第930話 歴史は繰り返す?
「何とか成功した様ですね」
薄暗いいつもの地下室の一画にある、サラとリリアの部屋の中で、リリアがぼそりと呟いた。
「まあ、あの制限の中でよく頑張った方じゃないかなあ…あの竜さん」
リリアは、メイド服のスカートが乱れるのも構わず、ベッドで胡坐をかいてクッキーをボリボリと齧っていた。
「途中で◇◇◇の介入が無ければ、もう少し完璧に計画は遂行できたのですが…」
「あの竜さん使ったら、間違いなく◇◇◇が来る事ぐらいわかってた事でしょうが」
「それはそうなんですけどね」
クッキーの食べかすがベッドに散らばるのを、何となしに見ながら、リリアはぼんやりと答える。
「まあ、良いじゃないですか。あの竜さんも元の世界の支配者に戻れて喜んでたし」
「それはそうですけど…どうせ歴史は繰り返される運命なんですけどねえ…」
今度は天井を見ながら、リリアはぼんやりと言葉を返す。
「どうしたんすか、リリア。今日はずっとぼんやりしてるっすけど?」
流石に心配になったのか、サラが身を乗り出す様にしてリリアに問いかける。
「いえね、あのダンジョンマスターの調査の結果が気になって」
「ほうほう…どこが?」
少しだけ目に光が戻ったリリアの言葉に安心したのか、またもやクッキーを貪るサラ。
「ひよこって、何なのだろうかと…。局長の計画でも、私の計画でも、あんな物の存在の出番はなかったはずなのですが…」
「ああ、ひよこね、ひよこ…。確かに、あれって何なんですかねえ」
今度はサラが遠い目をする番となった。
「それに、例の蜂達が描いた巨大な陣ですけど、サラにも見覚え有りませんか?」
リリアとサラは、調査地域の地図を頭に思い描く。
「あれって、竜さんをあの時間軸に送りこんだ時の魔法陣に似てる気がするんすけど、ちょっと違うような」
図を思い出しつつ、サラがそう答えると、
「そう、そうなんですよ! あの時使った魔法陣は、例の湖の辺りに設置したはずなんです。ですが、それよりも南で、さらに巨大になってるのです。しかも、管理局では一切記録されてないんです。これは間違いなく◇◇◇による物だと考えられますが、それにしてはナディア達を海の真ん中に転移させた様ですし、本当に◇◇◇が残した物なのでしょうか? それに、その周囲には複数のひよこが確認されているそうですが、関係性が全く想像できません! ◇◇◇の関係者であるのでしたら、そう離れた距離でも無いのですから、あちらから何らかのアプローチがあるかと思いますが、それもありません。もしかして、あの魔法陣は局長が我々に秘密裏に設置した物? でしたら、ひよこが我々側と言う事も考えられますが、局長が秘密にする意味が理解できません…いや、我々に内緒で別の計画を遂行しているのかもしれません…一体、それはどんな計画なのでしょうか…」
「ちょ、リリア落ち着きなさいって!」
目に前のサラの事など一切無視したかのように、1人でしゃべり続けるリリア。
サラが止めに入るまで、リリアはまるでトランス状態に陥ったかのようであった。
「はっ! 私としたことが…」
「正気に戻って良かったよ…」
2人は顔を見合わせ、大きくため息をついた。
その頃…かどうかは分からないが、某次元の地球という星のとあるギリシャ付近の海の中。
「良くぞ来られた、婿殿!」「ささ、どうぞゆっくりしてくださいな」
オーケアノス神という海神とテーテュース神という妻の女神が、卓袱台を挟んで正座する竜の翼を持つ神、オピーオーンに言葉を掛ける。
「は、はいっ! 此度は押しかけてしまい、、申し訳ございません!」
その竜の羽翼を持つ神の横には、妻であるエウリュノメーと、少しばかり怪我をしている別の女神が座っていた。
「エウリュノメーも久しぶりじゃのぉ」
「お父さま、お母さま、お久しぶりです。当面、今の主人と共にお世話になります」
竜の翼を持つ神の妻は、卓袱台の向こうに座る2柱にそう言って頭を下げたが、2人共気にするなと笑った。
今の主人と言う言葉に、この場に居る者は若干引き気味になってはいるが。
最も、最高神と呼ばれた神に側室や愛人として攫われた女神は数多く、無理やり子を作らされた女神も多かったが、あまり誰も気にしていなかった。
一番気にしていたのは、嫉妬深い正妻のヘーラーだけだったりするが、それを誰かが口にする事は無かった。
「テティスちゃんにも迷惑かけちゃったわねぇ…ごめんなさいね」
テーテュースが怪我を負っている女神にそう言うと、
「いえ、私は苦難に陥った神の救済者という役割がございますし、今までも何度かあった事ですので、今回も当然の事をしたまでです! ですが、もしもこれを義に感じるのであれば、ポセイドーンの馬鹿から匿っていただければ…」
「そうそう、テティスさんってば、凄かったんですよ~! 私達が天から突き落とされた時…」
「まあ、そうなの! それは本当にご迷惑をおかけして…」
「ですから、馬鹿の求婚から匿っていただければ…」
「そう言えば、役割とか言ってるけど、ヘーパイストスが突き落とされた時は、一緒に助けに行ったわよねえ…」
「あ、あの時はまだ子供だったので、誰かの助けが無くては役割を果たせないと…」
「ああ、エウリュノメーちゃんが怪我して泣きべそ掻いて帰ってきた時の事ね?」
3女神が何やら盛り上がっている様だった。
「はぁ…結局俺って、マスオさん状態になるのかぁ…」
竜の翼のある神は、ため息を吐きつつそう呟くのであった。
結局、元の鞘に収まってしまった彼の呟きは、彼同様にこの場の空気となりつつある義父神にだけ届いていた。
某国において古代より伝わる神々と人々の愛憎劇満載の物語。
それは、何者がどの様に介入しようとも、決して内容が変わる事は無かった。
物語の中の神が、どこかの世界に連れ去られたり、時を巻き戻してみた所で、結局その物語の一文字たりとも変わる事はなく、歴史は完全に繰り返され、遥かな未来に伝え続けられるのであった。
義父母と妻だけをその場に残し、深い海の底で体育座りをする、ぼやく男神。
「んじゃ、俺は何しにあんな奴の誘いに乗ってあっちに行ったんだよ!」
ただの無駄骨である。
「しかも俺自身では全然暴れてねーのに! 分体が遊んでただけだぞ!」
そうですか、そりゃお疲れ様です。
「覚えてろよー!」
すでにこの件に関しては、関係者は記憶の彼方に流していますので、忘れてます。
「ちくしょーーーーーーー!」
今後、この海の底にある義父母の家で、彼はマスオさん状態で過ごす事になる。
竜の翼を持つ神は、暗い海の底で叫んでいた…が、当然、誰の耳にも入るはずも無かった。
と言うか、あんな奴と言い放たれた某管理局の局長や、どこぞの地でメイドとして遊んでいる誰かさん達は、どうせ無視するだけだろう。
だが、彼がどこぞの地で暴れた事は、見事に現在のあの地で計画を進める一助となっていた。
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