第774話  昔から…?

「わ~~~~~♪ おしろがちっちゃくなったぁ~~~~~♪」

 飛行船がゆっくりと浮上すると、ユリアちゃんが窓にへばりつき、徐々に遠く小さくなって行く王城に元気に手を振りながら、歓声を上げた。

 もちろんユリアちゃんがへばりついているキャビン後部の窓ガラスはとても頑丈でそうそう割れる事も無いし、結界も展開しているのだが、何せスーパーウルトラ幼女のユリアちゃん。

 心配なのか、コルネお姉ちゃんは、ユリアちゃんにぴったり貼り付いて、

「ユリアちゃん、窓を叩いたり押したりしたらだめですからね?」

 などと注意をしている。

「はぁ~~~い!」

 そんなコルネお姉ちゃんの心配など、どこ吹く風のユリアちゃん。

 元気に返事をしつつ、高度が上がり雲の上に飛行船が出る頃には、ちょっと飽きたのかソファーに座る母さんの横に、たたたと駆けて行って、ポスッと座った。

 そんな自由なユリアちゃんの行動に苦笑いしながらも、コルネお姉ちゃんもユリアちゃんの隣に上品に腰かけた


 コックピット後ろの少し広い場所は、最近嫁ーずが新調したでっかい応接セットが置かれている。

 前方…ゆまり、俺が座る飛行船の下部と前後方向及び飛行船の上方向が映るカメラ映像(かどうか分からないけど)が良く見える様にコの字に配置された、余裕を持って5人は座わる事が出来るソファーが3台。

 そしてその真ん中に置かれた木目も美しい巨大なローテーブルはソファーに合計15人座ったとしても十分に茶器や食器を並べられる物で、どうやら嫁ーずの特注発注した品らしい。

 どちらも落ち着いたダークブラウンの色調なのだが、白系統の多い無機質な飛行船内部で空間とのアンバランスさが、逆にすっきりとしつつも落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 飛行船の飛行は、元々あまり揺れないのが特徴なのだが、ホワイト・オルター号は空気抵抗すら結界で打ち消しているため、全くといって良い程に揺れない。

 ミルシェとマチルダとナディアがテーブルに真っ白い茶器を並べてお茶を淹れても、そのお茶には波紋すら立たない。

 そんなお茶を、優雅にソーサーごと持ち上げて愉しむ母さん。

「ミルシェさん、マチルダさん、ナディアさん、また腕を上げましたわね」

 そんな母さんの感想に、嬉しそうに微笑むミルシェとマチルダに、静かに礼をするナディア。


 まあ、いつも往復している王都とアルテアン領なので、もう浮かび上がってしまえば全自動なのだが、今はちょっとあの中に入る勇気がわかない。

 だって、俺の背後は、全員女。

 どっかの、『ドキッ! 丸ご○水着 女だらけの水〇大会!』 じゃないけど、あの中に飛び込む勇気は流石に無いぞ。

 だって、例のアルテアン家の女会議の内容だって知らないし…いや、怖いから知りたくないけど…そんな会議をしていた女性陣の中に無策で飛び込んだら、何を言われるか分からない。

 呼ばれるまでじっとここで操縦を…、

「トールちゃん、もう大丈夫なんでしょう? こっちにいらっしゃいな」

 しておこうと思ったけど、母さんから呼ばれてしまった。

 ここで逝かない…いや、行かないという選択肢は俺には無い。

「あ、うん…ちょっと設定だけするから、少し待って」

 別に何をするわけでもないけれど、呼吸と気持ちを落ち着ける時間がちょい欲しい。

 すーーーはーーーーすーーーはーーー…うん、落ち着いた。

 操縦席からゆっくしと立ち上がり振り返ると、全員の視線が俺に集中した。

 怖! 怖すぎるよ!

 別に怒ってたりしてる雰囲気でも無いから、出来る限り表情を変えずにソファーセットへと向かう。

 少しだけ口元に笑みを…上手く浮かべる事が出来てるかな?

 数段だけ高いその場所にゆっくりと歩み寄り、ソファーの端っこに俺はそっと座った。


「それで、トールさまが人魚さん達の為に、大お見合いパーティーを開催したのですわ、お義母さま」

 メリルが何か言ってるなあ…。

「そ、そうです…そのために…大きなホテルを造ったのです…」

 ああ、その話題にミレーラも乗っかるのかあ…。

「おっきなほてる!」

 ユリアちゃん、そこに食いつくの?

「確かにあのホテルからの眺めは最高だな」

 イネスも参加してきたか。

「お義母様、とても美しい滝の流れが見えるんですのよ?」

 マチルダの言う通り、あの滝はホテル自慢の景色だからな。

「そのホテルって、私達も宿泊できるのですか?」

 コルネちゃんが望むなら何泊でも出来ますよ。

「ええ、可能ですけれども、今は私達が企画したブライダル・プランで予約は結構埋まってますので、スィートは難しいかと…」

 何を言うか、ミルシェ! そこは可愛い妹の為に最上階のスィートフロアを貸し切りにすべきだろう!

 俺が心の中でそう答えた時、何故か全員の視線が俺に集まっていた。

 黙ってお茶をすすりながら、アルテアン家の女性陣の会話に黙って聞き入りつつ、俺は脳内で返事をしていたはずだが?


「いえ、マスター…全部声になっておりますけれども…」

「な、なんだとー!?」

 ナディアの衝撃告白に俺が恐れおののくと、

「あなたって、本当に隠し事が出来ないわよねえ…昔から…」

「……………」

 呆れた様に母さんがそう言い、ぐるりと嫁ーずもナディアを見回すと、全員が黙って頷いていた。


 俺って、昔からそうだったっけ?



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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