第755話  呪術式加熱調理器具

 ユズユズの2人が最初に手掛けたのは、電子レンジをこの世界で再現できないかという事だった。


 もちろん、地球でごく一般的に普及している様な形では無い。

 何たって、俺のユズキも電子レンジに関する詳しい構造なんて知らないから、そのままそっくり再現なんて出来っこない。

 確か高周波のマイクロ波…マイクロウェーブで、食品とかの中にある水分子を激しく振動させることによって加熱しているとか何とかと聞いた事がある。

 何でマイクロウェーブで水分子が激しく振動するんだ? 

 振動したら、何で加熱できるんだ? 

 仕組みは知ってても、動作原理を良く知らないんだから、再現しようとしたって、そのままの形では無理だ。

 ユズキも、マイクロウェーブが出てるとは知ってるが、周波数がどうとか言ってたけど、結局は電波の出し方が分からないそうだ。

 それじゃユズキはどうだって? 知ってると思う? あのお気楽新妻が。

 

 てなわけで、同じ物は再現できないが、呪法具でなら出来そうだという事で挑戦。

 何で電子レンジなのかって聞いてみた所、どうもユズキのお仕事に直結している事だとか。

 この屋敷だけでも、そこそこの人数が寝起きしている。

 全員分の食事を作って、配膳をきちんとタイミングよく行う事なんて難しい。

 つまりは、『今からご飯を食べましょう』と言って、『はい、どうぞ』と配膳する事が大変だという事。

 俺も気が付かなかったけど、一般的な貴族の家ってのは、主人が食事と言った時間が食事時。

 有能な執事であれば、上手く主人がそう言い出すタイミングを調理時間とすり合わせて誘導するらしいのだが、まだまだ若いユズカには無理な事。

 ドワーフメイド衆達だって、味噌汁とかの汁物ならば何とか出来るかもしれないが、焼き魚とか煮物なんて事前に用意していたら冷めてしまうから、完成間近まで作っておいいて、俺が食事と言い出した時に仕上げをするとか。

 もちろん、そんな事をすれば味は多少なりとも落ちてしまうのだが、これは仕方がないと割り切っているそうだ。

 いや、これに関しては、時間を決めておかない俺も悪いのだが…。

 

 つまり、こうだ。

 ギリギリまで調理を行っておいて、食事時に合わせて最終調理をする。

 メイドや執事達は、食事時は戦争になる事がいつもの事で、食事時は使用人にとってとても大変。

 ついでに、食事がしたいと思った主人を少なからず待たせてしまうって点も、調理をする者にとっては心苦しい事なんだとか。

 混雑時のファミリーレストランみたいな物だな。

 すぐに料理が提供されているファミリーレストランだって、お昼とか夕方の混雑時に入れば、注文から10分20分も料理が来るのを待つ事だってある。

 まあ、メニューにもよるだろうが…。

 そうならない様に、事前に調理を終えておき、提供前にレンジでチンすれば簡単で手間も省ける。

 そう、ユズキに熱弁された。

 なるほどと納得せざるを得ない、已むに已まれぬ事情が、この開発の根底にあったのだ。

 

 そして苦節…数日?

 電子レンジ…あらため、呪術式加熱調理器具の試作品が完成した。

 贅沢にも魔石を10個近く使用する、電子レンジというにはちょっと大型の物だ。

 大きさの問題は追々改良していくとして、一応の目途はたったかな。

 まずは、前世でお馴染だったミカンの箱を縦横高さで2個ずつ重ねた様な、つまりはミカン箱8個分相当の木製の四角柱が本体。

 正面には扉がついており、それを開けると、底面を除いて扉の内側を含め内面に魔石が5個付いている。

 それぞれに水分子のみを高速振動させる呪法が刻まれている。

 何て書いてるのかって? それを教えたら企業秘密にならないから教えない。

 底面にはターンテーブルが付いており、加熱と同時にゆっくりと回転し、終了時にはゆっくり停止する。

 また、加熱時には箱の内側天井に付いている魔石が微かな光を放ち、調理中である事を教えてくれる。

 加熱の強弱とか加熱時間に関しては、完全自動としている。

 庫内温度、湿度、加熱対象の重量、加熱状況などを魔石式検知器で常時監視・検出して動作するので、残念ながら現段階では解凍とか、ちょっと暖めたいとかは出来ない。

 常に一定の温度まで加熱してしまうのが欠点と言えば欠点だが、ここは今後の改良点としておこう。

 つまりですな、庫内に食品を入れて、扉を閉めたらスイッチオン。

 加熱終了したら、チンッ! って音がして、暖かい食事が完成ってわけ。

 すばらしい!

 

 思わずユズキと手を取り合って喜んでいると、ユズカが俺を突き飛ばしてユズキと抱き合って喜んでいた。

 ちなみに、ユズカは何もしていない。ただ、見てただけ。

 いや、声で頑張れとは応援はしていたが、作業は応援していない。

 ついでに、突き飛ばしてくれたが、俺は一応お前達の主人だぞ?


 完成した試作品をキッチンに設置し、嫁ーずやドワーフメイドさん達に披露すると、もの凄く感動していた。

 直後に、ドワーフメイドさんが、これで簡単にゆで卵が出来ると張り切って生卵を並べていた。

 そして加熱して爆発した…卵が…。

 そうだった…生卵は駄目なんだよな…忘れてたよ。

 吃驚仰天のドワーフメイドさんと、しまった! と、目を覆い点を仰ぐ俺とユズキであった。

 

 ちなみに、ドワーフメイドさんと一緒に生卵をレンジに入れていたユズカよ…いくら卵サンドが食いたいからって、お前は一緒になってやっちゃ駄目だろうが!

 生卵なんてレンジでチンしたら爆発するのなんて、常識だろーが!

 え、知らない? いつもユズキがしてくれてるから?  お、お前…新妻だよな?

 ユズキも嬉しそうにしない! ちょっとはユズカに料理を教えろ!



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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