第709話  3人の王

 ドタバタ喜劇の様なホムンクルスの覚醒を終えた俺達一行は、あの後すぐに邸へと戻っていた。

 長期間仕事を溜めると大変な事になるからな。

 そして、それから何日もかけてダンジョンマスターズとホムンクルス達による建国へ向けての話し合いが行われた。


 その日、このダンジョン大陸は、正式にパンゲア大陸と発表さられた。


 それを発表したのは、美しい女王ディー・アーナ、美青年ヘーリ・オース、容姿こそ幼いが気高く威厳のある少女テーラ・マテールの3人であった。

 このパンゲア大陸に合計100基ある巨大な塔の壁面全てにその姿が浮かび上がり、大陸の名を発表するとともに、この大陸に保護されたり転移して来た者達に関する様々な方針や施策などが発表された。

 また、それに伴い、3か国が建国される事も。

 ただし、国家としての明確な境界などは一切設けず、ただ3人の王がこの地を治める事、人頭税などは一切徴収せず、物品等の売買時のみ一律10%徴税される事や、住居に関しては無料で提供される事、食料などは向こう1年間は保証される事などなど、数多くの事柄も発表された。

 そして、月神教、太陽神教、大地神教の各教会も、この広い大陸に隣接して多数建立される事も。

 また、今までも目にしてきたことではあるのだが、魔物やモンスターと呼ばれる生物もこの王達の配下である事と、それらが数多の仕事をする仲間であるという事が発表内容に含まれていた。

 これには数多くいた人々も、驚き、困惑した。

 何せ、元いた場所では忌み嫌われていた存在である魔物やモンスターである。

 もちろん人々はこの大陸において、そのモンスター達が食料を配布したり、怪我や病気の治療に走り回ったり、子供達の世話をしているのを目の当たりにしているので、そこまで忌避感はないのだが、それでも魔物である。

 だが、この様に塔の壁面に姿を映し出し声を響かせるなどという、普通の人では到底出来るはずも無い事柄を成しえる力を持っている3人の王であれば、魔物を配下にする事ぐらいで斬るかも…っと、多くの人が最終的には認めた。


 勿論、それに反発する者も居たのだが、知らず知らずのうちにそれらの姿は消え去っていた。

 これはダンジョンマスターズによって造り出された影の実働部隊と言われる、言うなればスパイ的なモンスターによるもので、そのスパイたちの目となり耳となっているのは、ごく身近にいくらでもいる蟲型モンスター…イノセント型の魔物である。

 あの輪廻転生システムのバグで多くの転移者がこの大陸に跳ばされて来た時の最終兵器ともなり得るモンスター軍団が、意外なところで活躍していた。

 ちなみに消え去った反国家的思想とでも言うべき危険な考えを持つ者は、多くの人々の前から徐々に数を減らし姿を消していったが、資源を無駄にしないダンジョンマスターズの方針により、地下に広がる3人のダンジョンに放り込まれた。

 その後、彼等がどうなったかなど、誰も知らない。

 もちろん、一般大衆は、彼等は何処かで徒党を組み、いつかこの国に反旗を翻すもしれないと危惧はしていたのだが。


 こうして、3人の王と3柱を祀る教会を中心とした大陸は、トール達の住む大陸から惑星的に見て真反対…というか、真裏側で栄える事となった。


「うん、それでいいんじゃね?」

 パンゲア大陸に関する報告をするため、ダンジョンマスターズが揃ってトールの屋敷へとやって来ていた。

「それでですね、反国家的思想を持っている者達は、ダンジョンに放り込んでますが、彼等には慈悲を与えません」

 モフリーナがそう言い切った。

「そりゃ、そんな奴らをこっちの大陸に戻されたってなあ…。どうせどんな政策を行おうが、文句だけいう奴等なんだよ。自分だけが優遇されたいとか思ってる馬鹿野郎だから、慈悲とか要らんと思うぞ?」

 ま、どこにでもいるんだよね、そんな奴って。

「そ、そうかや? そう言って貰えて、ほっとしたわい」

 ボーディが胸をなでおろしていた。

 絶壁だけど。

「ん? 今、お主…妾を見て、何か変な事を考えとらぬか?」

「い、いや! そんな事は無いぞ?」

 こいつ、エスパーか?

「ふんっ! まあ、良いわ。それでじゃな、そろそろ本格的にこちらのダンジョンとあちらのダンジョンを繋ごうかと思ってな」

「本格的に冒険者達を招き入れるという事か?」

 そっか、やっと始まるのか。

「うむ。それに伴い、この大陸のダンジョンに商人を呼んで欲しいのじゃ」

 にゅ? 商人? 何で?

「ああ、いや…パンゲア大陸から多くの素材がこちらに流れるのは確実じゃから、それをダンジョン付近で売買出来れば、回転が速かろう? それに生活物資…特に食料なども輸入したいと思っての」

 輸入!? ああ、ダンジョンで一瞬で行き来できるから、輸送費は格安か…なるほど。

「ええ、トールヴァルド様にそのあたりの事を、是非ともこの世界の権力者たちに口利きしていたきたいと思いまして」

 モフリーナが会話に割って入って来る。

「ほう…口利きね…商売の…なるほど、泥船に乗ったつもりで、この私に任せたまえ!」

 これはまたまた儲けの匂いがしますなあ…ひっひっひ…

「……泥船…沈む…」

 ずっと黙ってたモフレンダが、何かぽつりと言った気がしないでもないけど…。

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