第921話 魔の手
「ちょっと、リリア! 今のどう思いますか!?」
「え? サラに倫理観が無いって事ですか?」
某地下室の一画、サラリリアのプライベートルームにて、サラは憤っていた。
「そう、それです!」
リリアの返答を聞き、更に鼻息を荒くする見た目低学年JCのサラ。
「まあ、確かに貴方に倫理観が無いとは、少々言い過ぎかもしれませんね」
「でしょでしょ!」
トールの言葉を否定するかのようなリリアの言葉に、勢い付くサラであったが、
「サラに無いのは、倫理観では無く羞恥心ですからね」
「え?」
リリアの言葉に固まるサラ。
「多少の倫理観は誰しも持ってて当たり前ですが、サラには羞恥心なんてものは有りませんから、あの方の言葉は間違いです」
「え?」
妙に自信たっぷりに言い切るリリア。
「えっと、リリアさんや?」
「何ですか、サラばあさん」
「誰がばあさんじゃい! じゃなくて、倫理観を持ってて羞恥心が無い…って、どゆこと?」
どちらも似た様な物ではあるのだが、
「それは簡単です。あなた、確か地球の法律の一般的な内容は知ってますよね?」
「まあ、誰もが知っている程度だったら…」
当然だが、そんな事は承知しているからこそ、リリアは一般的な内容と言ったのだ。
「でしたら例えでも分かる事だと思います」
「えっと…どんな?」
その例えの内容に興味を惹かれるサラ。
「法律や常識や倫理観的に、人前で淫らな行為をしてはいけないと分ってはいるのだけれど、誰かに見られるかも…とか考えると、じゅんじゅんしちゃうの。だから、今日もスカートの下には何も着けてないの…」
「ん?」
「夜に1人で公園で全裸で露出散歩。誰かに見られちゃうかも…。もしも男の人に見られたら、間違いなく襲われちゃう…。でも、そのスリルが快感なの」
「は?」
「公衆便所で、男子トイレにこっそり忍び込んで、個室の扉越しに裸を晒すの。もちろん扉の鍵は閉めないわ。いつ扉が開かれるか分からないスリルにドキドキしちゃう!」
「えっと…?」
「これがサラの本性ですね」
リリアは、そう言うと真顔でサラを見つめる。
「…それがサラちゃんの本性?」
「ええ、間違いありません」
断言するリリアの言葉に、そうなのかと考え込んだサラ。
「頭ではいけない事だと理解してても、どうしても止める事が出来ない性癖」
思い当たる節は無きにしも非ず。
「見つかれば法的にも社会的にもただでは済まないと、分かっていても全てを曝け出してしまう」
そう言われるとそんな気もする…。
「それが倫理観を持ってはいるが羞恥心が無い…いえ、言い換えましょう。倫理知識は持ちつつも、それを羞恥心で塗りつぶし、全てを曝け出す変態女、それがサラです!」
どこかの黒帽子に黒スーツで心の隙間を埋めるサラリーマンの様に、どーん! と効果音が付きそうな程にサラを指さすリリア。
「がーーーーーーーーん!」
あまりの事に、サラの背景には漫画の様に縦線が無数に走っていた。
「ですから、我慢しなくてもいいんですよ…」
「リリア…」
何故か優し気な口調のリリア。
それに感動したサラであったが、きっとサラ以外の人がこれまでの話を聞けば、完全にサラはリリアの話術に嵌ってると思うだろう。
リリアは単に嘘ばかりを並べている分けでは無く、もちろん多少の誇張は有るにせよ、サラの性癖も会話の中に混ぜていたりするのだが、巧み(サラにとっては)な話術で完全に騙されていたサラには、急に優し気な言葉になったリリアを全力で信用してしまっていた。
だからこそ、次の言葉にショックを受けてしまう。
「さあ…私と新たな世界の扉を開きましょう!」
そう言うリリアの手には、荒縄と蝋燭が握られていた。
「…それは、ちょっと違うんじゃないのかなぁ…」
リリアの手に握られている物を見たサラがジリッと1歩退るが、リリアもジリッと1歩詰め寄る。
「そ~んなことは無いですよ~? ちなみに、私は倫理観を無視した変態なだけですからねえ」
「一番やべーヤツじゃねーか!?」
一気に迫りくるリリアの魔の手から逃げ出そうと、サラがダッシュをするのだが、如何せん狭い地下室の中の一画での事。
何故か荒縄をアメリカのカウボーイが馬や牛を捕まえる時の様に、頭上でヒュンヒュンと回したかと思うと、サラに向かってそれを放つ。
まるで生きているかの様に荒縄はサラの身体へと巻きつききつく縛り上げた。
「んなぁ!? お前はカウボーイか!?」
縄に絡めとられたサラガ叫ぶが、
「いえ、ただの緊縛術ですが? ここからM〇開脚でベッドに固定して…」
ド変態の魔の手から逃げる事など、サラには出来るはずも無く、リリアがあれよあれよと言う間に、サラをあられもない姿でベッドに縛り付けていく。
「や~~~め~~~れ~~~!!」
庭の片隅のそのさらに地下から、サラの絶叫が漏れ聞こえてきたりした。
しかし、トールを始めとした家人は全員邸の中だし、人通りもまばらなこの邸の周囲では、誰もその絶叫を耳にする者は居なかった。
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