第910話  アルテアン領の発展って…

 翌朝、いつもの事なのだが、俺はヘロヘロになりながらも、ホワイト・オルター号から降りて、父さんの邸へと向かった。

 目的は当たり前だが、ナディア達の様子を見る為。

 昨日の様子から考えても、まず容態が急変するとは考えにくい。

 もしも急変していよう物のならば、夜間であろうとも付きっきりで見ていてくれているメイドさんが知らせてくれてただろう。

 ちなみに、ホワイト・オルター号を降りたのは俺一人。

 嫁ーずは、昨夜の激闘で全員ノックアウトさせておいた。

 俺も成長したもんだよ…うんうん。


 さて、父さんの邸では、朝も早くからメイドさん達が忙しそうに動き回っていた。

 どうやら俺達の朝食の準備と、ナディア達の看病のためらしい。

 俺が『嫁ーずは、まだ当分起きて来ないので、朝食はゆっくりでいいよ』と伝えはしたのだが、仕込みなのかな? だけは、しっかりとしておくそうだ。

 本当にご苦労様です。

 そんなメイドさん達を横目に、ナディア達が横たえられている部屋を目指して、階段を上がる。

 ここは、懐かしくも俺が幼少期を過ごした部屋。

 自領の邸に引っ越した後は、来客用の宿泊用にリフォームされていたらしいのだが、入り口の扉は昔のまんまだ。

 そんな懐かしい部屋の扉をノックすると、中から巨乳メイドさんから返事があり、扉を開けてくれた。

 俺が部屋の中へと足を進めると、上半身をベッドから起こしたナディア、アーデ、アーム、アーフェンの姿が。

『マスター!』

 俺の姿を認めた4人は、声を揃えて俺を呼ぶ。

「こらこら、大きな声を出さない。メイドさんも、看病有難う」

 ちなみに、俺はメイドさんの名前なんて、いつもの如く知らん! 

 下手に女性の名前とか覚えると、嫁ーずが怖いんだよ…察してくれ…。

 ベッドから立ち上がって俺を迎え様とする妖精達を手で制した俺は、

「まだ起きるな。少なくとも今日一日は安静にしていろ」

 と、ベッドに横になる様に言うと、4人は素直に横になる。

 こんな時だけは、俺の言う事を素直に聞くのね、君達…。

「まあ、ちょこっとだけ話を聞かせてくれるかな」

 扉の近くにあったメイドさんが看病のために持ち込んでいたであろう椅子を引き寄せ、俺は全員の顔が見渡せる場所にどっかと座った。


「なるほどなぁ。おおよそ蜂達の証言と一致するな」

 4人の話を聞く限り、事前に蜂達から聞き取りしていた内容とほぼ同じだった。

 違ったのは、例のひよこ。

 あ、違うわけではないのか…蜂達はひよこの大きさについては、何も言ってなかったからな。

 ナディア達が遭遇したひよことは、なんとアーデ達とほぼ変わらぬ身長だったそうである。

 ん~~~っと、天鬼族3人は、前世地球でいう所のJCぐらいの見た目なので、身長は150cm前後。

 それと変わらない身長のひよこって、デカすぎじゃね?

「あ、それとマスター…そのひよこの頭には、角みたいな長い1本の毛が生えててました」

 アームが思い出したようにそう言うと、

「確か、赤色のとんがった毛でした…あれ? あれって、毛なのかな?」

 アーデも、そう証言する。

「毛にしては靡かなかったけど…角?」

 アーフェンは角かもと推測? している。

「私にも角の様に見えましたが…それにしても黄色いひよこの身体には、ちょっと不釣り合いなほど長かった気が…」

 ナディアの記憶を思い出しつつ、そう答えた。

 えっと…隊長機のマルチブレードアンテナかな? 

 だとしたら、量産型のひよこがいたりして…な~んてな。

「あとは、多分蜂達の報告と違いはないかと思います。私達には、あの巨大な陣が何をするための物なのか分かりませんでした」

「そうか…」

 ナディアの証言を聞いた俺は、それしか言う事が出来なかった。

「あ、そう言えば…」

 俺が考え込んでいると、ふと思い出したようにアーデが、

「あの陣に足を踏み入れた瞬間に、身体から力が一気に抜けた気がしたんですが」

「うん?」

「私が足を踏み入れたから光ったのでしょうか?」

 えっと、どゆこと?

「ああ、そう言えば確かに! 私も足を踏み入れた瞬間でした!」

 アームも、

「確かに、私も1歩足を踏み入れた瞬間に…」

 アーフェンも、

「私もですが…おかしいですね…」

 ナディアも同様であったと証言したのだが、それの何処がおかしいんだ?

「私達は全員がバラバラに山向こうの森林地帯を調査していたのです。ですから、全員が同時に陣を踏む様な偶然は…」

「え、バラバラに調査してたのか? 一緒じゃなく?」

 こりはびっくり!

「はい。全員がバラバラです。これは間違いありません」

「ちょっと待て、ナディア。俺達が救助した時、お前達は全員一緒だったんだぞ?」

 確か、ナディアのシールドに包まれたまま漂流していたんだ、海を。

「マスター…そう言えば…」

「どうした、アーム?」

「あの陣が光った時、何故かアーデとアーフェンと同じ場所に居た気がします。その後にリーダーが来たような」

 リーダーって、ナディアの事かな? 4人でアイドルグループでも結成したの?

「あ、私の周りに居た蜂達も一緒だった気が…」「あ、それ私の所も!」

 アーデとアーフェンもそれに同意し、ついかの情報も付けてくれた。

「言われてみれば、私も何故か3人が居たので、必死に全員を手繰り寄せて結界で覆った様な…」

 ナディアも頤に指をあてて天井を見つめながらそう言った。

「う~~む。つまり、その陣に足を踏み入れたタイミングはバラバラだったが、何故か同じ場所で4人は出会ったと。あ、ついでに蜂達もか。んで、いつの間にか海のど真ん中に放り出されていたと?」

「はい、そうとしか考えられません。私がマスターに救助要請をしたのは、全員で一塊になった時…あれ? でも、蜂達はぶんぶん飛んで集まって来てた様な…」

 んんん? 何か、謎がますます深まった気がするぞ?   


※ 

 

 あまり長く話させたりするのも身体に負担がかかるだろうと思い、ここで俺は話を一旦打ち切った。

 もう一度ゆっくりと記憶を辿ってみますという4人に、何も考えず、今は身体を癒せとだけ言いつけて、俺は部屋を出た。

 ナディア達との話では、やはりどう考えても色々と腑に落ちない点がいっぱい出て来た。

 最も腑に落ちないのは、何故ナディア達は陣を踏んだ途端に力が抜けてしまったのに、蜂達は無事だったのか。

 そして、陣を踏んだタイミングもばらばらなはずのナディア達と蜂達が、同じ場所にほぼ同時に飛ばされたのか。

 しかも、集合した皆が、何故大海原に飛ばされたのか。

 そもそも、調査に出向いたのは遥か北の山脈の向こう側のはずなのに、飛ばされたのは逆に遥か南に広がる大海原。

 これって、どんな絡繰りなんだろ?

 しかも、頭に角だか毛だか知らないが、人の背丈ほどもあるでっかいひよこの存在。

 そいつは、一体何者なんだ?

 これは本格的に俺が調査に出向いた方が良いかもしれない…無論、ダンジョンマスターズの調査次第ではあるが。


 そんな事を考えながら、俺が食堂の扉をくぐると、嫁ーずが復活して席に着いて俺を待っていた。

「おはようございます、トールヴァルド様」『おはようございます、トールヴァルド様!』

 メリルに続いて、4人の嫁ーずが俺に朝の挨拶をする。

「ああ、おはよう、みんな。何も問題は無いかな?」

「はい、起きた時にトール様が居なかったこと以外は、特に問題はございません」

「寂しかたったです」「…捨てられたかと…」「昨晩はやりすぎちゃったかなぁっと、反省してます」「いつもの事だけどな!」

 メリルの責める様な言葉に続き、ミルシェとミレーラが泣きそうな顔(嘘っぽい)をし、マチルダは昨晩迫った事を反省(多分してない)、イネスの言は…まあ、それもそうだな。

「そ、そうか…それは悪かったな。みんなが良く寝たたもんだから、起こすのも可哀そうだと思ってな…」

 4人の話に、俺は苦笑いしか出来なかった。  

「皆様、お待たせいたしました。御朝食をお運びいたします」

 そんな俺達の事など完璧にスルーしたメイドさんが、朝食を運び、それぞれの席の前に配膳してくれた。 


「ま、まあ…取りあえず朝食を頂くとしよう、なっ?」

 俺の言葉に、全員が頷いたのを確認し、パンを手にとり、千切って口に放り込んだ。

 そう言えば、俺がこの邸に住んでいた頃って、めっちゃこのアルテアン領って貧乏だったよなあ。

 食事も朝晩の2回だけだし、どっちも硬いパンと具がほとんど無いスープだけ。

 それでも、まだ俺達領主一家は、食えるだけ幸せだった。

 領民の中には、日に1食とかも普通だったらしい。

 そりゃ、幾ら戦争で大金星をあげた父さんだって、元はただの平民。

 勲民になり領地を賜ったとはいえ、王国の最西端。

 しかも、領地はとんでもなくデカイが、ほぼ未開拓の…いや、未開の地が領地なんだから、苦労するのも当たり前かもしれん。

 きっと、王国の偉いさん達も、たかが戦闘力しかない馬鹿な父さんに、伸びしろのある良い領地なんてくれなだろう。

 広大な領地だからと、未開の地を押し付けて、王国から賜った褒美とか毎年支給される年金とかを使い果たせるつもりだったんだろうな。

 ま、俺が全部ひっくり返してやったけど。

 あの時、貧乏領地に付いて来てくれた村人たちも、今や増えた村や街では肩書ある立場に就いている。

 食糧問題も、俺が精霊さん達と開拓しまくっり、広大な畑の開墾に成功したおかげで、領民達の収入でも無理せず3食十分な量を食べられる。

 とどめに、ネスの布教、温泉にそれに付随する美容関連、呪法具の開発と流布、蒸気自動車に定期運行での荷と人の運送業…そしてそれらを一手に製作する工房の設立に、来る者拒まずで移住を全面的に支援したおかげで、今やグーダイド王国で最も栄えている領地となった。

 とどめにモフリーナのダンジョンの存在も、我が領の税収が爆上りに大貢献だ。

 どうだ、当時父さんにこんな辺鄙な土地を押し付けたバカ者どもめ!

 今頃地団駄踏んだってもう遅い!

 アルテアン家に俺が生れた事で…あれ?

 俺が生れてから、アルテアン領は一気に発展した…で、合ってるよな? 

 いや、ちょっと待て。

 俺が生れてから5年間は、特にこの領に変化はなかった…はず。

 確か、急激に領地が発達し始めたのって、輪廻転生管理局のあの局長? から、転生時にもらったガチャ玉を、俺が開封してからじゃないのか?

 そもそも、その発展が一気に進んだのって、サラがこの領地に来た時から?

 おや? アルテアン領の発展って、もしかして管理局のおかげ?

 いや、もしかすると裏で糸を引いていた?

 あれ? あれ? あれれ?

 何か、色々と繋がった気がしないでもない気がするのは気のせいなんだろうか?


「トール様、どうされましたか?」

 食事の手が止まり、急に考え込んでしまった俺に、ミルシェが心配気な顔で声を掛けて来た。

「い、いや…ちょっと考え事をな…」

 そう答えるのが、今の俺には精一杯だった。

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