第907話  大丈夫なのか?

 とある場所のとある日の午後の事。


「それで、俺を長い間こんな辺鄙な島に放置してた謝罪もなく、いきなり出番なのかよ…」

 当初はまんまドラゴンだったソレは、今や立派にダイエットが成功し(?)、尻尾と翼はある物の、肌に多少の蒼い鱗がついただけの爬虫類系の獣人姿…いや、ファンタジー物でお馴染の竜人の姿になった竜がぼやいた。

「そうは言いましてもねえ…この私も色々と忙しかったのですよ。まあ、出番がいきなりであったことは申し訳ないとは思ってますがねぇ…」

 絶海の孤島っぽい島の真ん中のヤシの木の下で、本心から謝罪してない感丸出しのサラが言う。

 なざ本心からと思われないのか…それはおもいっきり胡坐をかいて、鼻をほじほじしているから。

 これは、どちらかというと馬鹿にしているとか、喧嘩を売っているとか思われてもおかしくない態度だ。

「いえ、本当に申し訳ありませんでした。なかなか貴方様の出番を準備できなかったのです」

 サラの横では、リリアがきっちりと土下座をしているのとは対照的だった。

「まあ、別に怒ってやいないが…まあ、いい。それで、俺はどこで何をすればいいんだ?」

 小柄なサラやリリアと比較してもかなり大きい竜人が、大きなため息を付きながら2人に話の続きを促す。

 もちろん、そのすぐ傍には、ネズミ型のからくり人形が物言わず控えていた。

「実はですね…貴方様には、我々の住む世界の時間軸の1点にとんで頂き、好きに暴れて頂こうかと」

 土下座姿勢から頭をあげ、改めて正座し直したリリアが口を開く。

「ほう…好きに暴れていいと?」

 リリアの言葉に、少しだけ口の端を上げる竜人。

「ええ、ですが少しだけ制限を付けさせていただきたいのです」

「む? それでは好きに暴れてもいいと言った、先の言葉と反する事になるが?」

 リリアの言葉に少々期限を損ねる竜人。

「いえ、好きに暴れるのは構いません。ですが、我々が現在居る星の歴史を紐解いても、貴方様の様な人種は存在しないのです。ですので、あまり大っぴらにその姿を見られるわけにはまいりません」

 竜人の迫力ある姿に、少しも脅えることなくリリアが言葉を続ける。

「別に少々見られたところで、そいつらを皆殺しにすればよいだけの事であろう?」

「それでは、局長の計画に支障が出るのでございます」

 ちなみに、竜人とリリアの会話の最中、サラはぽかぽか陽気に誘われて瞼が重くなっていた。

「ふむ、計画…とな?」

「はい、あのお方の計画では、とある男女がくっ付く事とにより、将来生る男児が重要なのです。あまり貴方様が暴れてしまいますと、そもそもその男児が生れなくなるやもしれません」

 何だか、どっかで聞いた事があるような話である。

「ふむふむ…では俺はどうすればいいのだ?」

 リリアの話の何処に興味を惹かれたのかは分からないが、竜人が前のめりにリリアに詰め寄る。

「まず、貴方様のお力で分身体を生み出して頂きます。それらでこれから送り込む世界の南方に位置する国を襲ってください。でも、王城とかを直に狙うのではなく、出来れば周辺の街や村を…です」

 いよいよ、どっかで聞いた様な話だ。

「周辺の村や街? 攻め滅ぼさなくてもいいのか?」

「先ほども申し上げましたように、その過程でとある男女の仲が急進展します。そこまでで概ね計画は達成です。そして、貴方様は奥様との生活に戻る事が出来ます」

 リリアの話に、腰が引ける竜人。

「ま、まて…その計画通りに行くと、俺は嫁の実家に戻されるというのか?」

「いえ、計画通りに事が進めば、貴方様が海に追放される前のオリュムポスの原初の支配者としてです。失敗した場合は、奥様と義父様の元へと飛ばされます」

 どっちにしても飛ばされる…もとい、戻されるとしった竜人。

 だが、成功した場合は支配者としての地位ある時間と場所へと戻されるが、失敗するとマスオさん状態になるという。

「うぐ…そ、それは、是が非でも成功させねば…」

 マスオさん状態で肩身が狭かった竜人としては、実質1択であった。 


「では、本計画の詳細についてお話し致しましょう。ご安心ください。分身体としてですが、全力で暴れる事も出来ますし、武器もご用意いたしましょう。ではまず最初に…」

 リリアが真面目な表情でそう話し始めようとしたのだが、竜人が口を挟んだ。

「あ、ちょっとすまないが、1つだけ尋ねてもよいか?」

「何でしょうか?」

 すると、竜人がリリアの横に視線を向ける。

 つられてリリアも横に顔を向けた。

「そいつは、そのままでいいのか?」

「………」

 竜人の視線と、リリアが顔を向けた先。

 そこには真っ白な浜辺に大の字で、すぴーすぴーと気持ちよさそうに寝ているサラの姿が。

 もちろん、スカートはめくれ上がり、全部丸出し状態である。

 丸出しだとはいえ、ぶひっっと屁をこくその姿に、色気のいの字も無いのだが…。

 わなわなと震えつつ立ち上がったリリアは、

「この…スカポンターン!」

 仮面をかぶって長いキセルを持った、どっかの泥棒一味の金髪女リーダーの様な声をあげて、サラの尻を蹴り上げるリリア。

「ぷぎゃーーーー!」

 変な声を上げて真水の大海へと飛んで行ったサラ。

 そんな2人を見て、『本当にこいつら大丈夫なのか?』と、竜人は長い溜息をつくのであった。

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