第743話  番外)コルネちゃん語り

 私の名前は、コルネリア・デ・アルテアン、12歳です。


 私の父は、グーダイド王国で侯爵位を賜っている、ヴァルナル・デ・アルテアンです。

 普段の父は、王城にてグーダイド王国の騎士達に剣を教えたり、軍務関係のお仕事をされておいでです。

 そのため、領地を遠く離れ、王城のある王都のお屋敷に一家揃って住んでおります。


 あ、いえ…これでは正確ではありませんね。

 私には、5歳年上のお兄さまが居られますが、一緒には住んでおりません。

 お兄さまの名前は、トールヴァルド・デ・アルテアンと申しまして、伯爵位を賜っておられます。

 先ほど正確ではないと申し上げましたのは、お兄さまと奥様達は父の領地に隣接するお兄さまの御領地のお屋敷にお住まいだからです。

 お兄さまは、私が物心つく頃には、すでに魔物や獣と戦っておられ、隣国との戦争にも出征されました。


 なぜまだ幼かったお兄さまが従軍なされたのかというと、お兄さまは水と生命を司る聖なる女神ネス様の使徒だからなのです。

 その隣国との戦争において、お兄さまと父のたった2人で…「父の話では、お兄さまだけだ」と言っておられましたが…たった一人の犠牲者も出さず戦争を終結なされたそうです。

 もちろん、それには女神さまの多大なるご助力があったのでしょうが、前代未聞の大殊勲だそうです。

 敗戦国となった隣国では、数多くの不正や口にはできない非道な行いを、宗教国家を率いるトップである宗主ですとか、多くの問題ある方が粛清を受けたと聞いておりますが、それは犠牲者とは別でしょう。

 

 この様に偉大なお兄さまですが、今では奥様が5人もおられます。

 私の義姉となる方々です。

 第一婦人は、なんとグーダイド王国の第三王女様で、お兄さまと同い年。

 私が幼少の頃に随分と面倒を見ていただいた、元は平民で使用人のお兄さまの1歳年上の幼馴染。

 お兄さまよりも年下な、隣国の姫巫女というお方で、お兄さまの1歳年下。

 母の妹様の娘…つまりは私やお兄さまにとっては5歳年上の従妹にあたる方。

 お兄さまよりも年上の、元お姫様のお付きの女性騎士様で、お兄さまの4歳年上。

 正確な誕生日で計算すると、違うとか言われましたが、それは別に気にしてません。

 斯様に、出自も身分も年齢も違う義姉達ですが、やはりお兄さまと共に遠く離れて住んでいます。

 

 この様に王都に住んでおられる他の家の方々へ、甚だ簡単ではございますが、家族を説明をしました。

 2人ほど抜けている?

 ええ、そうですね。

 もちろん、私の母と妹は紹介していません。

 何故なら、このお茶会に本人達が参加しているので、その目の前で紹介というのは、少し気恥ずかしいものがあるからです。

 母も元は商家の出で、昔の戦争で武勲をあげた父と結婚したそうです。

 妹であるユリアーネ・デ・アルテアンは、最近まで領地にある屋敷で育てられた箱入り娘という事にしております。

 しておりますという事から察する方も多いかと思いますが、妹の出自に関しては我が家の最重要機密事項となっております。


 実は妹は、元は神々の手違いでこの世界に送り込まれた、恐怖の大王の欠片を宿した他の世界の人だったそうです。

 私の横でニコニコしながらお菓子を頬張り、お茶を飲んでいる姿からは想像もできませんが。

 神々にこの世界へと送り込まれた時、何か障害があって大半の記憶を失っていたところを、聖なる女神ネス様のお力でもってその欠片を取り除き、私達のいる世界に順応できる身体を、お兄さまとネス様お与えになったとの事です。

 ユリア(ユリアーネの愛称です)の身体は、お兄さまの身体の一部? 情報? を使っておられるとかで、お兄さまと髪と瞳の色が同じです。

 ですので、ほとんどの方々には、私たちが本当の家族に見える事でしょう。

 もちろんユリアの記憶に関しても、過去の一切を消し去り、元から私たちの家族であった事になっているそうですので、何の問題はございませんが。

 ただ、あまりにもスーパーな力を持っているのは、ユリアの元となった身体が関係しているとか…。

 細かいことに関しては良くわかりませんが、素手で成人男性である騎士を殴り飛ばす事が出来る、スーパーな6歳のユリアですが、私にとっては可愛い可愛い妹です。

 もちろん、女神ネス様から神具も賜り、なんとネス様の巫女である私を補助する神子という役割をも仰せつかっているのです。

 あ、私…水と生命を司る聖なるネス様の巫女です。

 言うのを忘れてました。

 えっと、どこまで説明しましたっけ?

 ああ、そうそう、ユリアは私の可愛い妹なのです。


「それで、ウルリーカ侯爵夫人、コルネリア様。当分、お茶会に参加できないというのは…?」

 今回、薔薇の咲き誇る庭園でのお茶会の主催者である、アンゲリカ子爵婦人が私達へと訊ねます。

 ユリアの名前が入っていないのは、きっとお菓子に夢中な子供に聞いても無駄だと思ったのでしょう。

 子爵婦人の質問に、母は答えました。

「ええ…少し領地へと戻ろうかと」

「何か領地で御座いましたの!?」

 子爵婦人がその言葉を聞き、少しだけ慌てたように早口になりましたが、

「いえ、そうでは御座いませんことよ。ちょっとお腹の中に子供が…」

 母の一言で、すべてを察したのでしょうか。

 お茶会に参加していたご婦人方は、わぁ! と歓声をあげました。

「我が領地…特に息子であるトールヴァルド伯爵邸は、女神ネス様のお膝元。とても空気も良く、出産や育児に良い場所で御座いますからね。そちらに暫しの期間、逗留しようかと…」

 母とお茶会に参加している奥様方が楽しそうに談笑していますが…。


「ねえ、ユリアちゃん…領地のお屋敷に戻るって聞いてたけど、お兄さまの屋敷に逗留なんて聞いてないよねぇ?」

 ほへっ? と、ほっぺにお菓子の屑を付けたユリアに言うと、

「おかあさんが、かってにいくとおもうよ~」

 ええ、きっとユリアの言う通りでしょう。

 お兄さま、ごめんなさい…コルネには、お母様を止めることは出来ません…。

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