第765話  季節外れの怪談か?

 その夜は、とても静かだった。


 まあ、父さんの屋敷で、俺の寝室に突撃してくる嫁は流石に居なかったというだけだが。

 あ、いや…いつも寝室に突撃して来た嫁の勢いに流されてイタしてしまっている俺が悪いのは理解はしているよ?

 でも、そもそも突撃してくるのが悪いと思うんだ。

 俺は来て欲しいとか、今日はOKだよとか、言った事は一回も無いから。

 本当だよ?


 ちなみに、ずっと姿を見なかったから忘れてたけど、深夜にナディアから念話が届いた。


 いきなり、『しくしくしくしくし…』と、女の泣き声が頭の中に響いた。

 すわっ! 季節外れの怪談か!? と、ちょっとビビったのは内緒だ。

 驚き目を覚ました俺が、ベッドの上で周囲をキョロキョロと見まわしたが、暗闇の中、誰の姿も見えない。

 それでも頭の中で『しくしく』と響く泣き声が、何故か俺の心を急速に落ち着かせ冷静にさせた。

 そう、その泣き声は俺が知っている声だったからである。

 なので、その泣き声の主に対して、俺は頭の中でこう言ったのだ。

『眠いから寝かせて?』

 その瞬間、烈火のごとく怒り出した(?)ナディアが、俺の頭の中で騒ぎだした。

『~&&RF$#C*L`=~)&$EHM{=KI|='$Dd89b23あじ)&)WCL,vg82』

『ご、ごめんって。そんなに怒るなよ…どうした、何があったんだ?』

 取りあえず謝罪。意味が分からなくとも謝罪。これが正しいクレーム対処法です。

 え、誠実じゃないって? それは言わない約束ですよ、お前さん。

『ますたー…わたしをわすれてたでしょう…』

 うん、忘れてました。

『いや、忘れてないぞ? それで、今までどこにいたんだ? 姿が見えないな~って思ってたんだよ』

 決して本音を漏らしてはいけません。

『王都配属のもっち君と一緒に、ずっと呼ばれるのを待ってました…』

 そういや、もっち君も居たな。

『いや、出て来たらいいんじゃね?』

『呼ばれても無いのに、あの恐ろしい緊迫した場所なんて行けませんよ…』

 ああ、まさか母さんオーラの余波がそこまで及んでいようとは…。

『そ、そうか…。一応、母さんの出産まで、コルネちゃんとユリアちゃんを含めて俺の領地に連れて行くぞ』

『う”ぇ”?』 

 あれ、言ってなかったっけ?

『ナディアも一緒に帰るからな? 準備だけはしとけよ。あ、出発は明後日の昼頃な』

 そう告げた瞬間、ナディアが、

『ぃぃぃぃぃ…ぃやっふぉおぉぅぉうぉぉ!!』

 めっちゃ喜んだ。

 ってか、今は深夜なんだから静かにしなさい。

 あ、頭の中でしか叫んでないから、騒音問題は関係ないのか。

『喜んでるところ悪いんだが、ナディアとアーデ、アーム、アーフェンとで、領都リーカの屋敷にある大樹の面倒を交代で診てもらう予定だからな? ずっと俺の屋敷に居るわけじゃないぞ?』

 こいつ、ほっといたら絶対に俺の屋敷でゴロゴロしながらお菓子食って惰眠を貪りかねん。

 どうも、最近は特にサラの影響受けまくってる感じだからな。

『大丈夫です、マスター! しっかりお仕事しまっする!』

 しまっするって、お前なあ…まあ、いいや。

『んじゃ、そう言う事で、俺は寝る…おやすみ…』

『了解です、マスター! おやすみーご!』

 ナディアよ、そのネタはもうかなり使い古されてるからな?

 

 こうして、色々と王都での濃い一日を過ごした俺は、もう一度眠りについたのであった。


 翌朝、俺が目覚めて身支度を整えて食堂へ出向くと、父さんと母さん以外の家族が全員座っていた。

 ニコニコと笑顔を絶やさずに「おはよう」と挨拶をすると、皆も笑顔で「おはようございます」と返答してくれた。

 食堂のデカいテーブルの一番下座に、今日はちゃっかりナディアも座っていて、返事をしてくれた。

 まあ、夜中の念話で、念願の俺の領地に帰れる事を知ったからか、すこぶる機嫌が良さそうだ。

 嫁ーず同様に、ニコニコ顔で俺へと視線を投げかけて来る。

 そんな嫁ーずとナディアの笑顔溢れる視線に、俺が応えて視線を返す事はしない。

 推測ではあるが、ナディアは俺からの視線を求めていただろうが、嫁ーずはきっと誰もそれを求めていない。

 だって、この食堂に入った瞬間に、またしてもナディアから状況報告の念話が飛んで来て話したから。

『マスター、奥様方の笑顔が怖いです。顔は笑ってますけど、目だけは笑って無いです』

 だ、そうです。

『いいか、ナディア。食堂では笑顔でいろよ? 決して声も出すな。何か嫌な予感がするからな』

 そう告げると、

『わっかりましたっ!』

 という返事があったぐらいだから、まあ心配はしていない。

 が、どうやら昨日の第95回アルテアン家の女会議の影響なのか後遺症なのかは分からないが、嫁ーずの雰囲気が怖いので、俺もただだまって引き攣りつつも笑顔を崩さずにいる事にしたのだ。 


 やがてこの屋敷の主である父さんが、母さんを引き連れて食堂に入って来た。

 父さんはちょっと顔色も悪く、目の下にクマが出来てる気がしないでも無い。

 対して母さんは、晴れやかな笑顔だった。


「で、では…朝食にしようか…」

 微妙に覇気のない父さんの声を合図に、王都アルテアン侯爵家の茶式での朝食が始まったのである。



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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