第931話  約束の品

 遠い別次元の彼方で、もしかすると世界の在り方(と、彼自身の生活)を変えるかもしれない偉業を成し遂げたかもしれない、とある竜の姿をした神。

 だが、彼が活躍する場など、一切無かった…憐れ…。

 一方、そんな事は一切知らないトールは、嫁ーずも居ない空の旅をのんびりと満喫しながらも、翌朝の明け方には王都領空へと到達した所で目覚め、間もなく王城へと到着しようとしていた。


 朝食を終えてすぐにいつもの王城横の練兵場へ、トールヴァルドはホワイト・オルター号を着陸させるべく、操縦席へと座っていた。

 そんなに朝早くから急ぐ事も無いのだが、下手に時間に余裕があると王家の方々に思われると、前回登城した時の様に捕まって王族のプライベート・スペースであれやこれやと押し付けられそうなので、仕事が立て込んでで忙しい振りをしているだけ。

 王族だけでなく、今回は議会でも例の地区の調査は急務だと考えている様なので、丁度良かった。


「はい、こっちは、エヴェリーナ第1王女様の【いぬさん号】です。こっちは、ティルダ第2王女様の【ねこさん号】で、こっちがカティヤ第3王女様の【ふくろうさん号】ね。丁寧に運んでください!」

 俺ね、色々と頑張ったのよ。

 特に、この小型バギーの形については、本当に色々と頑張ったのよ。


 アーマリア王女様の専用車であるひつじさん号を羨ましく思った、第1王女様のエヴェリーナ様の要望通り、出来るだけ見た目以外に性能差が出ない様にドワーフさん達と、何度も何度もデザインを考えては外装を造り直しましたよ。

 何たって、第一王女のエヴェリーナ様の要望通りに、第3王女様のカティヤ様専用車を【とかげさん号】を仕上げたのだが、可愛くない事この上ない。

 いくらファンシー好きなドワーフさんでも、どうにもうまく出来なかったんだ。

 同様に【たぬきさん号】も制作してみたのだが、たぬきなのかあらいぐまなのかよく分からない仕上がりになってしまった。

 やはり、一目で何をデザインしたのか分かる様にしたい。

 だって、王族の専用車をみた人々が、「あれって、たぬき?」「いや、あらいぐまだろう?」「違うよ、レッサーパンダだよ!」とか言ったりしたら嫌じゃん? レッサーパンダとかあらいぐまがこの世界に居るのかどうか知らないけど…。

 そもそも、そんな可愛くないデザインや、デザインの元になった動物が何なのかよく分からないってなったら、今度は第3王女様に俺が何を言われるか…。

 なので、この世界でも森に生息している、みみずくという耳の様に羽角が飛び出た種類のフクロウをデザインしてみた。

 これが、思ったよりも可愛くデザイン出来たので、カティヤ様専用車の外装に採用したのだ。

 だけど、もしもこれがエヴェリーナ第1王女様の怒りを買ったらと思うと、ちょっと…いや、かなり怖いので、さささっと納品して逃げようかと思っている。

 もちろん、いぬさん号もねこさん号も、かなり可愛く仕上がっている。

 その出来栄えに関しては、マジで胸を張れるぞ!

 何たって、コルネちゃんにユリアちゃん、嫁ーずも羨ましがるほどの可愛さだ。

 ふくろうさん号も、自信をもって可愛く仕上がっている!

 もしもエヴェリーナ様にふくろうさん号のデザインに関して何か言われたら…工房が間違ってデザインしちゃいましたとでも言って誤魔化す事にしよう!

 ドワーフさん達には申し訳ないけど…。

 あ、ちなみにだけど、いぬ・ねこ・みみずくの可愛いマスコット人形もドワーフさんに造ってもらったので、おまけでダッシュボードにくっ付けておいた。

 これで勘弁してください…これ以上は、精神的に無理ですから…。


 王城より追加発注を受けた小型バギーや、付属品、あとは遊戯類を順次カーゴルームより搬出し、騎士や兵士の方々がどんどんお城に運び入れてくれた。

 特に王女様方専用車は、王族の方々のための庭に運び込んでもらっている。

 んで、今回は謁見という程に格式ばらずに、陛下とだけ少しだけお話をする場をつくって頂いた。

 そこで聞いた話によれば、王女様方は、今はそれぞれの嫁ぎ先におられる様子。

 なので、専用車が届いた事だけをお伝えいただく事になった。

 ふくろうさん号に関して、俺が必死に説明すると、陛下は苦笑して後の事は引き受けてくれた。

 納品に関しても問題なかったとのお言葉をいたけたので、ほっとした。

 今後の例の場所の調査に関しては、善は急げとも言えるのだが、急いては事を仕損じるとも言えるので、俺の方で経費は負担するので、選抜された人員を調査完了までお借りする事となった。

 これで、人魚さん達にも、大いに満足してもらえるだろう…人魚さん達には…ね。


 ってなわけで、一通りのお仕事が済んだところで、父さんと決死隊の皆さんにはホワイト・オルター号に乗って頂く。

 もちろん、父さんはキャビンに、騎士や兵士の皆さんは、彼等の荷物や食料・薬品、武器や衣服その他の物資と共にカーゴルームに乗って頂く。

 ま、明日の昼までには到着するんで、ちょこっと我慢してね。

 トイレもシャワーも奥にあるんで、綺麗に使ってくれるなら使用を許可するから。

 みなさん、ほんのちょこっと我慢してくださいねぇ!

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