第937話  快楽の海

  翌朝、騎士や兵士たちは、次々と目を覚ました。

「ここは…?」

 そう言って、仄明るい部屋の、見知らぬ天上を見上げる男。

 確か、自分は昨夜美味しい食事をとった後、天幕で横になったはず…そこまでははっきりと思い出されたのだが、どうにも記憶だけでなく、思考までもぼんやりとした感じがして、すっきりと目覚めない。

 ベッドから半身を起こして、軽く頭を振ってみた。

 そう、確かに砂浜に張った天幕で昨夜は横になった。

 夕食時に出された酒を呑みはしたが、記憶を失う程に飲んではいないはずだ。

 確かにベッドでなど横になっていないはず…と、そこで男は自分が裸である事に気付く。

 絶対に寝る時に裸になどなっていない。

 そう気が付いた時、不意に男の横で何かがもぞもぞぞと動いた。

「ん?」

 そうっと、自らに掛かっていた真っ白なシーツをそっとめくってみる。

 すると、そこには上半身裸の美女が。

「えっ?」

 思わずシーツを元に戻した男だが、目の錯覚かどうかを確認するため…などという、とってつけた様な言訳を準備しつつ、再度シーツを捲り上げる。

 それも、隣の裸の美女の腰から下まで見えるまで、そっと彼女を起こさないように…。

 そして、そこにあったものは…艶めかしく輝く魚の鱗…そして尾びれ…。

「おぉ?」 

 紛れもなく人魚であった。

 何で自分がこんな所で眠っていたのか? 何でとなるに裸の人魚さんが眠っているのか?

 男の頭には、そんな疑問が浮かんだが、そんなものをふっ飛ばす程の衝撃が男を襲う。

 寝ている彼女の顔は、正しく男の好みんの超ど真ん中だったのだ。

 サラサラと流れる様な美しい金色の髪、閉じていいるからこそはっきりと分かる長いまつげ、小ぶりではあるがすらりと整い高いた鼻、ふっくらとしつつも潤んだ艶やかな唇。

 どれもが好みである。めっちゃ好きである。

 しかも、はっきり言ってデカイ! どこなのかは敢て言わないが、デカイ!

 男は、心の中では駄目だと思いつつも、手が勝手にその大きな物へとゆっくりと伸びて行く…が、自制心が邪魔をしたのであろうか、寸での所で手を引っ込めようとしたその時、ガッシと手を掴まれた。

 今まで寝ていたはずの人魚さんに。

 そして、ゆっくりと目を開けた人魚さんは、その掴んだ男の手を自らの胸へと導く。

 さあ、揉みなさい。あなたの好きな様に、好きなだけ…そう、彼女の目が語っていた。

 もう、男の自制心は、どこか知らない空の彼方へと飛んで行ってしまった。


 そして始まる狂…恐…凶…乱? …の宴。

 騎士や兵士200名と、人魚さん達によるその宴の始まりは、あまりにも唐突だった。

 やがて広がる潮騒よりも大きなその嬌声は、待機していた次の人魚さんへと引き継がれる。

 やがて順番待ちなど出来なくなった人魚さん達が、次々と部屋へと雪崩れ込み、乱〇パーティそのものに。

 しかし、なまじ体力と精神力の高い男達は、その快楽を長く味わうためなのかどうかは判別できないが、次々とやって来る人魚さんとの行為に耽って行った。


 自分達の置かれた状況は忘れた。

 理性の箍など、とうに外れた。

 自制って何? それ美味しいの?

 それよりも今の状況の方が美味しいに決まっている!

 騎士や兵士などしていれば、どうしても異性とは縁遠くなってしまう。

 これがそこそこ良家の出であれば、家が許嫁を見繕ってくれたりもするだろう。

 だが、平民出の彼等には、そんな未来はあり得ない。

 なけなしの給料で、月に1回ぐらい街の娼館に行ければ良い方だ。

 たった月1回のほんの数時間の異性との触れ合いとは言え、それは天にも昇る快楽を彼等に与えてくれる至福の時間。

 それが、幾らでもお代わりの美人たちが押しかけて来て、彼を求めてくれる。

 こんな夢の様な時間が、美味しくないわけが無い。

 何故か何度果てようとも、美しい人魚達が交代すれば、また欲望が頭を擡げる。

 無論、これ人魚さん達が口移しで飲ませている、魔族さん特製の強精剤のせいなのだが、もはや快楽の海に爪先から頭までどっぷりと浸かってしまった男達に、理解出来ようはずもなかった。

 こうして、何時終わるとも知れない人魚さん達の饗宴は続くのであった。


 ちなみに、ホワイト・オルター号では、妖精達の見守る中? トールが嫁ーずにとことん搾り取られていた。

 因果応報とは、正しくこのトールの様な事を言うのだろう。

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