第950話 属性
「これから話す事は、お主には少々衝撃的な内容かもしれぬが、心して聞け」
俺の執務室のソファーにどっかと座ったボーディが、俺を真っすぐに見てそう言った。
ボディーの両横には、モフリーナとモフレンダが座り、静かにお茶を飲んでいた。
「我等がそれぞれ話をすると、お主も混乱するじゃろうから、メインで話すのは妾だけじゃ。2人には妾の話で足りない部分があった時に捕捉をして貰うつもりじゃ。トールヴァルドも、モフリーナもモフレンダも良いな?」
先程までとは一変して真面目な顔でそう言うボーディの言葉に、ただ黙って俺達は頷いた。
然程通信の終了から時も経ず、すぐにダンジョンマスターずが我が家にやって来た。
食堂に入って来た3人は、とてもニコヤカナ笑みを浮かべて、メリルとミルシェの2人に祝辞を述べ、もう出産間近な母さんとユズカには、出産へ向けてのエールを送った。
そして、残る嫁ーずにも、早く妊娠するようにと発破をかけたりしながら、とても楽し気であった。
ダンジョンマスターず達の参加によって、まるで食堂はお日様にぽかぽかと暖められている様な、とてもふんわりした場になった。
暫しそうして女性陣で会話を楽しんだ後、モフリーナが女性陣に向かって、
「では、少々込み入った話がございますので、暫くの間ご主人をお借りしますね」
そう言って、ボーディとモフレンダを伴って、俺の前へと進み出た。
俺父さんやユズキに、ちょっと席を外すと告げ、談笑している女性陣にも同様に声をかけて、ダンジョンマスターずと共に誰にも干渉されない様に、俺の執務室へと向かう。
ドワーフメイドさん達も、お茶と菓子をさささっと俺達の前に並べると、何かを察したのか無言で執務室を後にした。
そして、場が落ち着いたのを見て取ったボーディが口を開いたのだった。
「うむ、良い様じゃな…では話を始めるとしよう。先にも通信で少し報告したのじゃが、あの地の調査報告の続きじゃ」
来訪の用件がそれである事は、言われずとも分っていたので、驚いたり話の腰を折るような事は言わない。
まあ、通信で宝庫k樹された内容と言えば、領域化は完了したって事ぐらいだ。
「我等があの血をダンジョン領域化して調査をしたが、あまり望んだ様な結果は出なんだ。ナディア達が発見した(仮称)魔法陣の存在の確認と、更に北方にある巨大な湖、それとその湖の周辺に住む少数の人族の存在だけしか確認出来ておらぬ」
領域化しても、完全にその地を支配下に置いて詳細が分かるって事はないのね。
「さて、ここで問題なのは、ナディア達が遭遇したひよこの存在じゃ。これは領域化だけでは確認出来なんだ」
ふむ?
「樹々や小動物や虫ですら我らには分かるというのに、ひよこだけは何故か発見できなんだ」
ひよこってのはナディア達の幻覚? いや、そんなはずは…。
「なので、妾達は何種類かのダンジョン産のモンスターをあの地に送り込んで調査をさせてみたのじゃ。結果は大当たりじゃった」
「ほう?」
思わず声が出ちゃったよ。
「結果を先に述べるとじゃな…ひよこ達はおった」
ひよこ…達…ね。つまりは複数体いるって事だな。
「そして、あの魔法陣に関しても解析が出来たのじゃ」
「おぉ!」
あ、やべ。また声が出ちゃったよ。
「まず、あの巨大な魔法陣じゃが、ひよこ達が造った物じゃ」
そこで間を取るためか、ボーディが温くなったお茶で唇を湿らす。
特にモフリーナもモフレンダも、その間に捕捉を加える事も無く、ただ黙ってボーディの横に座っていた。
2人から補足が加わらなかった事を確認したボーディは、ゆっくりと言葉を続けた。
「さて、ここで少しだけお主へ質問じゃ。魔法とは何じゃと思う?」
唐突なその質問に、俺は少し首を傾げた。
「えっと…魔法?」
「そうじゃ、魔法じゃ」
魔法…子供の頃、転生した俺が憧れたファンタジーの定番。
その入門編というか初級編というか、その一端に最初に触れたのは、父さんの書斎にあった【初めての魔法】という本だった。
いや、あれの表紙はどっかの漫画とかの男の子がエロ本を隠す定番の様な扱いになってたけど…。
とにかく、何とか手に入れる事が出来た魔法の書で、俺は魔法という物に触れた。
そして、夢中になた俺は、あの本は何度も何度も繰り返し読んだものだ。
そもそも、人であれば誰もが大なり小なり己の体内に蓄えられた仕事をする能力を持っている。
魔法とは、その能力で魔素を操り、意図した現象を引き起こす事。
なので、魔法の最初の一歩は、まず魔素を感じる所から始める。
だが、現代の人々では、ほとんどの人は魔素を感じる事が出来ない。
一部の種族的な固有の能力によって、魔法を使う事が出来る種族も居るにはいる…それが魔族さんだ。
だが、遺伝的に種族に備わっている様な能力ではなく、人が普通に魔法を使うためにはどうするかというと、まずは魔素を感じ取らねばならないのだ。
その最大の難関をクリアー出来た物は、次いで己の中にある仕事をする能力に適合した魔素へと意思を伝えねばならない。
この時、正しく意思を伝える事が出来るかどうかは、己の中の仕事をする能力と相性の良い魔素があるかどうかによる。
例えば、己の中の仕事をする能力で、とある魔素に炎を出す様に意思を伝えようとしたとしよう。
だが、意思を伝えようとした魔素が相性が悪ければ、炎は発現しない。
逆に、魔素が炎を発現したくとも、己の中の仕事をする能力が炎の発現の意思を正確に伝えれねば、これも駄目。
斯様に、【初めての魔法】という名の本であるにも拘らず、結構迂遠な説明文だったのを覚えているし、著者も魔法を使えなかったのか、内容が微妙だった。
だが、俺には前世でヲタク街道まっしぐらだった男だ。
この迂遠な文章内容なんてものは、ヲタク知識をもってすれば、たった一言で説明できるのだよ。
その一言とは、きっと誰でもすぐに思いつく言葉。
そう、属性だ!
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