第678話  その頃、トールは平和だった

「いや~! 平和っていいなあ~!」

 鬼の居ぬ間に…では無く、嫁の居ぬ間に…でも無く、母さんが居ぬ間のほんの一時を、俺はのんびりと過ごしていた。

「伯爵様、例のパーティーの参加者達は?」

 執務室のソファーセットで、のんびりとお茶をしている俺の傍に立つユズキが、難しい顔でそう聞いてきた。

「ん? ああ…うん…まあ、生きてたよ…」

 ユズキが言っているのは、人魚さんのサバト…では無く、乱こ…でもなく、大お見合いパーティー参加者の男達の事だ。

「生きてましたか…良かった…」

 ほっとしているユズキではあったが、俺は見た。

 地獄門の先から生還した勇者たちの姿を。

 蒸気自動車の列を出迎えた俺は、その窓から覗く参加者達の姿を、見てしまった。

 そう、帰って来た参加者たちの、干からびた姿を。

 服を脱ぎ捨て、悪魔の背中にキスをする…正しくサバトに参加したと思わせる様相の男達を。

 俺は涙を流さずにはいられなかった…人魚さん達に挑んだ勇者たちの姿に。

 

「まあ、でも伯爵様も毎晩の様に搾り取られても生きてるんですから、彼等も大丈夫でしょうね」

 何か、ユズキの中では彼等と俺が同列に扱われてる!?

「お、おま! 何て事を言うんだ! それならユズキだって、毎晩ユズカにとことん搾り取られてるだろうが!」

「んな!?」

 こいつだって、ユズカにしっとりがっつり搾り取られてるはずだ! そうだ、俺だけじゃないはずだ!

「伯爵様と一緒にしないでください! うちはユズカだけです!」

「ユズカはうちの嫁5人分とどっこいだろうが!」

「いーえ! ユズカは一人分だけです!」

「んなわけあるか! 絶対絶対、5人分の性欲とイコールだ!」

「ちーがーいーまーすーー! ユズカは可愛いんです~~~!」 

「…言ってて恥ずかしくない?」

「…ちょっと…」


 アホな言い合いをしていると、バーーーン! と執務室の扉が、何の前触れも無く開け放たれた。

「ちょっと、ユズキ! 恥ずかしい事言わないでよ!」

 跳び込んできたのは、ユズキの嫁さんのユズカだった。

「え、あ、いや…これはその…」

 お、狼狽えてる狼狽えてる。

 まあ、流石にアレは恥ずかしいよなあ。

「廊下にまで聞こえてるのよ? そんな大きな声で…か、かわいいとか…もう、もう!」

 真っ赤な顔で、ブンブン両手を振り回しながら、そんな事を言い始めたユズカ。

「いや、でも…夜のユズカってば、本当に可愛いし…」

「ゆ、ユズキだって…その…格好良い…よ? ちょっと強引なところとか…意外と野生的な所とか…すき♡」

「ぼ、僕だって…大好きだよ♡」

 俺の執務室だと言うのに、何故かいちゃつき始めたユズユズの2人。 

 何だコレ?

 俺は何でこんな背筋がムズムズするようなラブシーンを見せつけられてんだ? 

 お子様の居る家庭でこんなシーンがTVで流れ始めたら、お父さんかお母さんが即チャンネル変える様なHシーン一歩手前の場面だぞ?


「ユズカ…」「ユズキ…」

 もう、今からこの場でおっぱじめそうな感じの2人。

「んん、おっほん!」

 取りあえず、正気に戻って貰いましょう。

 俺の咳払いで、はっ! と我に返る2人。

「あ~、仲が良いのは構わないんだが、2人の部屋でしっぽりやってくれんかね…ここは、お・れ・の、執務室」

 真っ赤な顔でモジモジしていた2人であったが、ユズカが、

「では、ちょっと部屋に行ってきます! 大体、3時間ぐらいで、ヨロシク!」

 そう言うや否や、ユズキの腕を抱え込み、ずりずり引きずって部屋を出て行った。

 うん、扉は閉めて行きましょうね。

「ほら、やっぱユズキも絞られまくってるじゃん。ま、あの調子なら子供もすぐ出来そうだな…将来安泰かな」

 俺は冷めたお茶を、ズズズッと啜りながら、窓から見えるキラキラ輝くネス湖を見ていた。

 はあ~、やっぱ平和が一番だなあ…。


 おっと、忘れるとこだった!

 蒸気自動車を貸すんで、アーデ、アーム、アーフェンは領都リーカの実家に行ってくれん? 着いたら大樹のエネルギーをガンガン使って妖精生み出しちゃってね。

 んん? ああ、生み出した妖精さんをどうするかは、3人に任せるから。

 王都の屋敷にいる妖精たち? ん~そのままでいいんじゃね?

 だって、コルネちゃんとユリアちゃんがいるんだから、ボディーガード代わりに。

 まあ、あの2人にそんな物が必要とも思えないけどね…。

 


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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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 ちょっとダークなお話し…かな?


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