第938話  超凄絶・極み赤潤蹴丸薬

 永き時、定住地を求めて彷徨い続けて来た魔族は、アルテアン伯爵領の領主である、トールヴァルド・デ・アルテアンに、非常に感謝をしていた。

 多くの家畜を飼養するために、広い土地を求めて様々な土地を訪れたのだが、どの土地でもそこの領主が高い土地の使用料や高い税の要求があったため、なかなか一所に定住することが出来なかった。 

 そんな時、女神からの神託(実際はサラの声)がとある魔族に降りたのである。

 曰く、『西にあるアルテアンの名を持つ者の土地が、魔族の定住地となるだろう』…と。

 その神託に一縷の望みを繋ぎ、彼等はただひたすら王国の果ての地を目指した。

 やがて、魔族はアルテアンの地へとたどり着き、美しい湖が見下ろせる小高い丘で、まだあどけない少年であるトールヴァルド・デ・アルテアンと出会った。

 彼は、魔族が大切に育てていた家畜に喜び、広大な牧草地をあっという間に創出し、魔族達が家や畜舎を造る為の大量の資材も無償で提供してくれた。

 魔族一同で力を合わせて住居と畜舎、牧草地帯の周りに柵を造りあげた、

 彼等は永い時を経て、ようやく安住の地を手に入れたのであった。

 トールヴァルドはそれだけでなく、後に領地に造りあげた街の一角に、魔法を使える者…特に治療魔法や治療薬作成が得意な者…つまりは医療チームの為に、現金収入の手段として治療院を提供してくれた。

 彼は、土地代も建物の建築費も、それどころか家賃すらも請求してこなかった。

 決められた納税をすればそれでいいと言って、笑いながら彼が告げた税率はあまりにも低かった。

 税と聞き、魔族の誰もが今までの多量の領主の様な税金も覚悟をしていたのだが、彼の告げた税率はそれらの1/10程。

 魔族は涙を流しながら喜び、彼に一族をあげて忠誠を誓ったのであった。


 さて、そんな忠義に篤い魔族達。

 彼等がこの地に住み付いて早数年が経ったある日の事、魔族の医療チームにとある仕事の依頼が入った。

 それは、彼等が忠誠を誓うトールヴァルド伯爵の5人の妻達からの、熱い熱いもはや懇願と言っても過言ではない依頼。

 彼の妻達はまだまだ若くはあるのだが、未だ子を成していない。

 このまだ新しい伯爵家は、後継者が不在である。

 伯爵には妹がいるのだが、爵位を妹に継がせたとしても、やがて婿を取ればその出生元の家にこの地が乗っ取られる可能性がどうしても多少は残ってしまう。

 その為、領主家の妻としては、何が何でも跡取りが欲しいとの事。

 その為の努力もしては居るのだが、彼はどうも淡白なのか、ごにょごにょ…の回数が少ないらしい。

 なので、何回でもごにょごにょ…が出来る様な、強力な薬が欲しいので、魔族に作成を依頼してきたという訳だ。

 確かに、この住みやすいトールヴァルド伯爵領が、他の何処かの誰かの支配下になるのは魔族としては看過できない。

 そう感じた魔族の医療チームは、伯爵夫人たちと熱い握手を交わすのであった。

 しかし、完成までは何度も試行錯誤を繰り返し、幾度もの治験を行わねばならないと告げたのではあるが、婦人たちはにこやかに微笑み、『試作品でも未完成品でも構いません。依存性が無く毒で無ければ、完成の都度頂きます』との事だった。

 魔族は、罪人などに投与して効果を試すのであろうと考え、その旨を諒承した。

 

 医療チームは、魔族全体に協力を要請し、精の付く食品の情報と現物の収集を始めた。

 匂いはきついが効果絶大なニンニクやショウガやニラという植物、自ら牧畜しているヒツジやヤギといった動物の肝。

 だが、思ったような効果が見込めなかった。

 いや、魔族達が納得できなかった。

 なので、魔族と同様にこの土地で保護されている、別の種族にも応援を要請した。

 つまり、エルフ、ドワーフ、人魚達である。

 エルフ達は、彼等に伝わる強壮剤の材料として、は山々に分け入り、毒蛇や大きな熊の肝や睾丸、天然の質の巣から極小量しか採れないハチミツを提供。

 ドワーフは、少々大きいが細長い卵型の不思議な木の実、育成に非常に時間と手間のかかる不思議な形にうねった植物の根、稀に朽ちた木に生えるという扇状のキノコなど、彼等に伝わる薬の材料を提供。

 人魚達は、川に生息するという蛇の様なヌメヌメとした魚や、岩場などに付着するという鋭い貝殻を持つ貝などが提供され、街で娼館を営んでいる彼女達からも、薬が完成したら是非とも提供をと懇願された。

 それらの材料を、ある時は乾燥させ、ある時は粉末状に、ある時はペースト状にと、様々な加工を施しては領主夫人に液体であったり固形であったりと、形状こそ違えど幾度も試作品を提供し続けた。

 その試作品の治験結果や感想(?)は、数日のうちに夫人たちから都度都度告げられ、更に製薬の完成度を高めるべく魔族は日々研究に勤しんで行った。


 そして、開発から1年と少々、彼等の努力は実った。

 そう、超強力精力剤が完成したのだ。

 その名も、超凄絶・極み赤潤蹴丸薬。

 一粒飲めば、死にかけの老人で有ろうとも、ごにょごにょできる状態にしてしまうという、超強力強精剤。

 無論、高い有効性と全性は確保されている。

 これは、伯爵自らが何度も何度も繰り返し実験…では無く生贄…では無く治験者として協力し(レポートは夫人達からのみだが)、完全に安全であるという報告が(彼の夫人達からの報告だけ)あり、絶対的な保証がなされた(例の夫人達によってだけだが)のであるから間違いない事(と言う事になっている)なのである。

 そして、それはすぐに量産され、領主夫人達と人魚達が大量に購入していった。

 魔族の医療チーム一同は、薬を抱えて帰る後姿を、ただ満足気な笑顔で見送っていた…領主家から目出度い知らせが届く日を夢見て。

 ただ、何故人魚達があんなに精力剤を求めたのかという疑問は残ったが…。

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