第677話  本当に地下なの?

「と、言う事でじゃな、もふりんと共に皆を妾の迷路の一画へ案内せよ」

 ボーディに命じられたカジマギーは、

「はっ! 主の命ずるままに」

 一見して幼女としか見えないカジマギー。

 もふりんと並べると、年齢的には変わらない様に見えるのだが…

「かっちゃん、いっしょにあんないちようね!」

「ええ。主の迷路であれば、私にお任せください」

 会話だけを聞いていると、もふりんの幼児性が際立っている。

 というか、カジマギーの口調が大人すぎるのだろうか?


 しかし、そんなカジマギーの会話も、アルテアン家のレディース一行には、

「そうよねぇ。こんなに可愛い娘なのに、カジマギーなんて可愛くないわ。かっちゃん…いいじゃない!」

 ウルリーカは、カジマギーの呼び方が気に入った様だ。

「ええ、本当に可愛いです…ぎゅ~ってしても良い?」

 メリルは両手をワキワキさせながら、はぁはぁと息も荒く、非常に怪しい動きでカジマギーに迫る。

「もふりんちゃんも可愛いですよねえ」

 そんなメリルは目に入らないのか、もふりんを見てホッコリしているのは、ミルシェともう一人、

「ええ…私の子供も…もふりんちゃんみたいだったら…」

 何か妄想を始めていたミレーラ。

「ふむ。モフリーナ殿の眷属のふりん殿も、ボーディ殿の眷属のカジマギー殿も、見た目にそぐわず優秀だな」

 冷静な分析を始めたマチルダ。

「確かにな。戦いでも見た目に惑わされては、痛い目を見るからな」

 微妙にズレているイネス。

 そんなアルテアン家の女達を一歩引いた所で見ていたナディアは、『この人達、面倒くさい』と、思っていたとかいないとか。

 カジマギーはメリルに抱きしめられ、ウルリーカに頭をわしゃわしゃ撫でくりまわされ、ミルシェとミレーラがもふりんと何故か手を繋いでクルクル回り、マチルダが腕を組んで顎に手を当てて難しい顔で考え事をし、イネスが何か納得顔でうんうん頷く。

 わちゃわちゃと騒がしい団子状態となっていた一行であったが、ナディアの一言で次の行動へと移る事になった。

「皆様、あまり時間も無い事ですし、そろそろボーディ様の地下迷路型ダンジョンへと案内していただいては?」

 もふりんとカジマギーを含め、全員が『はっ!』と、声を揃えた。

 ナディアも、『完全に目的を忘れてましたね…』と思ったが、言葉にせずに飲み込んだ。


「そ、そうでちた! い、いそいでいかないと!」

「承知。では、我が主のダンジョンへと参りましょう」

 揉みくちゃにされながら、もふりんが慌てて、カジマギーが冷静に、全員に声を掛けた。

「いまから、かっちゃんのあんないで、めいきゅうにいきまちゅ。こころのじゅんびはよろちいでちゅか?」

 もふりんが、急に真面目な顔でそう告げた…撫でりこ撫でりこされまくっていたため、髪の毛はボサボサだが。

『はーーい!』

 ナディア以外の全員が、声を揃えて返事する。

「では皆様、これより地下の迷路型ダンジョンへとご案内します。カウントダウン開始…3…2…1…」

 心の準備などとても出来ない様な短い時間で、あっという間にカウントダウンを始めたカジマギー。

「GO!」「ごうー!でち」

 その掛け声を最後に、またまた風景は一変するのであった。


 転移したのは、大陸の地下に広がると言う、ボーディご自慢の迷路型のダンジョンの一画。

 地下の迷路と聞いていた一行は、そのあまりにも地下らしからぬ様相に、面食らっていた。

「ちょっと、かっちゃん…ここって本当に地下なの?」

 キョロキョロと辺りを見回したウルリーカは、どうにも信じられないとばかりに、カジマギーに詰め寄る。

「はい。主の管理する地下迷路の一画にございます」

 そう言われるのは想定内とでも言うように、ごく自然に落ち着いた対応をするカジマギー。

 誰もが驚くのも無理はない。

 何せ、ここには空があるのだ。

 しかも、燦々と輝く太陽もある。

 もちろん、太陽の光が暖かく降り注いでいるのは、体中で感じている。

 しかも緑の香りを乗せた風も吹いている。

「疑似的に外の風景を再現しました。視覚、嗅覚、触覚、聴覚に関しては、ほぼ完璧に再現できているかと思います」

 自慢げにカジマギーが言うだけの事はある。

 更に驚くべきことに、辺り一面、空高くまで伸びた樹々が生い茂り、視界いっぱいにそれが壁まで成しているのである。

「これは、茂み…いえ、生垣かしら?」

 メリルの視界いっぱいに広がるのは樹ではある…が、それは明らかに生垣と言った方が良い緑の壁。

「はい、その通りでございます。この生垣がこの迷路の壁となっております」

 カジマギーが生垣の葉を愛おしそうに撫でる。

「よく見たら、すっごい棘がいっぱい生えてますよ?」

 ミルシェがその緑の壁に近づき、そっと葉っぱをどけると、人の指ほどもある凶悪な棘が顔を出す。

「皆様、その棘には出来れば触れぬ様にお願いします。毒を持っておりますゆえ。とは言っても、この生垣を故意に破壊しようとするか、乗り越えようなどとしなければ、毒は出ない様になっておりますが」

 カジマギーは何でも無い事の様に、平然と説明するが、一行は生垣から一歩二歩と後退る。

「勿論、今から皆様をご案内する場所の生垣には、棘の様な怪我の恐れの有る物は排除してありますので、ご安心を」

 一行の遊び場は、ちゃんと遊び場として場を整えてくれているらしかった。



☆ブックマーク、レビュー、★、感想などいただけましたら、

小躍りして喜びます (o´ω`o)


☆新作始めました。こちらも、どうぞ <(_ _)> よろしくお願いします

 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297

 ちょっとダークなお話し…かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る