第929話 今回の旅のお供
ダンジョンマスターズとの会談を終え、俺は家族の待つ例の砂浜まで戻って来た。
まあ、今更誰も俺の事など心配してなどいない様で、普通に『お帰りなさい』としか言われなかったのが、少々寂しい。
かと言って、嫁ーずにダンジョンマスターズとの浮気を疑われたりするのも面倒なので、これはこれで良いのかもしれない。
さて、俺が不在であっても、ドワーフさん達と人魚さん達による内装工事は順調に進んでいた。
まあ、実際のところ、幾ら器用なドワーフさん達とは言っても、海中の工事には手が出せない。
なので、主に海上の施設の工事だけしか進んでいないわけなのだが。
ドワーフさん達によると、完成までは約7日は掛かるという。
いや、めっちゃ早いんですけど? 想定していた機関の1/3ぐらいな気がする。
そんな短期間で200室もの宿泊施設が完成するのであれば、早々に王都でまつ生贄を連れて来なければ。
あ、生贄って言っちゃったよ…口癖になったらやばいな、これ。
一応、人魚さん達には10日後にパーティを開催するとだけ伝えて、俺達一家は屋敷への帰路についた。
さて、帰ってからする事と言えば、例の王女様達への献上品である車の最終調整とか、王城への納品物の手配とか、意外と忘れてた事(駄目だけど)をあれやこれや。
勿論、ダンジョンマスターズからの報告を、全員で協議したりもしてたぞ?
実際、調査は急ぐ事でもないので後回しって事になったけど、きちんと調べるよ。
バタバタとした数日を過ごした俺は、1人王都へ向けてホワイト・オルター号で出かける事にした。
嫁ーずも俺に付いていくとか駄々を捏ねるかと思いきや、今回は全員で大人しく留守番をするという。
まあ、王都行きの最大の目的は、人魚さん達のお見合いパーティの参加者を迎えに行く事なんだから、あまり気乗りはしないのかもしれないんだろう。
取りあえず献上品や納品物を満載して、俺は王都へと旅立った。
出発前に父さんへの連絡も忘れないでしておいた。
今回の旅のお供は、最近目立った出番も無く、玄関ホールで昼寝を貪る日々を過ごしているブレンダー君。
めっちゃ幸せそうな顔で、黒い猫又のノワールと日向ぼっこしながら昼寝してるのを見て、無性に腹が立ったので捕獲した。
飛行船にブレンダーを連れて行くと、すんごく迷惑そうな顔をしていたが、そんな事は知らん!
そう思っていると、やっぱりキャビンでウロウロしていたかと思うと、寝心地の良い場所を見つけたのか、また昼寝してやがる。
こいつ、どうも俺の戦闘を補助するために造り出された狼だって事を忘れている様だ。動物園の檻の中の狼どころか、ご家庭の番犬君よりもだらけまくっている。
いや、そんな普通の動物よりも野性味が無い。
人の言葉を理解出来る頭脳を持っているはずなのに、食っちゃ寝している駄狼だ。
ここらでちょっと喝を入れる為にも、厳しい戦場にでも放り込む必要がある気がするな。うん、ナディア達が危険な目に遭った、例の場所に放り出しててやろうか?
と、俺が考えていると、やおら起き上がって俺の横まで来て、キリリと引き締まった顔でコックピットのガラスの先を睨んでいた。
うん、そんなポーズ決めても駄目だぞ、たまには働かせるからな?
え、絶対に行きたくない? 行くなら俺と一緒に行きたい?
計画ではお前だけを斥候として1匹だけで行かすよ?
絶対に嫌? やだやだやだって、駄々こねる子供かよ!
はぁ、わかったよ…でも、俺が行くときには連れて行くからな?
どうやら、俺の言葉に安心したのか、また昼寝に戻ろうとしてるな、お前?
やっぱ、1匹で行かすか…。
おい、何をビクッとして戻って来たんだ?
え、前方哨戒は任せてください?
いや、この飛行船に哨戒とか要りませんけど…。
そこそこの速度で飛び続けたので、夜半には王都に到着予定ではあるが、本日は王都周辺をグルグル周回する事にする。
王城横の練兵場には、夜間着陸できるような施設も設備も無いし、そもそも夜に飛行船がやって来ても迷惑だろう。
父さんには、慌ただしいが明日の午前中に到着し、王城へ納品とか王女様達への献上を駆け足で済ませ、午後には王都を出発する旨は伝えてある。
なので、明日の昼頃には、連れて帰る人達も練兵場に集まる事だろう。
明日は朝から結構バタバタしそうなので、今夜は飛行船の中でゆっくりと寝る事にしよう。
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