化してんの?

 昔、何かの科学雑誌で、未来の人間は機械とかが色んなことをしてくれるから筋肉とかが退化して手足が細くなるとか、頭を使うから頭でっかちになるとか書いてた。

 んで、そこに載ってたイラストが、ガキの俺にはどっからどう見ても宇宙人にしか見えなかった。

 もしかして、この世界の人族ってのも、そうなって来てるのかな?

 いや、それにしては筋肉バカの父さんなんて、その退化とは真逆なような…。

「お主、色んな知識がごっちゃになって無いかや? あくまでも退化したのは、魂のエネルギーを使って魔素に意思を伝える器官…つまりは脳内の事じゃぞ?」

 あ、またボーディに心を読まれた。

「いや、全部口に出とるんじゃが…」

 あ、さいでっか。

「脳の中…にある器官が退化…」

「そうじゃ。まあ、もっとはっきり言えば、脳の部位では無く、意識領域内の事なのじゃ」

 んんん? 何か難しくなってきたぞ?

「簡単にいえば、意識領域とは、顕在意識、潜在意識の事じゃの」

「どっかで聞いたことが有るような…無意識とは違うのか?」

「無意識とは潜在意識の事じゃな」

 なるほど。

「まあ、顕在意識や潜在意識の下位には、もっと多くの区分けがあってのぉ…魔法に関しては、過去の人が誰もが持っておった、潜在意識の下位に存在した、意思共鳴領域の退化が原因なのじゃ」

「聞いたこともねぇよ、そんなん…」

「そんな事はわかっておる。こんな文明が遅れておる世界や、魔法がそもそも使えない世界に、既に退化しておる物が知れ渡っていれば、そっちの方がびっくりするのじゃ」

 確かに、言われてみればその通りだな。

「まあ、退化した理由は色々とある。そもそも魔素が無くて使われなくなったとか、魂のエネルギーが少なすぎて魔素に干渉出来無くなったとか、本当に色々とあるのじゃ。で、じゃ…」

「で?」

 やっとこ本題か?

「お主は、魔法…っぽい物が使えるな?」

「まあ、魔法かどうかはよく分からんが。精霊さんにお願いすれば、それっぽいのは使えるな」

「うむ。まあ、お主はこの世界の魔素を精霊に進化させてしまった様じゃがの…」

 そうでしたね…。

「いや、別に責めておるわけでは無いぞ? どうせこの世界の者には魔素の存在など感知できぬのじゃから、それが精霊になった所で問題はない。それに魔素が減ったわけでは無い。まだまだ湧き出てくるゆえにな」

 え、湧き出てくる? 

「ああ、細かい所は気にするな。話の続きじゃ。ここまでの話で、魔法に関して少しは知識も増えた事じゃろう」

「まあ、確かに知らなかった事もあったから勉強になったな。んで、続きとは?」

 こいつ、話しが長いなあ…。

「うむ。では、ここで質問じゃ。お主の様に魔素を感じ魔法を使える者以外でも、魔法に似た現象を引き起こす事が出来る物があるのじゃが、それが何かわかるかや?」

 おっと、これは簡単だ。

「魔道具だろ? あ、俺の呪法具もそうか」

「正解じゃ。では、何故魔法が使えぬ者が魔道具や呪法具を起動させ、魔法に近い減少を引き起こせると思う?」

 これも難しくはない。

「魔力に相当するエネルギーを、魔石で補ってるからだろ?」

 すると、ボーディはゆっくりと深く頷き言葉を続けた。

「そうじゃな。そこで問題なのが、例の魔法陣じゃ。アレには魔石が無い」

 ほう?

「魔石も使わず魔法陣を起動させておる」

 なるほど!

「つまり、誰かがあの巨大な魔法陣に魔力を注ぎ、起動させておるという事じゃ」

 …えっと、どゆこと?

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