第764話  死ぬなよ、父さん!

 第95回アルテアン家の女会議

 その会議の内容が、一体どの様な物であるか? それを俺と父さんが知る事は永遠に無いだろう。

 何故ならば、その会議が過去94回も開催されていたという事実すら、つい先ほど知ったばかりなのだから。

 しかも会議の場と化した応接室から追い出された俺と父さんは、会議が終わり応接室から参加者が出て来るまで、一切呼ばれる事も無かったのだから、知る由も無い。

 ちなみに会議の参加者は、議長である母さん事、ウルリーカ・デ・アルテアンさん、コルネリア・デ・アルテアンちゃん、ユリアーネ・デ・アルテアンちゃん、そして嫁ーず代表のメリル・デ・アルテアン、ミルシェ・デ・アルテアン、ミレーラ・デ・アルテアン、マチルダ・デ・アルテアン、イネス・デ・アルテアンの計8名。

 会議の間中、何時呼び出されるとも分からないまま、俺と父さんは黙って食堂で震えていた。


 どっかの物語の主人公とかだったら、場を和ませようとかしてジョークの1つでも言うかもしれない。

 もしくは執事が、『ではこの時間に仕事を…』とか言って、時間を忘れるほどの仕事を持って来るとか、会議室にお茶とお茶菓子を運ぶメイドがドジをやらかして会議の場でドタバタ喜劇が始まって、会議がうやむやのまま終わったり…何てことは、一切ございません。

 執事もメイドも、何故かガタガタ震え青い顔をして、直立不動で黙って食堂の隅に立っていた。

 君達も母さんが怖いんだね…うん、その気持ちは良く分かるよ…すっごく良く分かるから、すがる様な目で見ないでくれ。

 何だよ君達。

 何を目で訴えているの…え? 奥様をどうにかして欲しい? 

 出来るものなら、とっくにしてるよ!

 ってか、それは父さんに言えよ!

 俺が父さんに目を向けると、そこには全力で頭を左右に振っている父さんが居た。

 無理? 絶対に無理? 母さんに意見なんて出来ない? 

 ってか、どうしてそんなに母さんが怖いの?  

 本能的で根源的な物だから、どうしようもない…と? 

 なら、何で母さんと結婚なんてしたんだよ!

 昔は超絶可愛くて綺麗だった? …どうでもいいわ! 

 でも父さん、一言言っておくぞ!

 母さんに『昔は』とか言うなよ?

 死ぬぞ、物理的に。

 まあ、俺もああなった女性陣に、何か意見を言おうとは思わないけどな。

 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず…だよな。

   

 第95回アルテアン家の女会議に参加していた8名が会議の場である応接室から出て来るまで、食堂はお通夜の様に静かであった。

 いや、これは間違い。

 出て来た8名が席に着くと、即座に夕飯が各自の目の前に並べられたのだが、食堂には配膳の音しかしなかった。

 そう、誰もがいまだに無言なのだ。

 しかも、何故か誰もが無表情。

 この恐ろしい沈黙は、食事が終わるまで続いた。

 食事が終わり、食後のお茶を…とメイドさんが動きだすタイミングで、母さんがこの沈黙を破った。

「では、会議の続きを行います。私達のお茶は、応接室に運ぶように。では、全員行きましょう」

 母さんのその言葉を聞いた会議参加者は、一斉に『ガタッ!』と、椅子を鳴らして立ち上がると、一糸乱れぬ行進で食堂を出て行った。無論、母さんを先頭に…。

 こ、怖!


 結局、第95回アルテアン家の女会議は夜遅くまで続いた。

 俺と父さんと、屋敷の使用人一同は、ただ黙ってじっと食堂で背筋を伸ばして、ただただ静かに待っていた。

 時折応接室から漏れ聞こえるのは、笑い声や驚喜狂乱大喝采の声など。

 一体、何を話し合っているのかは不明だが、俺と父さんは敢てその内容に踏み込むような馬鹿な真似だけは絶対にしない。

 そして、深夜と言ってもおかしくない時間に、応接室の扉は開かれた。

 母さんとコルネちゃん、メリル、ミルシェ、ミレーラ、マチルダと順に応接室から出て来て、すでにおねむだったユリアちゃんをお姫様抱っこしたイネスが最後に出て来た。

 コルネちゃんは自室に、ユリアちゃんはイネスに抱きかかえられたまま、ユリアちゃんの自室へと運ばれて行った。

 母さんは父さんとの寝室へと向かい、嫁ーずは全員が黙って割り当てられた部屋へと向かった。

 その様子を直立不動で応接室前の廊下で見送る、俺と父さん以下使用人一同。

 

 こうして、長い長い女だらけの会議は幕を下ろしたのだった。

 ってか、こんな会議を今まで94回も…今回で95回もやってたの!?

 もう、俺達ここから解散でも良いよね?

 もう呼び出されたりしないよね?

「あぁ、そうそう。あなた…すぐに寝室に来るように」

 寝室へ向かっていた母さんが振り返り、父さんに向かってそう言うと、

「は、はひぃ!」

 父さんが、カミカミで返事をして、何故かブリキの兵隊さんみたいに、カクカク歩きしながら廊下を母さんとの寝室へと向かって行った。

 何をとは具体的に言えないが、とにかく、死ぬなよ、父さん!


 俺は…割り当てられた客間に行って寝よう。

 とうか、何でこんな事になったんだ?

 ユリアちゃんのお見合い問題を話し合うんじゃなかったっけ?

 俺、そう切り出したよね? 

 あれ? 



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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