第891話  お願いいたします!

 夜明けを少し過ぎたあたりで、父さんの領地へと、俺達は戻って来た。

 本当は俺の領地を経由したかったのだが、それよりも直行した方が近かったので、これは仕方ない。

 早朝ではあったが、俺の邸へは父さんの邸へと直行する理由などを通信を入れて説明済みだ。

 朝も早いと言うのに、しっかりとドワーフメイドさんが通信に出てくれたので、母さん達留守番組には説明しておくようにお願いをしておいた。

 相変わらず、方言がきつすぎて、何言ってるのか良く分からなかったが、多分俺の言う事は理解してくれたって事だろう。

 母さん達にちゃんと説明できるかどうかは…考えない様にしておこう…うん…。

 父さんの邸にも当然だが通信を入れているので、俺達の乗るホワイト・オルター号が屋敷の上空をゆっくり旋回している最中に、あの巨乳メイドさん達が玄関前でお出迎えの体勢を整えて待ってくれていた。


 そんなお出迎えのメイド達の目の前へと、俺はゆっくりと出来るだけ衝撃を与えない様、慎重に飛行船を降下着陸させた。

 タラップが降りるのももどかしく、俺はキャビンから一足飛びでタラップを飛びおりると、

「準備は出来ているか?」

 立ち並ぶ巨乳メイドさん達に声を掛けると、

「はい、伯爵様のお申しつけ通りに準備は整ってございます」

 落ち着いた声でそう返答するメイドの1人であったが、その視線は飛行船本体からゆっくりと降りて来るクレーンで降ろされてくるゲート…その上に並んでいるベッドに釘づけになっていた。

 変身した嫁ーず5人が付き添い、ゲートの上に並べられたベッドに横たわるのは、未だに意識の回復しないナディア達4人。

 ってか、何で変身してんだ?

 ゆっくりと地面へとクレーンに吊るされたゲートが降りると、俺はメイドを伴ってすぐさま駆け寄った。

 ぐったりとして意識の無い4人に、メイド達は一瞬大きく息を飲んだが、

「若奥様達、準備は出来ております。ナディア様達を大樹の元へとお運びしますので…」

「いえ、私達が運びますわ。皆さん、よろしくて?」

 メイドの言葉を遮り、メリルが嫁ーずを見回して言った。

『はい! 私達で!』

 ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネスは大きく頷き、ナディア達をお姫様抱っこする。

 それ見てメリルは一つ頷くと、

「さあ、先導して下さいまし。早く楽な姿勢で休ませねば!」

 そう言ってメイドさん達をせかし先導させた。

 メイドさん達も、慌てて振り返りつつ、

「こちらに!」

 そう言って、邸を大きく反時計回りにう回して、大樹の元へと早足で向かった。


 嫁ーずは、抱き上げたナディア達を極力揺らさない様、ゆっくりと足元を確認しながらその後を付いてゆく。

 もちろんG戦隊ジェムファイター1号のメリルは、その嫁ーず達の足元が荒れて躓いたりしない様それぞれの足元の地面を平らに削り取る様にフルオート・アクティブ・シールドを全開で展開し、凸凹道を削りながら道を作っていた。

 君達って、その変身セットの特殊能力を意外な使い方するよね。

 まさか、シールドにそんな使い方があるとは思いもよらなかったよ。

 他の嫁ーずも、まさかお姫様抱っこをするとは…確かに多少の身体能力アップは出来る。

 お姫様抱っこぐらいは、間違いなく簡単に出来るだろう。

 けど、その為に変身しているなんて思いもよらなかったよ。

 メイドさん達と協力してナディア達を運ぶものだとばかり考えてた。

 すげぇよ、嫁ーず…すげえ冷静だ…。

 俺はこの緊急事態でも、務めて冷静に対応しているつもりだった。

 だけど、実際は表に出している態度と言葉は冷静そうに見えても、内心は色々とテンパってたんだと痛感したよ。

 そうだよな、ここには常人を軽く超える事が出来る装備を持った嫁ーずが居るんだった。

 最初から冷静になって考えたら、いくら巨乳だとはいえ一般人の力しかないメイドさん達に、ナディア達を運んでもらう手伝いとか無駄もいい所だよな。

 嫁ーずが俺が変身して運べば済む話だった。

 ちょっと反省。


 さて、邸の裏、大樹の根元には、元々コルネちゃんが大樹のお世話や、何故か枚を奉納するためのお社が拵えてある。

 そこにベッドが4台並べられ、周囲から見えぬ様に、真っ白い布で目隠しがなされていた。

 幕の色は違うけど、どっかの殺人現場みたいになってるなあ。

 その真っ白い目隠しの布をメイドさんが跳ね上げ、嫁ーずを中に招き入れる。

 この時になって、初めてナディア達の服がメリルやミルシェ、ミレーラの寝間着になっているのに気付いた。

 嫁ーずは、メイドさんがそっと持ち上げた布団の中に、ゆっくりとナディア達を横たえる。

 メイドさんが4人の寝間着の裾を整えたあと、そっと布団を掛ける。

 そこで初めて嫁ーずもメイドさん達も、『ふーー』っと、大きく息をした。

「みな、ご苦労だった。今から俺がネス様へと祈りを奉げるので、暫く俺だけにして欲しい。そう時間は掛からない」

 父さんのメイドさん達の前なので、ちょっとだけ偉そうに言葉を掛けた。

 嫁ーずも変身を解き、それぞれが顔を見合わせたあと、

「では、トール様。ナディアさん達をお願いいたします」

『お願いいたします!』

 嫁ーず一同は、力の籠った声と真剣な眼差で俺にそう言った。

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