第884話  緊急事態

 ※ 明けましておめでとうございます。

   本年もよろしくお願いいたします。 <(_ _)> 大国 鹿児



 翌朝、天に昇った太陽は…黄色かった。

 

 王都から帰って来た日は大人しかった嫁ーずだが、昨夜はその分も含めて燃え上がってしまった様だ。

 俺の中のエネルギーを根こそぎ持って行かれてしまった…もう、何も出ない…。

 何って何だよ? なんて、聞くなよ…想像しろ、各自で想像だ。


 さて、日課の早朝の鍛錬も何とか熟し(今朝のイネスはダウンしてました)、朝食を頂いた俺は、これまた日課の執務室へ。

 朝食時に母さんや、コルネちゃん、ユリアちゃんと顔を合わせたのだが、3人は何か俺に言いたそうにしていた。

 もしかしたら、昨夜の乱痴気騒ぎが聞こえた? いや、俺の寝室の防音は完璧なはず。

 だったら、やっぱまだ先の大戦の事でも考えているのだろうか。

 何も言わなくても通ずるとかよく聞くが、流石に複雑な思考は言葉にしなければ、他の人には通じない。

 3人(ユリアちゃんはおまけだが…)が話す気になるまで、そっとしておこう。

 俺が無理に聞き出そうとするのは、きっと良くないと思う。

 まだ母さんは物忘れが激しくなる様な歳ではないが、それでも20年近く前の話なんだから、忘れてしまっている事だってあるだろうから、ゆっくりと思い出してくれたらいい。

 うん、まだ母さんはボケて無いから、きっと色々と思い出してくれるだろう。

 

 さて、では本日分のお仕事…は、木箱に突っ込まれたままか。

 嫁ーずがまだダウン中だから、仕分けから俺がしなきゃならないか…頑張るべ。

 そう考えて、俺が木箱の中の紙束を手にした、丁度その時だった。


『マスター…申し訳ありません…下手を打ちました…』

 頭に響くナディアの声。

 しかしその声は、息も絶え絶えといった感じで、今にも倒れそうだ。

『…何とか…アーデ達は…回収しましたが…』

 ナディア、今どこに居るんだ!? 

『お…王国内に…戻ってきました…が…もう…動けませ…ん…座標…は…蜂達が…』

 分った! 取りあえず、いまは姿を消しておけ、迎えに行くから! 

『は、は…い…』

 そこでナディアからの念話は途切れた。

「緊急事態だーーーーーーーーー! 全員食堂に集合--------!」

 直後、邸中に響く大声で、俺は全員に緊急招集を掛けた。


 数分後、ダウンしていた嫁ーずも、最近目立つほどにお腹が大きくなって来た母さんとユズカも、コルネちゃんにユリアちゃん、そしてユズキにサラとリリアさん、ドワーフメイド衆に、ブレンダー、クイーン、ノワールと、本当に邸のメンバーの全員が集合した。

 全員が着席したのを確認した俺は、立ち上がって小さく咳ばらいをしてから、先程のナディアとのやり取りを話した。

「…という緊急連絡がナディアより入りました。誰に何をされたのか、怪我などの程度はまだ未確認ですが、かなり危険な状態であると思われます」

 それを聞いた一同は、大きく目を見開き、ゴクリと唾を飲みこんだ。

「そういう事なので、俺が直接迎えに行きたいと思います」

 そう伝えると、メリルが立ちあがり、

「わ、私も行きます! ナディアさんをあの山の向こうに行かせたのは私ですから、責任があります!」

 すると、

「いえ、それを言うのであれば、その案を提示したのは私です! 私も行きます!」 

「それが最善だと言ったのは私だ! 私も行くぞ!」

「そうです、マチルダさんだけの責任ではありません!」

「そ、そうです! 私達も賛成したんですから…全員の責任…です!」

 マチルダ、イネス、ミルシェ、ミレーラが次々に席を立って声をあげる。

「いいえ。その判断を支持して推し進めさせたのは、他ならぬ私です。ですから責任というのであれば、この私でしょう」

 座ったままではあるが、眉間に皺をよせた母さんが、押し殺したような低い声でそう言った。

「ナディアは…本当に大丈夫なのですか?」

 この中で俺を除いて最も付き合いの長いコルネちゃんが心配そうに俺に尋ねる。

「責任云々は誰のせいでも無い。もしも問題がある指示を誰かがしたのであれば、ナディア達から俺に報告が入ったはずだ。それもなく、ナディアが自主的に行動した結果なのであれば、それはナディア達自身の責任だ。それと、さっきも伝えたが、彼女達が大丈夫かどうかは分からない。だが、かなり危険な状態なのは間違い無い…」

 俺の言葉も、だんだん声が小さくなって行くのが、自分で分った。

 今まで、我が家のメンバーの誰かが生命の危機に瀕する事なんて無かったから、俺も少しだけ緊張しているのかもしれない。

「伯爵様。でしたらすぐに迎えに行きましょう!」

 ユズキが勢いよく立ち上がって、そう俺に言うが…。

「いや、ナディア達がどこに居るのか分からない現状では、それは無理だ。ナディアによれば、蜂達をこっちに戻したらしい。クイーン、蜂達が帰ってきたら、ナディア達の元に案内出来るか?」

 クイーンは、コクコクと頷く。

 話せないってのは、こう言う時に不便だな。

 いや、話せなくても何とかなるか。

「それじゃ、地図にナディア達が隠れているポイントを蜂達に描かせてくれ。それが出来たら、即座にホワイト・オルター号で迎えに行くぞ。メンバーは、メリル、ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネス、ブレンダーにクイーンだ」

 真剣な面持ちで俺の言葉に聞き入る嫁ーず。

「妊婦の母さんにユズカ、コルネちゃんとユリアちゃん、ユズキにサラにリリアさん、あとドワーフメイドさん達とノワールは、留守番だ」

 これには、ユズキと、コルネちゃんにユリアちゃんが、ちょっと不満顔だったが、

「ナディア達が、何に襲われたのか分からないから、母さんとユズカを護って欲しい」

 そう言葉を続けると、留守番組の全員が無言で頷いた。

「ノワール…念の為、この緊急事態をモフリーナにも伝えておいてくれ。もしかすると、何らかの協力をして貰うかも知れない。それと、不在の間の仕事に関しては人魚さんの女王様に連絡をして、人員を確保するように。俺のサインが必要な物以外は、全部判断は任せる。監督はユズキ…は喰われそうで怖いから…リリアさん、お任せします」

「お任せください」

 ユズキを人魚さんの前に出したりしたら、絶対に性的に喰われちゃうだろうな。

 しくしくと破れたシャツを抱きしめて泣く姿が目に浮かぶ…肉食系女子集団だからな…人魚さん達は…。

「良し、では蜂達が帰ってくるまでに、全員準備だ! ドワーフさん達、ナディア達が大怪我をしている可能性もあるんで、客間を整えて受け入れ準備と、魔族のお医者さんを何時でも呼べるように連絡をお願いします」

 これで全員に指示は行き渡ったかな?


「…あのぉ…私…は?」

 ん?

「ああ、サラにも重要な使命がある!」

「OH!」

「仕事しろ!」

「NO-------!」 

 いや、マジでこんな時ぐらい仕事しろよな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る