第754話  もはや定番?

「伯爵様! 私、考えました!」

 いきなり執務室に飛び込んできたのは、異世界…いや違った、他の星からやってきた勇者ユズカ。

「いえ…ユズカも僕も勇者じゃないですけど…」

 ユズカの後ろに続いて入って来たのは、勇者をサポートするべく、同じく他の星からやって来た賢者ユズキ。

「だ~か~ら~! 僕は賢者なんかじゃないし、ユズカはただの…」

 あや? 声は出してないはずだけど?

 いんや、それよりも気になる言葉に俺もユズカも引っかかった。

「「ただの?」」

 声を荒げて抗議するユズキの言葉の続きを、俺とユズカが促す。

「ホレ、早よう言ったんさい」「ねえ、ユズキ…私はただの何なの?」

 ニヤニヤ笑いが止まらない俺とユズカが、ホレホレと続きを促す。

「えっと…」

 さっきまで興奮した様に声を荒げていた姿はどこへやら。

 ユズキはちょっと赤い顔をして俯いてしまった。

 しかーーし! そんな事で、この俺様トール君とユズカの追撃の手は緩むはずが無い!

「ホレホレ」「もう、ユズキ…早く言ってよー!」

 背中を丸め、顔を恥ずかし気に俯せにしたその肩は、プルプル震えていた。

 見たまんま恥ずかしいのか怒りに震えてるのかは、俺は感知しません。

 でも追撃の手は緩めないよ? だって面白いんだもん。

「「ユズキ君のちょっといいとこ見てみたい!あっそれ、イッキ! イッキ! イッキ!」」

 何故かユズカと気が合う様で、手拍子しながらのコール。

 ってか、何で元女子高生(入学前)のユズカがそれ知ってんだ?

 そんな事を考えていると、ユズキが小さく何か呟いた。

「ぼ…の…まだ…」

「「ん??」」

 よく聞き取れませんな。

 すぐ隣のユズカも聞こえなかったか、片手を耳にあてて、ダ〇ボになってた。

 もうプルプルを通り越して、ガックガックに震えてるユズキは、ついにどっかのネジが吹っ飛んだのか、

「ただの僕の妻だよー!」

 大声で叫んだ。

「おーー!」

 俺がその宣言に、パチパチと拍手をしていると、

「もう、そんなの大声で言わなくたって、当然じゃない…あ・な・た♡」

 ユズカの目がハートになっていた。

 しまった! これって、つい先日も同じ事になった気が…

「ユズカ…」「ユズキ…」

 あ、これ…完璧に駄目な奴だ。

 またもや目の前でラブラブが始まる奴だ。

 頬を赤く染めた2人はじっと見つめ合うと、徐々に吐息が互いに感じられるほどに顔が近づき…

「とまれ止まれ! すとっぷ、すたーーーーっぷ! そこまで!」

 ああ、ここまでがもう定番になっちゃった感が…。

「覗き見るなんて、伯爵様はスケベですねぇ」「もう、良いとこなんだから邪魔しないで!」

 何故、俺が非難される!?

「いや、俺の執務室でユズキもユズカも何しようっての? まさかナニじゃないよな? 取りあえず止まれ!」

 ブー垂れてたユズカがユズキから離れると、やっとこ、場が落ち着いた。

 何でこうなったんだ? あ、俺が原因か…。


 場が落ち着いた所で、改めて2人の話を聞こうかな。

 立ってては何なので、ソファーを勧めてみた。

 ま、この2人が遠慮などするはずも無く、ユズカがユズキの手を引っ張って俺の対面に座る。

 何故か姿を見せないサラ達やドワーフメイド達のせいでお茶も何も無いが、話しだけなら、まあいっか。

「んで、ユズカは何を考えたんだ?」

 まあ、十中八九地球での家電関係だろう。

「えっと、まずはこれを見てください!」

 どっから取り出したのか、また過去に見た様なレポートが俺の前に積み上げられた。

 いや、マジでソレどっから取り出したんだ?

「まあ、伯爵様…見てください」

 ユズキにもそう言われたら、見るしかない。

 俺は目の前に積まれたレポートを、一枚ずつ手に取ってみる事にした。


 まあ、思いつくまま書いたのだろう。

 内容は俺の予想通り、地球…いや日本の家電製品群がメインだった。

 炊飯器…は、確かにドワーフメイドさんは薪を焚いて竈で料理してるなあ。

 オーブンと電子レンジ? あ、炊飯器と同じ流れでキッチン家電って事か。  

 お、ジューサーにミキサーにフードプロセッサー…俺には違いが良く分からん。

 似た様な物じゃねーのか?

 お、圧力鍋なんて書いてあるけど、電気使わないのもあるのか。

 生ごみ処理機? もしかしてコンポストみたいな物かな? 何々…投入した物体が完全に粉砕されて肥料へと変わる…コレ、やばい犯罪に使われそうだな…。

 お次は…美容器具? ドライヤーは定番だけど、ヘアアイロンって何ぞや? 髪の毛にアイロンって頭熱くなんねーの?

 あ、普通のアイロンもあるのか…でも魔石式の魔道具にもこれはあるぞ。

 ライター? いや、これも魔道具で点火用のがあるって。

 シェーバーって、髭剃り? あ、確かにこれは欲しいかも。

 かならずあた〇手相セットって何だ? スモ〇ルライト? どっかで聞いたような気がするけど思い出せない…。

 タケコ〇ターにどこ〇もドアーに四次元ポケット…って、これはドラ〇もんの秘密道具じゃねーか! 

「えー? ダメー?」

 書いたのはユズカか! ダメに決まっとろーが!


 俺が忘れかけていた様な道具や知らない道具、すでにこの世界にある道具などが、整理もされず思いつくまま書き連ねられたそのレポートを見ながら、俺とユズキとユズカで、ワイワイと賑やかに結構な意見を出し合って、熱く議論したのであった。


 でも、アニメの道具はだめだぞ?

 あの漫画の作者さんは、サラ曰く管理局の局員らしいけど…。

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