第902話 それは…過言
「まあ、現在はひよこという姿をとっているにすぎんがな」
俺の頭の中で、ひよこが『ぴよぴよぴよぴよ』と、群れで飛び回っている最中、ボーディの声が聞こえた。
「現在?」
頭の中のひよこが、『ぴょ?』と、首を傾げた…気がする。
「ああ、そうじゃ。今現在はひよこの姿かもしれぬが、そ奴の本当の姿とは限らぬからの」
なるほど…本当は、でっかいニワトリなのかな?
「トールヴァルド様。言っておきますが、本当の姿はニワトリではありませんからね」
ニッコリ笑いつつ、モフリーナが俺に一言。
ええ、そう考えてました…なんて、言えるはずも無く、
「それはそうだろうな、うん」
鷹揚に頷いてはみたものの、モフレンダからは疑惑の目を向けられたままだ。
「まあ、それは良い。問題は、管理局に送り込まれたであろうヒヨコは、我等と同等の存在では無いかという事じゃ」
ん? 聞き逃せないフレーズが…。
「同等の存在って…ダンジョンマスターってこと?」
でも、ひよこだよね?
「その通りじゃ。そして、それに明らかに人工物と思われる岩。とそこに通ずる道というか溝かのぉ…。これは魔陣に相違ないの」
「魔陣?」
おっと、初出の言葉だな。
語感から何となく意味は理解できるが。
「うむ、魔陣じゃ。お主等の使用しておる魔道具に刻んでおる陣と似た様な物じゃ。ただ、こっちは魔道具に刻んだ陣と違い、誰もが使用できるという物ではない。特定の使用者が聞い目られた手順に従って発動する類のものじゃ。ま、効果は良く分からぬのじゃが…」
へぇ。
ららら~ら~ら~ららら~ららら~♪ 違いの分かる男、トール君…なんだけど、その違いが良く分からん。
「のぉ…お主、真面目に考えとるかや?」
「ふっ…この真面目人間の代表といっても過言ではないトール君に向かって、何を言うか」
ボーディさんよ、この俺の何処を見てそう思ったんだ?
「…それは…過言」
いや、ボソリと却下しないでくれませんかな、モフレンダさん。
トール君だって、激おこぷんぷん丸だぞ? いかん…人魚さん達の宮廷語が移っちまった!
「絶対に、この場の話と関係ない事を考えている顔です、アレは…」
モフリーナにまで見透かされた!
「まあ、今は良いじゃろ。とにかく、妾達が問題がありそうな場所にダンジョン領域を広げる。お主はそのエネルギーを提供するのじゃ。パンゲアから引っ張ろうにも、ちと距離があるのと海の中の領域が細いでな。一気に大量のエネルギーを引っ張って来れぬのじゃよ」
「ほう? つまり、一気に大量のエネルギーが必要と。何故?」
別に調査しながら領域を徐々に広げたって良い気もするんだけど。
「お主、アホか? のんびりしておったら、管理局に気付かれるじゃろうが。一気に全域を領域化して、彼奴等が証拠を消す間もなく、その地を手中にするのじゃ、あの妖精達が倒れた原因が管理局に消されでもしたら、お主も困ろうが!」
あ、アホって言ったな!? 親父にも言われた事無いのに…いや、前世ではいっぱい言われたな、うん。
「あの魔陣も、多分管理局が設置した物では無いかと思います。そしてその向こうにあるという湖も、何かの痕跡が残されている可能性が高いですね。付近に住んでいる人達は、無関係の可能性が高いですが…」
モフリーナがボーディの説明に追加の解説をしてくれた。
「ふむふむ。何となく管理局絡みってのは理解できたんだけど…でもさ、ナディア達って、昔の戦争に関して調べに行ったんだよ」
そもそも、それが目的で行ったんだよね。
「…続けて…」
先を促すモフレンダに従った訳ではないが、続けて俺の疑問を口にした。
「前に地図作りのために調査に行かせた時には、そんな魔陣ってのは無かったはず。まあ、その時は単なる岩とか道とかって思って見逃がした可能性も無くはないけど、真ん丸の湖ってのはさすがに見落とさないはずだ」
「そうじゃろうのぉ」
「ええ、その時には無かったのでしょう」
俺の言葉に、ボーディが同意し、モフリーナは調査後に出来たのだろうと答える。
「って事は、短い年月で湖が出来たって事か? そんな物、出来るのか? あと、昔の戦争って、結局何なんだ?」
自然と俺の声も大きくなっていた。
「うむ、それは当然の疑問じゃろうのぉ。まあ、それを今から調べる為に、お主からエネルギーを頂こうという分けなのじゃ。理解できたかや? まさか、忘れておった分けではないよな?」
そ、そうだったな…うん、忘れてないよ?
「昔の戦争での敵や敵の使ってた武器、ナディア達がああなった原因、魔陣と湖、そして、謎のひよこ…ひよこ…。いや、エネルギ-なんぞ、幾らでもくれてやる。全ての事実を詳らかにしてくれるのであれば、協力は惜しまない!」
エネルギーが欲しいというならくれてやる!
あの山向こうで起きている事実を、俺に教えてくれ!
色んな意味でひよこは気になるけどな…。
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