第679話  かっちゃんの講義

 地下の迷路型ダンジョンは、地下らしからぬダンジョンであった。

 用意された訓練用の区画へと、一行は移動しながら、カジマギーによるダンジョンの解説を聞いていた。

「このダンジョンは緑の壁によって造られた迷路ではありますが、ある法則に従って緑の壁が規則的に移動する事によって、迷路の形は刻々と変わります」

 しかし、この一言にマチルダは違和感と言うか疑問を持った。

「カジマギーさん。迷路と言うのは、一定の形状をしているからこそ迷路であって、それだと迷宮に分類されませんか?」

 この世界においても迷路と迷宮は明確に区別されている。

 なのでマチルダが疑問に感じるのも、分からない話では無い。


「それは些か誤解がある様ですね」

 マチルダの問いに、カジマギーが応じる。

『誤解?』

 しかし、その言葉に、更に頭を悩ます一行。

「ええ。迷宮と迷路には、大原則があります。それは、どちらも入り口があり出口があると言う事です」

 その説明は理解できたのか、全員がうんうんと頷いた。

「そして、迷路とは物理的な物であり、迷宮とは精神的または感覚的な物なのです」

 だが、この説明は理解できなかったのか、全員が首をひねる。

「つまり簡単に説明しますと、迷路とは入り口から複雑に入り組んだ通路や分岐を選択し、非常に出口を探すのが困難な施設を指します。対して迷宮とは、入り口から出口までは分岐などが無い一本道ではありますが、その道中に複雑な仕掛けや強大な敵が配置されており、出口を目指すのが困難な物であり、賢者や強者であれば容易に出口を目指せるものですので、感覚的な物となります」

 余計に混乱してきた女性陣ではあるが、ここでナディアが口を開く。

「では、迷路型とは複数の分岐があり、正解を選び続けなければ出口へとたどり着けないという事ですか?」

「仰る通りです」

「そして迷宮とは、罠や敵などを考えない場合、ひたすら道沿いに進めば、出口にたどり着けると?」

「はい、その理解で間違いございません」 

 このナディアとカジマギーの会話で、何となく理解する事が出来た、アルテアン家の脳筋レディース。

「で、ですが…壁が勝手に移動して迷路の形が変わるのって、規則的に大丈夫なんですか?」

 ここでやはりマチルダが疑問の声をあげる。

「ルール的にはグレーゾーンと言ったところでしょうか。迷路に設置されている壁の総延長に変化が無ければ、こういった改造も特に禁止はされておりません」

「なるほどねえ…」

 この解説には、ギリギリを攻めるのが好きなアルテアン家の女性陣には、すんなりと受け入れられた。

「ちなみに、モフレンダ様の迷宮型ダンジョンも、やはり一筋縄ではいきません」

「ほう!」

 これに喜んだのは、脳筋レディースNo.1のイネス。

「先ほども言いましたが、迷宮とは一本道のはずですが、途中の通路が異常なのです。皆様は、ダンジョンの通路と聞くと、どうのぐらいの幅を想像されますか?」

「幅か…そうだな…剣を振りながら動きまわれる幅ぐらいでは無いのか?」

 脳筋イネスは、自分の剣を叩きながら答える。

「ええ、一般的にはそうですね。しかしモフレンダ様の迷宮の場合、全力で半日走り続けてやっとたどり着けるほどの広さが四方に広がっております。しかも出口が遥か高い壁の上にあったりもしますね」

「そ、それは…本当に大丈夫なんですか?」

 それを想像したミルシェが訊ねたが、

「はい、大丈夫です。一見して部屋や巨大な空間に見えても、それは一風変わった通路なのだと設定すれば、特に問題も無く認められます。さすがに一般的な人が通り抜けられない様な狭い通路などは認められませんが、迷宮としての体を成していれば問題ございません」

『へぇ~』

 納得はしていないが、何となく理解した…っと言った感じの、声が全員から漏れた。

 詰まる所、基本的なルールさえ護っていれば、あとはアレンジし放題なのがダンジョンであり、迷路型であろうと迷宮型であろうと、そう大差はないのだ…と、アルテアンの女性陣は考えた様であった。


「あ、そう言えば…モフリーナさんは、迷路型なんですか、迷宮型なんですか?」

 ふとメリルがもふりんに声を掛けた。

「あ、あれ? もふりんちゃん…は?」

 カジマギーの説明を聞きながら、のんびりと歩いていた一行であったが、気付くともふりんが居ない。

 あたりをキョロキョロと見まわすと、遥か後方に座り込んで動かないもふりんが…多分寝てると思われる。

 思わずイネスが駆け寄ろうと一歩足を踏み出すと…

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…』

『あっ!』

 緑の壁が動きだし、座り込んで寝ていたもふりんの姿を隠してしまった。

「ちょ、カジマギーさん、壁が!」

 それは誰の声だろうか? もふりんが迷路に閉じ込められたと焦っている様であった。

「はあ、仕方ありませんね…。皆様、ご安心ください。私はこのダンジョンの管理権限を持っておりますので、逸れても…この通り」

 皆の目の前に、もふりんが一瞬で姿を現した。

「この様に、転移させることが可能です。というか、何で寝てるのですか、このお馬鹿は」

 ぺしんっ! とカジマギーがもふりんの頭をはたくと、

「ほぇ?」

 と、もふりんが目を覚ます。

「起きなさい! 貴方は皆様方をご案内するホスト役なのですよ!

「だって、おはなしがながすぎまちゅ! たいくつでち!」

 これには全員が一斉に、

『はぁ~~~』

 と、長い溜息をついた。 


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