第935話  作戦名は…

 翌日は、この広大な砂浜を使い、騎士さん達や兵士さん達の訓練にあてた。

 これには、嫁ーず&妖精ずも参加をさせた。

 合計200名からなる、騎士&兵士連合Vs.アルテアン家の女性陣9名。

 …言葉にすると、ものすごい違和感があるけど、気にしないようにしよう。

 違和感バリバリではあるが、変身した嫁ーずと全力全開の妖精ずは、はっきり言って勝負にならない。

 まあ、そもそも変身した嫁ーずと言えば、これまでも難敵を相手に戦ってきたし、ダンジョンでも戦闘訓練を重ねて来ているし、その上にシールドを自在に操り海の上すら疾走する妖精達なのだから、いくら戦闘がお仕事の男性200名が立ち向かったところで、傷の1つも負わせられない。

 なので、事前に嫁ーずにも妖精ずにも、手加減を厳重に言い渡してある。

 ここで彼等のプライドだけでなく身体まで傷つけてしまわない様にと。

 疲労で倒れるぐらいならば、全く問題ない。ちゃんと色々と癒してもらえるから…翌日には人魚さん達に…。

 そう伝えると、全員がきっちり納得し、ぎりぎりで戦力が拮抗している様にしてくれた。

 そして訓練終了時には、本当にぎりぎりで引き分けたと思われるように、全員が息も荒く座り込む演技のおまけ付き。

 君達の演技力はアカデミー賞ものだよ、いやマジで。


 その後、またもや宴会に突入。

 今夜もお酒は解禁…と、言いたいところだが、1人2杯までの限定とし、飲み過ぎは禁止を言い渡してある。

 何でかって? そりゃ、酔ったらアレがナニしてゴニョゴニョ…なのよ。

 んで、しっかりと寝て体力回復に努めてもらうためにも、本日は宴会は俺が早々に終了を告げ、就寝させる事に。

 無論、ちょっと冷たいかもしれないけれど、全員で川で身体を洗わせる事も忘れない。

 訓練で汗をかいただろうから念入りに洗えと、伯爵様からの命令だ。

 まあ、当然ではあるが、身体を洗わせる事の本当の理由なんて、誰も気付かない。

 俺と嫁ーず&妖精ずも、全員が天幕に入った事を確認し、ホワイト・オルター号に戻った。


 っと、見せかけて…例のバギー・コースの発着場からもう少し離れた所へと向かう。 

 俺は共に嫁ーず&妖精ずと共に、事前に打ち合わせしていた場所までやって来ると、明かりを得るために持っていた松明を高く掲げて円を描く様に振る。

 やがて背後の椰子の様な樹々の合間から、何人かのドワーフさんとエルフさんが姿を見せ、波の合間からは海坊主…じゃない、磯女…でもなく、人魚さんが顔を覗かせた。

 そして、俺達がどっかと砂浜に腰を下ろすと、その周囲をドワーフさんと人魚さんが周りを取り囲んだ。

 俺は、頼りなくゆらゆらと揺れる松明の明かりを頼りに、ゆっくりと全員の顔を見まわす。

 そして、俺は徐に立ち上がり、静かにゆっくりと噛みしめる様に、声を抑えつつこう宣言した。

「諸君、待たせた…。これより最終確認を行う」

 誰も声は発さない。ただ小さく頷くのみ。

 何故なら、ここで大声をあげたりすると、天幕で休む獲物が逃げ出してしまうかもしれないからだ。

「事前に打ち合わせた通り、まずはこの夜間の内に、天幕より対象全員を小舟に移す。ドワーフさん、船の数は十分か?」

 俺の問いかけに、大きく頷くドワーフさん達。

「うむ、では俺の合図で予定通り予め隠しておいた小舟を出してくれ。船の準備が完了したら…エルフさん、分かってるな?」

 同じく筋肉エルフさん達も、ゆっくりと大きく頷く。

「全員をそっと小舟に運び込む。一定数運び終わったら、エルフさんは海へと船を押し出し飛び乗る様に」

 ここで、ちょっと一息。

「無事に船が海に出たら、人魚さん達であの崖の階段まで船を引っ張って欲しい。出来るな?」

 人魚さん達、もの凄い高速コクコク。

「そして崖に着いたら、エルフさん達には申し訳ないが、今度は船から獲も…いや、対象を各部屋のベッドへと運んで欲しい。空になった船は、エルフさんを乗せて再度この浜辺まで。これを全員運び終えるまで繰り返す。何か質問は?」

 そう言って、俺が全員の顔を見まわすが、誰も何も言って来ない。

 いや、しっかりと打ち合わせしてたんだから、今更質問は…おっと、エルフさん質問ですか? どうぞどうぞ。

「アイツラ、オキナイ、ホントウカ?」

 何度聞いても、エルフさんの言葉には慣れないなあ。

 英語を自動翻訳ソフトで日本語にした様なこの変な話し方は。

「今はまだだろうが、もう少しすれば薬が完全に回るだろう。なにせ魔族さん特製の睡眠導入剤だ。しかも、アルコールと共に摂取したんだから、作戦決行から終了まで、完全に夢の中だ」

 それを聞いたエルフさん、小さくガッツポーズしてるけど…何で?

 え、もしも獲物を逃がしたら、人魚さんに攫われるのがエルフになるかもしれない? そ、そうか…そんな心配しなくて大丈夫だぞ、うん。

 獲物が逃げたら、協力者まで食い物にする気か…人魚さん怖!

「質問はもう無いか?」

 俺の言葉を聞いた全員が、大きくゆっくりと頷いた。

「うむ…では、我々が砂浜に戻り、対象が完全に寝入った事を確認した後、合図を送るので、それまで暫しの間待機だ。」


 打ち合わせを終えた俺達は、ゆっくりと天幕が並ぶ砂浜へと戻って来た。

 そっと各天幕の側で聞き耳を立てると、規則正しい寝息や鼾が聞こえて来る。

 うむ、もう少ししたら作戦開始で良かろう。

 作戦名は、『知らない天井作戦』だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る