第823話  交代で

「と、父さん…」

「何だ、息子よ」

 応接室のソファーで向かい合って座る親子。

 そしてその周囲に飛び回る妖精さん&もっち君。

「お互い、信用されてないねぇ…」

「ああ、全くだ…」

 互いに顔を見合わせると、がっくりと肩を落とす父と息子。

 母さん…父さんが浮気なんて出来るはずないじゃないか。

 そして嫁ーずよ…俺は浮気なんぞせんぞ? 自ら進んでは…。

 いや、そもそもする気も無いけど…ホントだよ?

 結局、その夜は父さんと、互いが知らなかった様な王都や領地の状況やその他色々な事柄を、結構な時間まで話し合ってから床に就いた。

 勿論、寝室の扉の鍵はがっちりと閉めたぞ。

 もっち君はベットの周囲を飛び回ってたけど、気にしたら負けだ。

 明日は我が家へと早々に出立するのだから、今夜ぐらいはぐっすり寝ておこう。

 何か、嫌な予感がするからな…いや、絶対に何かが起きるはずだ。


 明けて翌朝。

 父さんの屋敷で朝食をいただき、メリルと待ち合わせしている王城横の練兵場へ父さんと向かった。

 ホワイト・オルター号はシールドで護られているので、ある一定の距離からは誰も近づくことは出来ないのだが、半球状のシールドを取り囲むように、またまた騎士さん達がたくさんいらっしゃる。

 皆、朝早くからご苦労さんねえ…今日はネスは出さないよ?

 すると、そんな騎士さん達の集団の中から、一際豪華な鎧に身を包んだ騎士さん達に護られながらメリルが俺の前へと進み出た。

「おはようございます、お義父様、トール様。昨夜はゆっくり過ごせましたか?」

 何か、めっちゃ王族オーラ全開でにっこり笑ってメリルが俺を迎えてくれた。

「ああ、メリル、おはよう。昨夜は父さんと色々と話も出来て、有意義な時を過ごせたよ」

「………」

 父さんは何故か無言で、軽く会釈だけ。

 どうやら、時たま父さんはメリルとの距離感や言葉使いに困るようだ。

 普段、家族だけであれば特に気にしていないようだが、こうして公的な場に出た時や部下が大勢いるときは、自分の義理の娘でもあり、元王女でもあるメリルとの距離感を上手く測れないらしい。

 メリルは何度も義理の娘なのだから、その様に扱って欲しいと言っているのだが、こうして何かの折に、急に父さんはメリルを前に固まってしまう。

 俺もメリルも、それだけでなく家族も、こうした父さんの性格というか性質には慣れてはいるけど。

 父さんの返事を待ってたら日が暮れるから、ここは俺がさっさと場を締めるとするか。

「それじゃ父さん、近いうちにまた来るよ。陛下からも色々と頼まれた事だし…ね」

「う、うむ。また連絡をしてくるが良い。待っておるぞ」

 おかしいなあ…昨日はこんなに緊張してなかったと思うんだけど、父さん…?

「お義父様、今回はお屋敷に寄ることが出来ず申し訳ありませんでした。次回は必ずお伺いいたしますので、よろしくお願いいたします」

 メリルが深く頭を下げると、父さんわちゃわちゃしながらも、

「お、あ…いや、うぉほん! うむ、お待ちしておりますぞ」

 敬語を使っているのに偉そうな態度? 

「あ、そうそう。お義父さま付きのもっち君、こちらにいらっしゃい」

 メリルがそう言うと、陽炎の様にゆらゆら揺れる何かがメリルの方へとふよふよ飛んでいく。

「あなたとあなたは、今回一緒に帰ります。トール様付きのもっち君は、交代でお義父様の監視を」

 やっぱ監視かよ! って、光学迷彩使ってるもっち君を、メリルは見えるのか!?

 というか、父さんの監視は一部交代して続行って…。

 はっ! もしや、母さんの元に連れ帰って、報告させる気か!?

 俺とほぼ時を同じくし、同じ結論にたどり着いた父さん、顔が真っ青。


「では、またお会いできる日を楽しみにしております。皆様もお達者で」

 そんな俺や父さんの心情など、丸っと無視して、メリルはにこやかにこの場に集まった騎士さん達に小さく手を振り、俺の横っ腹を肘で小さく突いた。

 あ、さっさとシールド解除しろって事ね…おっけーおっけー。

「それでは、皆様に聖なる女神のご加護が有りますように…」

 仰々しく俺が右手を天にすっと伸ばし、左手を胸に添えてそう告げ、シールドを解除した。

 並みいる騎士さん達は、両手を胸の前でクロスして軽く頭を下げたのを確認し、俺とメリルはホワイト・オルター号のタラップを昇る。

 俺のさっきのポーズは今思いついてやったんだけど、騎士さん達は何故か全員揃ってたなあ? 

 もしかして練習してるのかな?


 タラップの最上段で振り返ると、まだ全員頭を下げたままだった。

 そんな中、俺の方を父さんだけはじっと見つめていた。

 父さんの目が、俺に訴えかけている…母さんが怒ったら何とかしてくれと…。


 俺は、俺の思いの丈の全てを視線に込めて父さんに返した。


 絶対に無理です! っと。

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