平和が一番だよねえ

第710話  口コミ

 さてさて、パンゲア大陸で3人のダンジョンマスターと3人の王が、どの様な政治を行い、どの様にして民を従え治めるのか、それに俺は一切関知しない。


 ただ、これだけは周知徹底してもらっている。

 元の国でどんな立場であろうとも、このパンゲア大陸では通用しない。

 その立場は捨てるか忘れる事。

 全員が同じ立ち位置であるという事。

 元の国での立場や爵位がどうとか言い出す輩には、速やかに消えて貰うようにと。

 これは即座にパンゲア大陸中に広められ、反発した者も居たそうだ。

 そいつらがどうなったかって? やっぱり人知れず消える事になったよ。

 今頃は、大陸の地下とかにある何処かの誰かのダンジョンで生死の狭間を彷徨ってるんじゃないかな?

 何で元の国のあるこっちの大陸に戻さないかと言うと、そんな奴いたって碌な事には成らないからってももあるし、そもそも、こちらの大陸ではそいつらは絶賛消息不明中なのだから、そんなのが消えたって何とも思わない。

 俺が直接手を下すわけでも無く、残酷シーンを見るわけでもないので、ぜーんぜん心が痛まないのだ。

 まあ…もしかしたら、コレを知った奴には、冷たい奴とか言われるかもしれないが、そんなの知ったこっちゃない。

 こっちの大陸だって、今でも新しい国を興すために、多くの人が櫛風沐雨、東奔西走しているんだから、面倒くさい奴なんて居ない方が良いのだ。

 そもそも、先祖が何か偉業を成し遂げただけの子孫が、家の爵位を笠に着てやりたい放題な異世界物でテンプレで脳タリンのバカ貴族とかが居るなら、そんな奴はこの世に居ない方が良い。

 パンゲア大陸も俺達の住む大陸でも、ゴミはさっさと始末した方が皆の為だろ?

 我がグーダイド王国では、そんなバカ者たちが蔓延らない様に色々と考えられてはいるが、以前にもバカ男爵とか居たからなあ…。

 ま、それは王様達に頑張って貰いましょう。


 さて、何故かパンゲア大陸を統べる3人の王達から、たまには大陸に顔を出して欲しい、税の一部を献上したいなどと言われてはいるが、俺は謹んで遠慮させてもらっている。

 それをしちゃうと、何時かばれた時に、俺があの大陸を本当に私物化していると思われかねない。

 もちろん、あの3人の王だって誰にも気づかれない様に(家族にはバレバレだけど)してくれるとは思うが、それでも俺の良心的にね。

 まあ、それでなくともモフリーナからは定期的にダンジョンの素材を献上されてる事だし、ダンジョン目当てで集まって来る冒険者達への商売も相まって、我が領ははっきりいって超金持ち。

 ま、俺の手腕のおかげでもあるけどね。

 だから、危険な真似までして収入を増やす事ない。

 こっちの大陸で生活に困ったりしている人達が出た時は移住させてくれるようにだけお願いをした。

 もの凄いウルウルした目で『神様は私達を見捨てるのですか?』とか言って見つめられちゃったから…まあ、たまには顔を出すぐらいはしても良いかな…。



「トール様、湖の結婚式場の新しいプランを検討してみましたので、見て頂けませんか?」

 どれどれ?

「なあ、マチルダ。この❝2人のメモリアル・ナイトを美しい滝を臨む部屋で❞って、もしかしてあのホテルの事?」

「ええ、その通りです。あのホテルの有効活用プランです。従業員を募集したところ、なかなか良い人材を採用する事も出来ましたから。まあ、まだ研修中ではありますが、近日中にこのプランは実施出来るかと」

 それは重畳。人魚さんのサバト会場専用にするのは勿体ないからね。

 ホテルに使おうとは思ってたけど、まだ集客用のプランもなかったから、この提案は有り難い。

「よし、採用! 広報活動用の人材を採用してもいいから、ガンガン広めちゃって! あ、金額的にはボッタクリで」

「お任せください! すでに結婚式とホテルのスィートルーム宿泊セットで…これぐらいに設定を…」

 何故か2人しか居ない執務室の中で小声になり、何やら数字が記入されたメモをこっそり見せてくれた。 

「マチル…ダ? これがプラン料金…?」

 え? 一般ぴーぽーの年収の半分以上はするけど、大丈夫か?

「全然大丈夫です…。結婚指輪もロゆ筋に含まれていますので、むしろお得かと」

「おまっ! 指輪まで入れたら、赤字じゃねーのか?」

 いや、結婚指輪だぞ! 給料の3ヶ月分…あれ? それは婚約指輪だっけ?

「ドワーフ村の方々が協力してくれますので、原価は格安です!」

 あ、そうなのね。さすがは手先の器用なドワーフさんだ。

「材料はエルフさん達が採掘してくれるそうで、身体を鍛えるのに丁度良いとかで、日当はお手頃です」

 さすが筋肉至上主義のエルフさん…。

「さらにホテルの豪華ディナーには、人魚さん達と新鮮な魚介類の仕入れ交渉も出来ております」

 もう至れり尽くせりだね。

「原価計算までしっかり出来てるなら、もう俺からは言う事ないよ。始めるにあたって幾らか資金が必要だろうから、俺の私財から投資に回してくれたらいい。それもマチルダを信用しているから、好きにやっていいから」

 ま、そこは嫁だからね。

「有難うございます。では、早速メリルとミルシェとミレーラで相談しながら広報活動を始めてみます」

「あ、ついでに王都の母さんにも情報は回しといて。きっと、お茶会とかで口コミで広げてくれるから。ついでにビューティーサロンに広告を貼りだすのも忘れない様に」

 女性の口コミってすごい効果あるからなあ。

「あ、でしたら、結婚式に向けてブライダルエステも追加料金でセットに入れても良いかもしれません! さすがトール様です!」

 うむ、苦しゅうない。もっと褒めたまえ。

 あの面倒な戦争やパンゲア大陸関連の面倒事が終了した我が家は、日々こんな平和な会話が行われているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る