第711話  平和?

『平和?』

 何だよ、平和じゃないって言うのかよ、サラ?

『いえ、平和と言うのは大河さんの勝手ですが、何か忘れてませんか?』

 え?

『サラ、この方は完璧に忘れてる様ですので、きちんと教えてあげなさい』

 リリアさんまで?

『マスター…まさかお忘れだったとは…』

 ナディアまで? 一体何を忘れてるってんだ?

『忘れている事は4つ。領都リーカのお屋敷の裏の大樹の事、そこに派遣したアーデ、アーム、アーフェンの事、王都の大旦那様に送った装備の事、それと大奥様が大旦那様から搾り取った結果、出来たかどうか…ですね』

 た、確かに! ってか、完璧にアーデ達の事忘れてた!

『『『はぁ………』』』

 頭の中でため息は止めて頂けないでしょうか…凄く惨めな気分になりますので…


 ってなもんや三度笠で、忘れてた事を順番に片付けよう。

 まずは実家の裏の大樹とアーデ、アーム、アーフェンの件だな。

 よっし、取りあえず行ってみますかね。

 直接見なきゃどうなってるかなんて分かんないし。

 そう思って、蒸気自動車を引っ張り出そうとしていると、嫁ーずから声が掛かった。

「トール様、どちらに?」

 最初に声を掛けてきたのはマチルダだ。

「いや、ちょっと実家の裏の大樹の様子を見に行こうかと」

 そう言うと、嫁ーずが円陣を組み、何かこしょこしょと話し始めた。

 何なんだ、一体?

「…きょにゅ…」「…わき?」「…あきちゃ…」「…まえ…とりま…」

 メリル、ミルシェ、ミレーラとマチルダの声かな?

「な~に! 付いてゆけばいいさ!」

『それだ!』

 イネスの言葉に、何故か全員が賛同したようだけど、一体何の話をしてたんだろう?

『って事で、一緒に行きます!』

「何が、って事なのかは分からんけど、そもそも連れてくつもりだったぞ? あと、ナディアも」

『えっ!?』

 何で驚くんだ? そもそも1人で何て行かんぞ。 

 ちなみに、俺の実家って事は、お前達にも関係があるんだからな。

 まぁ、今回の大樹の件とかは関係ないけどさ。

 

 あ~ナディア君、ナディア君?

『はい、こちら超絶美少女の据え膳ナディアです』

 …どこでそんな言葉を覚えた?

『ユズカさんが教えてくれました』

 またあいつは要らん知識を…

『ついでにマスターが、チーレム野郎のくせにヘタレ野郎だとも言ってました!』

 うるへー! 

『ところで何か御用でしょうか?』

 ああ、大樹の元に行くから、お前も一緒に行くぞ。

『りょ!』

 ユズカに、ナディア達に日本の偏った変な知識教えるの止めさせないとな…。


 さて、玄関前に集合した実家行きメンバー7人が乗り込んだ蒸気自動車は、俺と父さんの領地の間に聳え立つ山脈にある長い長いトンネルを抜けた。

 メンバーは、俺と嫁ーず5人とナディアの7人。

 サラとリリアさんとユズユズ&ドワーフメイド衆はお留守番。

 トンネルを抜けるとすぐに目に入るのは、モフリーナの経営? する第9番ダンジョンの高い塔。

 今回は特に用事も無いので、そのまま素通りだ。

 最近しっかりと整備され、アスコンで舗装された現代地球の道路程ではないが、非常に街道は滑らかだ。

 蒸気自動車の車輪は、一応はゴムっぽい素材で出来ているので乗り心地も良いのだが、この世界ではまだまだ馬車での移動や運搬がメインだ。

 とは言っても、蒸気自動車による長距離輸送網と人の移動網がある程度は確立できたので、主に近距離輸送でしか馬車は活躍しなくなったが。

 ま、その長距離便とバスにかんしては、俺や父さんの出資しているアルテアン運輸のおかげでもある。

 結果として今までの馬車関係の商売が廃れるのかいうと、そうでもない。

 もちろん廃業したところもあるだろうが、ほとんどは元から近距離便だったり個人の所有物などがメインであったので、意外にも以前と変わらぬ商売をしているという。

 ま、これはある程度予想できた事だが、蒸気自動車と馬車できちんと住み分けて活躍しているって事だ。

 この街道の整備事業に関しても、父さんがガンガン補助金を出したし、アルテアン運輸も資金出している。

 蒸気自動車の車輪であれば、ある程度の有れた路面でも走破可能だが、馬車にとっては色々と問題がある。

 一番の問題と言えば、まだこの世界の馬車にはサスペンション…懸架装置と緩衝装置などが無く、車輪も木製の輪っかの外側に鉄を巻きつけた簡素な物しかない事だ。

 なので、ガタガタ道だと衝撃が馬車の車体その物や積み荷だけでなく、乗り手のお尻にも多大なダメージを与えるってわけ。

 これの改善の為には、街道を出来るかぎり滑らかにする必要があるのだ。


 しかも、ただ滑らかにすればいいってもんじゃ無い。

 例えば地球のローマ街道の様な石畳を知ってるだろうか?

 だいたい紀元前300年ぐらい前に造られた石畳の街道だ。

 きちんと街道を石畳で舗装したおかげで、風雨でのぬかるみなどが出来にくく、馬車での移動が早くなったとか学校で習った。

 だけど、石畳を車体に直接つけられた木製の車輪で走るんだぞ?

 ガタガタという細かい振動が絶対にある! 

 信じられない人は一度ウィーンにでも旅行して、石畳の街道を走る馬車に乗ってみて欲しい。

 現代の馬車だから、しっかりとゴム巻きの車輪でサスペンションも付いている馬車だが、ぽっくぽっくとゆっくり目の速ででも、結構揺れるし、クッションの良い座席ではあるが首やお尻が痛くなる事、間違いないのだ!

 現代地球でもそうなのだから、このちょい文明の遅れた星では言うまでもない。

 なので、徹底的に街道を滑らかしたってわけです。

 どうやったかって?

 ふっふっふ…それね、『たたき』を使ったのだよ!

 

 あれ? そもそも、何でこんな話題になったんだっけ?

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